ブルマ←トラ×パンを打ち出したシリーズの、一応の最終話になります。
少しですが加筆しました。 内容に関するクレームは、固くお断りいたします。]
ある夜を境に、パンと連絡がとれなくなってしまった。
携帯が、通じなくなってしまったのだ。
彼女の家は
もちろんのこと、
通っている学校だって
よく知っている。
だけど・・・。
思いあまった
おれは、悟飯さんと直接 話をすることにした。
助教授として勤めている大学の方へ、足を運ぶ。
悟飯さんは穏やかな口調を崩すことなく、
おれが最も聞きたくなかった言葉を口にした。
そして、本人に会って話がしたいと詰め寄る
おれに、こう続けた。
『パンが君を避けてるのなら、僕の口からは言えないよ。』
・・・
自宅には
いない。
進学の準備のために、知人の家に世話になっているというのだ。
『本気で会いたいと思ってるなら、探し出せるだろう。
パンは、普通の子じゃないんだ。』
そうだ。 サイヤ人の血が流れている彼女の持つ、強い気。
それを探れば、この地球の何処にいたって見つけられる。
その時は、本気で
そう思った。
おれは甘かった。
パンの気は確かに、普通の人よりは
ずっと強い。
だけど、戦っているわけではない
通常の・・・
特に、テンションが下がっているような時には、簡単には見つけられない。
どの辺りにいるのか
まるで見当がつかないのなら、なおさらだった。
こうなったら仕方がない。
悟天に全てを打ち明けて、味方になってもらおう。
実家を出て、都で一人暮らしを始めてから
もう長いけれど
ちゃんと話せば
力になってくれるはずだ。
とりあえず電話をしてみようと思い、携帯を取り出した、まさに
その時。
乗っていた車の窓から、本人の姿が見えた。
この偶然を逃す手はない。
雑踏の中、車を乗り捨てる形で、おれは奴を追いかけた。
「悟天!」 「え? あっ、トランクス・・。」
驚いている。 けど、
おれだって驚いた。
悟天は、女を連れていた。
人混みの中をはぐれないよう、しっかりと手をつなぎながら歩いていた
恋人らしき女、
それは・・・
「ブラ。」 「お兄ちゃん・・。 あ、あのね、 これは・・」
ブラが、つないでいる手を離そうとする。
だけど、悟天は
そうしない。
「おれたち、付き合ってるんだ。 内緒にしてたのは悪かったけど。
近いうちに、ちゃんと挨拶に行くつもりだよ。」
「わたしが、まだ
いいって言ったの。」
ブラが悟天を止めた理由は、よくわかる。
以前、パンとおれにも似たことがあった。
あれは同じ理由だろうか。 少し、違う気がする・・・。
いや、それよりも今は、パンの居場所だ。
「その話は、また改めて聞くよ。
悟天、知ってるなら教えてくれ。 パンは今、どこにいるんだ。」
「? パン? 学校は・・ 試験休みか。 家にいないのかい?」
やっぱり知らないのか。
「頼む。 おれの名前は出さないで、家族から聞き出してくれないか。
おまえにしか・・
」
切羽詰まっているおれに対し、呑気な声で悟天は答える。
「おかしいなあ。 2〜3日前に家に顔を出したんだけど、その時には
ちゃんといたよ。」
「なんだって・・?」
「離れの方にいることが多いみたいだったけどね。
大学に入ったら忙しくなるから、今のうちに おばあちゃんの手伝いをいっぱいしておくんだって。」
「サンキュー。」
それだけを言って、おれは踵を返した。
人通りの少ない路地に入って
すぐ、地面を蹴って宙に浮かんだ。
車を置きっぱなしにしてきたけれど、戻っている暇なんか無い。
猛スピードで、おれはパオズ山へ向かった。
「パンって、呼び捨てにしてたね・・。」
「あの二人も、付き合ってたってこと?」
悟天とブラが
そんな話をしていたことも、
今のおれにはどうでもよかった。
午前中は勉強をして、お昼ごはんは おばあちゃんと一緒に作った。
その後は、久しぶりに道着に袖を通してみた。
やっぱり、身が引き締まる。
外に出て、裏山で体を動かす。
こうしていると何だか、うんと小さかった頃のことを思い出す。
あの頃、わたしは まだ知らなかったかもしれない。
自分が、女の子だということを・・・。
昨夜は不思議な夢を見た。
現実離れしているくせに、ひどくリアルな、まるで映画のような夢。
あれは きっと、トランクスと最後に会った日に、彼が口にした一言のせいだと思う。
『王子だからこそ、好きな女を自分のものにできるんだよ。』
