『kiss mark』
[ ささげものにupしております『いじわるな唇』を広げたような内容です。
ブルマは二人のことを気づいていた・・というお話が書きたかったのですが
これまでのトラパン話とは別ver.のようなかんじになりました。]
ホテルの部屋の、大きな鏡の前で わたしたちはキスをした。
何度目なのか忘れてしまった頃、トランクスは ひょい、とわたしを抱き上げた。
ベッドの上に寝かされる。 覆いかぶさったトランクスが、また唇を重ねてくる。
さっきよりも、もっと深くて長いキス。
ようやく解放されて 溜息をもらすと、彼はわたしの着ているブラウスのボタンに手をかけた。
「トランクス・・。」
「脱ぐだけだよ。 しわになっちゃうだろ。」
トランクスは、優しいけれど強引だ。
こんなふうに触れられると、体に力が入らなくなる。
まぶたを閉じて、身をまかせることしかできなくなる・・・。
「パンが いやがることはしないよ。」
嘘ではないと思う。 だけど 困ることは、きっと、たくさん する。
「・・・っ 」
舌先が、指が、下着だけを着けているわたしの肌の上を這う。
少し前までは、くすぐったいだけだった その行為。 なのに、今では・・・
「あ、 あ ・・・ 」 「そんな声、出すなよ。 我慢できなくなるだろ・・。」
トランクスの指先が、わたしの体の中心にある敏感な部分を捉えてなぞる。
下着の上から 短い距離を、何度も何度も往復する。
「トランクス、 お願い、 もう・・・ 」 「やめる? それとも、 」
その時。 電話が鳴った。 携帯だ。 わたしのじゃない。
「ちぇっ、 何だよ。 日曜だってのに、まったく。」
そしてわたしに 「待ってて。」 と短く言って、体を離した。
少しの間、彼はじっと 携帯の小さな画面を見つめていた。
ようやく出る。
「もしもし。 どうしたの?」 仕事の電話じゃないみたいだ。
「今日は・・。 今、ちょっと人と会ってるんだ。」 誰? もしかして ・・・
「後でかけなおすよ。 じゃあね。」
素っ気ない受け答えの後、彼はベッドに戻ってきた。
「ごめん。 音を切っておくのを忘れてた。」 わたしの肩を抱き寄せて、頬に短いキスをする。
「女の人から・・?」 「え? ああ。 まあ、そうだけど。」
悪びれることなく、口の端に笑みを浮かべて付け加える。
「母さんだよ。」
「・・そろそろ帰らなきゃ。」 トランクスの腕を解いて、わたしは起き上がった。
「もう少し いいんだろ。」 「うん。でも、早い方がいいから。」
ベッドから下りて、服を着ようと腕を伸ばす。
その瞬間 背中から、強い力で引き寄せられる。
「わかったよ。 じゃあ、今日は送らせてよ。」 「でも・・ 電話、 いいの?」
それに答えず、彼はわたしの胸元に唇を寄せた。
これまでにも、そして ついさっきだって何度もされたことなのに、何かが違う。
ただ触れるだけじゃなく、 強く、 まるで 吸いついてくるような感触。
唇が離れた後、そこの部分を見て 驚いた。
「え・・?」
思わず、自分の唇を押さえる。 口紅が まだ、残っているのだろうか。
その仕草で トランクスは察したようだ。 「違うよ。 口紅じゃない。」
笑いながら続ける。 「強く吸うと、つくんだよ。 内出血だな。 ・・この辺ならつくかな。」
そう言って わたしの唇に、自分の腕の内側を当てさせる。
「少しだけ口を開けて、軽く歯を立てるようにしながら 吸ってごらん。」
数秒後、 トランクスの一の腕には、わたしの胸にあるそれと 同じ色の痕が残った。
「キスマークってやつだよ。 普通は 自分に恋人ができるまでは知らないのかな。」
そして、こんな話を付け加える。
「うっかりつけちゃうこともあるけどさ、 たいていはわざとなんだよ。」
「何のために?」 わたしの質問に、彼はこう答えた。
「俺のものだって、知らせたいからだろ。」
その後 わたしの耳は、小さくつぶやいた短い言葉をとらえてしまう。
「もう じゅうぶん、わかってるのにさ。」
部屋を出て、エレベーターを降りて ロビーへ出る。
