『誓い』

[ 『いじわるな唇 kiss mark』の続きで、これまでのトラパン話とは

ver. になります。(ブル←トラ×パンをはっきりと打ち出しています)]

いつもの部屋に向かう途中で、また携帯が鳴った。  トランクスからのメールだ。

『寝てるかもしれないから、チャイムを鳴らさないで。 ロックはしないでおく。』

 

言われたとおり、チャイムを押さずに ドアノブに手をかける。 

カーテンの閉まった薄暗い部屋。  トランクスは、ベッドの上に横になって 瞼を閉じている。

眠っている顔を目にするのは、初めてかもしれない。 

ううん、はっきりとは覚えていないだけで、多分あるのだと思う。

小さかったわたし。 まだ、少年だったトランクス。

わたしはベッドに腰かけて、彼の寝顔をじっと見ていた。

 

大人の男の人なのに、なんてきれいな すみれ色の髪。 

その匂いを、指を通した時の手触りを、わたしは知っているの・・・。

そんなことを思いながら 手を伸ばし、頬にそっと触れてみる。

その時。 トランクスが口を開いた。

 

起こしてしまったかと思う程 はっきりと、ある人の名前を口にした。 

もちろん、わたしのではない。

「母さん」ではなく、「ママ」でもない。 彼は確かに、その名前を口にしたのだ。

 

トランクスとこうなってから何度も考えて、そのつど否定してきたこと。

子供が、自分のお母さんを好きなのは当たり前だ。 

男の人というのは、いくつになってもお母さんが大好きだ。 

そして、彼のお母さんは きれいすぎるのだ・・。

だけど、そういうことじゃない。 そういうことではなかったのだ。

 

「パン。」  トランクスが目を覚ました。 

「来てたのか。 ・・短い時間だったけど、眠ってスッキリしたな。」

大きく のびをした彼に、こんな言葉をかけてみる。 「何か、夢を見てたんじゃない?」 

「ん? ああ、うん。 パンの夢だよ。 いい夢だったな。」

 

嘘つき。  「えっ、 何か言った?」 「なんにも。」 

短く答えて、わたしは服を脱ごうとした。 すると トランクスは何故か、その手を制する。

「いいよ、もう。」 「え・・?」

「無理しなくていいよ。 パンは、本当はイヤだったんだろ?」

「・・・。」  優しい声。

「可哀想なことをしたと思ってるよ。 

今さらだけどさ、これからは もっと、何ていうか、パンに合わせるつもりなんだ。」

「わたしに?」

「そうだよ。 今のままじゃ さすがに、悟飯さんたちに合わす顔が無いもんな。 そういえば、」

 

 

ビーデルさんに、おれとのこと話したの? 

肩に手を置いて 尋ねようとした、その時。  強い力で、ベッドの上に押し倒された。 

着ていた物を脱ぎ捨ててしまったパンによって。

「イヤよ。」 「パン・・?」

「抱いて。 いつもみたいに。」 「だけどさ、パンは・・ 」 

抑え込まれる形で、唇を塞がれる。 彼女の方からの、初めてのキス。 

やわらかな唇から、濡れた舌が入り込んでくる。

 

けど、それよりも、覆いかぶさる力の強さに 驚いてしまう。 

普通の女の子ではないってことに、今さらながら気付かされる。

そうだ。 

パンは、したくないことを強要されたら それを払いのけられるだけの力を持っているんだ・・・。

 

腕に力を入れて、体勢を入れ替える。 

「時間は平気なの?」 「いいの。 して・・。」

今度はおれの方から、仰向けにしたパンの唇をむさぼる。 

しばらく そうした後で、問いかけてみる。 

「して、って 一体何がしたいの? おれに、どうしてほしい?」

パンは答えない。 

ただし、言葉にはしなかったというだけだ。 仰向けの姿勢で、腕を伸ばして おれの手をとる。

自分の方から脚を開いて、そこの部分に触れさせる。 

「そうか。 パンは、これが大好きだもんな。」 

 

指のはらを使って、愛撫してやる。 「あ、 ・・・ 」 

「かわいい声だな。 そういえば、ちょっと気になることが あったんだ。」

「え・・? あ ・・っ !」

もう片方の手を、パンの腰とシーツの間に差し入れた。 尾てい骨の辺りを撫でる。 

「尻尾の痕だよ。 手触りがちょっと違うな、って思ってたんだ。」

後ろと前の敏感な部分。 同時に、同じように、円を描くように撫でてやる。

「あ、ん・・ ん・・っ  」 水の音がする。 腰が浮いて、動いている。

「やっぱり、気持ちいいんだ・・。」 

切ない声の漏れる唇を 少しの間 塞いだ後で、胸の先端を口に含んで吸い上げる。

「ああっ・・・」  白くて やわらかな胸。 

花のような唇と よく似た色のその個所は、固く 固く膨らんでいた。 

まるで花の蕾みたいに。

 