・・・
夢の中身は こうだった。
あきらかに地球ではない、こことは全く別の世界。
もしかすると あれは、惑星ベジータだったのだろうか。
裕福とはいえない暮らしの中で、
少しでも力をつけるべく、自分を鍛え上げること。
ただ それだけが、わたしの楽しみだ。
なのに ある日、城から迎えがやってくる。
この星の王子に、所望されたというのだ。
話には聞いていた。
王子は たびたび家来に命じて、若い女を自分の元に連れて来させる。
けれど飽きたり、機嫌が悪くなると あっさりと殺してしまう。
だから この星は、女の数が少ないのだ。 そんなふうに言う者までいた。
冗談じゃない。 そんなことは まっぴらだ。
わたしは抵抗した。 だてにトレーニングは積んでいない。
だけど、多勢に無勢だった。
一時は罪人のように扱われたものの、結局は寝所で王子を待つ羽目になった。
それでも わたしは思っていた。
言いなりになんかなるもんか。
殺されたって構わない。 自慢の顔に、傷のひとつもつけてやる・・・。
けれども、そうはならなかった。
寝所に現れた王子が 目元につけていたメカをはずした瞬間、
わたしは目を奪われてしまった。
髪がすみれ色に、瞳は青に変わったからだ。
この星の人間の髪と瞳は、全て黒であるはずだ。
そうではないということは、つまり・・・。
信じられない。
純血至上主義の この星で、トップの座に君臨している王子が、
混血だったなんて。
『このことはな、おれと直に会った奴はたいてい知ってるんだよ。』
やや乱暴に、顎を掴まれる。
『なのに あんまり広まらないのは、おれを怒らせて、殺されちまうことを恐れてるからだろうな。』
ひとり言のように そう つぶやいた後、わたしの体を組み敷いた・・・。
よく知っている、大きな気が近づいてくる。
間もなく 背後から、わたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「パン。」
それは、夢の中で聞いた声と同じだった。
「どうして? 仕事は
どうしたの?」
「休みだよ。 別に、365日
働きづめってわけじゃないんだ。」
軽口のような言葉の後で、
おそらく一番言いたかったのであろう疑問をぶつけてくる。
「どうしてって、こっちが聞きたいよ。 なんで電話に出てくれないんだ。」
「携帯は、パパに預けたの。
取り上げられたわけじゃないのよ。 自分から、渡したの。」
一人で考えたかったから。
そう付け加える前に、トランクスは
つぶやく。
「悟飯さんを訪ねた時、パンは家にいないって言われたんだよ。
進学の準備のために、知人の所に行ってるって。」
静かな声。
けれど わずかに、怒りが込められているのを感じた。
「大学の話を聞くために、パパが紹介してくれた人の所へ行ったのは本当よ。」
「その相手って、男?」
「そうだけど・・。 どうして
そんなこと、」
「もしかしたら、見合いじゃないかって思ってさ。」
「まさか。」
呆れながらも
わたしは、以前から思っていたことを尋ねてみる。
「トランクスの方こそ。 ふさわしい人との、そういう話があるんじゃないの?」
「あるわけないよ。」
ぴしゃり、という表現がぴったりの口調で続ける。
「自分の子に、そんなことを勧めるはずないさ。
あの母さんが。」
「・・・。」
あの日。 あの、最後に会った日。
眠る彼が発した
たった一言で、わたしの中の疑惑は確信に変わった。
この人は、自分の母親を、女として見ている・・・。
何も言わずに
わたしは、その場から飛び去ろうとした。
けれども
追ってきた彼の両腕に、あっという間に捉えられてしまう。
「離して・・・。」
「おれのことがイヤなら、振りほどいて逃げればいい。 パンだったら、簡単だろ。」
わたしの気持ちにトランクスは、果たして
どこまで気がついているんだろうか。
夢の中でのやりとりが、脳裏に再び
よみがえってくる。
まるで
調べ上げるような手つきでの愛撫の後で、王子である彼は こう告げた。
『まだ子供だな。 仕方ない、もう少し育つまで待ってやるか。』
そして本当に、それ以上のことはせずに眠ろうとした。
『・・それまでに、ここから逃げるわ。』
わたしの髪に、顔を埋めるようにして彼は答える。
『構わないよ。 何処までだって追ってやるさ。』
『どうして、』
わざわざ待たなきゃいけないの?