「やけに人が多いな。 結婚式があるのか。」
いつもは 静かなその場所が、ドレスアップした人たちで にぎわっていた。
「ここの式場、コネがなきゃダメなんだよ。 知り合いに会いそうだな・・。」
そう言って わたしの肩を抱くようにして、足早に通り過ぎようとした その時。
「トランクス?」 聞き覚えのある声に呼び止められた。
「母さん・・・。」
ブルマさんだった。 紫がかった、ローズ色のドレス。
ゆるく巻いた 薄いストールに隠されているけど、胸元の白さがひどく まぶしい。
「誰かの結婚式だったの?」 トランクスが尋ねる。 だから さっき、電話をかけてきたのだろうか。
「そうなのよ。父さんの古い友達のお孫さんのね・・ って、 えっ? パンちゃんなの?」
「こんにちは。 お久しぶりです。」
お辞儀をしたわたしと、トランクスの顔を交互に見つめる。
「えーっ、 こんな所で一緒ってことは、もしかして・・ 」
違います。 進路の相談に のってもらっていただけです。
思いついた言い訳を口にする前に、トランクスは はっきりと告げた。
「そうだよ。 少し前から 付き合ってるんだ。」
ブルマさんは 青い瞳をさらに見開き、少しの間 黙っていた。
だけど すぐに、とっても うれしそうな顔になった。
「そう。 そうだったの・・。 そうよね、全然 不思議じゃないわよね。」
「・・もう行くよ。 パンを送らなきゃいけないから。」
「あ、じゃあ・・ 失礼します。」
立ち去ろうとする わたしたちに、ブルマさんが声をかける。
「トランクス。遅くなってもいいから、今日は家に帰ってきなさいよ。」
そして、こう付け加えた。
「パンちゃん、 トランクスをよろしくね。」 ・・・
車の中。 「わたしなら よかったのに。 今日は時間も早いんだし。」
つぶやいた わたしの言葉に、トランクスは やっと口を開く。
「そんなこと、できないよ。」
だけど そう言った後で、また 黙り込んでしまう。
しばらくのち。 車はようやく わたしの家の近くにたどり着く。
「ここでいいわ。 どうもありがとう。」
「待って。」 ドアを開けようとした わたしの腕をつかんで、もう一度シートに座らせる。
「おれも、パンの家に行くよ。」 「えっ?」
「ちゃんと挨拶しておいた方がいいだろ。」 トランクスは再び、車を走らせようとする。
「待って。今日はいいわ。 お客さんも来てるし・・。」
家にはクリリンさんたちが遊びに来ているはずだ。
「ちょうどいい。 いずれ わかることなんだ。」
「そんな・・ みんな びっくりするわ。」 わたしは必死だった。
「まず、ママにだけ話すわ。 それからにして。 ねっ。」
恋人が家に来て、家族や親しい人に会ってくれる。
うれしいことのはずなのに、こんな気持ちになるのはどうしてだろう。
「パンが そう言うんなら・・。」
トランクスの答えに、わたしは 心から ほっとする。
向き直って、わたしの目をきちんと見ながら彼は言った。
「パンが好きだよ。 これからも おれのそばにいてほしいんだ。」
うれしい、 わたしもよ。
何故、素直に そう言えないんだろう。
本当に? どうして わたしなの?
胸の奥にある その言葉も、口に出すことができない。
向き合っている彼の瞳が、何故だか とても、悲しそうに見えるから・・・。
「まだ、行かないでくれよ。」 「えっ?」
「もう少し。 もう少しだけ、おれと一緒にいてよ。」
「トランクス・・・。」
シートに深くもたれた わたしに、覆いかぶさる形になる。
ベッドの上での時と同じに、ついては離れるキスをして、
指先が いつの間にか、わたしの服の襟元を開く。
わたしのそれから離れた唇は、再び その場所に痕を残そうとしている。
「あ ・・・ っ ・・」
強く、強く、力を込めて・・・。
彼が残した、キスの痕。
濃い赤紫色の花びらのような それを見るたび、わたしは思い出すだろう。
トランクスの吐息の熱さを、 髪の匂いを。
ブルマさんが纏っていた、ドレスの色を。
そして・・ わたしは また、すぐに彼に抱かれると思う。
胸に残った痕が、褪せてしまう前に。