「もしも さ、」 

終わった後、腕の中におさまっているパンに向かって話しかける。

「おれたちが、惑星ベジータで暮らすサイヤ人だったとしたら・・ 」 

手を伸ばして、尻尾の痕に 再び触れる。 パンが、微かな溜息をつく。 

「最中には、お互いの尻尾を掴み合って 弄んだりするんだろうな。」

「トランクスは王子様で、わたしは下級戦士の子よ。 接点なんて無いわ。

だから、そんな関係にはならない ・・・ あっ ・・・」

「それは違うよ。」 

冷たいことを言った彼女を、両腕で抱きすくめる。

「王子だからこそ、好きな女を手に入れることができるんだよ。 なんとしてでもね。」

 

ほんの一瞬だけ、パンは何かを言いたげな顔をした。 けれど黙って瞼を閉じる。

ああ、 もう 離したくない。 このまま、抱き合ったままで朝を迎えられたらいいのに。 

だけど、そういうわけにはいかないだろう。

「遅くなっちゃったな。 帰らないと。 送っていくよ。」 

何も言わずに体を離し、パンは身支度を始めた。

 

ホテルの正面玄関を出て、カプセルから車を出そうとした その時。 

携帯が鳴った。 おれの方だ。 「ちぇっ、部屋に置いてくるんだったな。」

仕事関係の番号だから、仕方なく出る。 

どうも、少しややこしい話になりそうだ。 一度切って かけなおす。

そう告げようとした時、 パンはいきなり走り出し、長い横断歩道の向こう側へ行ってしまう。

「パン。」  電話を切るのも忘れて叫ぶ。 

車の行き交う道路を挟んで、向き合う形になる。

パンは おれに向かって小さく手を振り、こんな言葉を口にした。 

「いいの。」 ・・・

 

・・? 送らなくても いいってことか? だけど・・・

今日は本当に遅くなってしまった。 

送りついでに覚悟を決めて、悟飯さんたちに挨拶をするつもりだった。 それなのに。

 

電話をかけてきた相手を、おれは恨んだ。 

だけど 最も憎むべきは、黙って彼女を見送ってしまったおれ自身だ。

その夜を最後に、パンと連絡がとれなくなった。 

いや、それは正しくない。 自宅はもちろん、通っている学校だって よく知っているのだから。

携帯が、繋がらなくなったのだ。 

何かあったのなら、昔からの知り合いである うちにだって連絡がくるだろう。 

だから、そういうことじゃない。

 

孫家の方に電話をかけてみようと 何度も考えて、そのたびに思いとどまる。

理由は・・・ パンが走り去った あの時、とてもよく知っている 強い気を感じたからだ。

あれは、悟飯さんの気だった。

 

取引先を訪ねるために外に出た時、思い切って大学の門をくぐった。 

ここは、悟飯さんが助教授として勤めている大学だ。

幸いにも講義中ではなく、研究室の方にいてくれた。 

「やあ、久しぶりだね。 いったい どうしたんだい。」 

こんな所まで来たおれを、いつもの笑顔で迎えてくれる。

 

「忙しいところ すみません。」 頭を下げた後、一息におれは告げた。

「単刀直入に言います。 パンと連絡がとれなくなりました。」

「・・・。」 

「内緒で こそこそ会ってたことはお詫びします。

近いうちに挨拶に伺って、認めてもらうつもりでした。」

「君は、」 悟飯さんが口を開く。

「僕が何か言って、パンと君を会わせないようにしてると思ってるんだね。」

確かに、そう思いたかった。

 

「それは違うよ。」 おだやかな口調を、崩すことなく続ける。

「反対なんかしないさ。 相手が よく知ってる君で・・

それに、僕とビーデルだって、高校の頃からの付き合いなんだ。」

「じゃあ、今夜 家の方に 会いに行ってもいいですか。」

「家にはいないよ。 パンは今、僕の知人の所にいるんだ。 大学に入る準備がいろいろあるからね。」

学校は今、試験休みに入っているはずだ。 そこへ行くしかない。 

「どこなんですか、場所は。」

「パンが君を避けてるなら、僕の口からは言えないよ。」 

それは、もっとも聞きたくない言葉だった。 

「どうして・・ おれは、」 

「・・そう思ってたのはトランクス、君だけだったんじゃないのかい。」

 

「講義が始まる時間だ。」 

立ち去りかけた悟飯さんは、おれに向かって付け加えた。

「本気で会いたいと思ってるなら、探し出せるだろう。 パンは、普通の子じゃないんだ。」

そうだ。 サイヤ人の血をひく彼女の持っている 強い気。 それを探れば・・・

もう一度、頭を下げて おれは言った。 

「そうさせてもらいます。」

 

パン。  おれは絶対に、君のことを離さない。

君を愛することで おれは ようやく、救われる気がするんだ。 

やり場のない想い、持って行き場のない苦しみから。

それじゃ、愛ではなくて 執着だ。 構わない。 そう思われたっていいんだ。

 

あの夜、口にした言葉をつぶやく。  「おれは、手に入れる。 なんとしてでも。」  

今度こそおれは、欲しい女を手に入れるんだ。