いくら女が少ない星といっても、代わりがいないわけじゃない。
何故わたしなの?
返ってきた答えに、わたしは本当に驚いた。
『おまえは
この星の女と、どこか違う気がするからだ。』
わたしの髪と瞳は黒だ。 だから誰にも、気付かれなかった。
そう。 わたしの母親もまた、この星の者ではなかったのだ・・・。
今、後ろから抱きすくめている
この人に、同じ質問を投げかけたとしたら。
いったい、何と答えるだろうか・・・。
その時。
「パンーーー。」
大きな声で、呼びかけられる。
「遅いと思ってたら、何やってるだ。」
「おばあちゃん。」
トランクスが、腕の力をゆるめた。
彼と一緒に、地上へ下りる。
「もう、家に入れ。 トランクスもだ。 ちょっと早いけど、夕飯を一緒に食べていけばいいだよ。」
「いや、おれは・・。」
恐縮している様子のトランクスに向かって、おばあちゃんは
きっぱりと言った。
「いいから、来るだ。」
そして、笑いながら続けた。
「遠慮なんか
似合わねえだよ。
昔は悟天と一緒に、家じゅうの食べ物を おやつ代わりに食っちまったくせに。」
「まいったな・・。」
トランクスの口元には、笑みが浮かんでいた。
それを見たわたしも、少しだけ笑ってしまう。
こんな気持ちになったのは、とても久しぶりのような気がした。
「今日、トランクスくんが来たわよ。」
遅くに帰宅した夫に向かって、ビーデルが告げる。
「あなたとも
ゆっくり話がしたいから、近いうちに また来るって言ってたわ。」
「・・・。」
「どうして、パンが家にいないなんて言ったの?」
「傷つくのを、見たくなかったんだよ。 あんまり幸せそうに見えなかったからね。」
「そうかしら・・。」
悟飯が、妻の顔を見た。
「うんと幸せな時があるからこそ、傷つくこともあるんじゃないかしら。」
返事は返ってこない。
けれど
気にせず、ビーデルは続ける。
「その幸せは
もう、わたしたちにはあげられないものだわ。」
深いため息とともに、悟飯は言った。
「・・・。 認めてやれってこと?」
「携帯ね、
パンに返しておいたわ。 いいでしょ?」
「別に、取り上げたわけじゃないよ。」
「うん、 わかってるわ。」
笑顔でうなずく妻に向かって、悟飯は続ける。
「もしかして、僕も君を傷つけたことがあった?」
「えーっ? ・・ 」
しばしの沈黙。
明るい色の瞳を、さらに大きく見開きながら ビーデルは答えた。
「無いわよ。 不安や戸惑いなら、そりゃあ たくさんあったけど。」
「こっちのセリフだよ。 僕だって・・・。」
頭を もたせかけていた妻の、肩をぐいと引き寄せる。
苦笑いが、ほほえみに変わる。
「しょうがないわよ。 あの子、もう18だもの。
あの時の わたしたちと おんなじ・・・ あっ、」
最後までは言葉にできなかった。
連絡を絶っていた本当の理由は、言わなかった。
これからも
多分、話すことは無いと思う。
トランクスの心の奥を、覗くことが怖いから。
とてつもない幸福感だけでなく、
これまで全く知らなかった苦しみも与えてくれる
トランクス。
でも これからも、わたしは彼に会い続けるだろう。
理解することは到底できない。 解決することは、おそらく無い。
そんな思いも含めて、たった一人の男の人を愛してゆく。
おばあちゃんは
まさにそういう人だし、ブルマさんだってそうだ。
ママは、どうなのだろうか。
そして
悟天おにいちゃんのお嫁さんになる人も、
そんなふうに思うことがあるのだろうか・・・。
今夜も
きっと、あの夢を見るだろう。
だけど
続きはわかっている。
わたしが大人になるまで、彼は待たなくて済む。
何故なら、彼のことを愛してしまったわたしは、自分の方から・・・
ベッドから起き上がり、返してもらった携帯を手に取る。
自分から
かけることは、これまで あまりなかった。
「もしもし、トランクス、 わたしよ。」
でも、これからは違う。
「会いたいの。 ううん、
」
わたしが、会いに行くわ。