018.『一番近くに』

第2回VB69Fes.参加作品です。

C.C.の秘密 それがどうした 七葉のクローバー』に続いていくお話です。]

ああ、 わたし、本当に死んじゃったのね。

40代になっても ミニスカートを穿きこなしていた、自慢の脚が無くなってるもの。

 

あいにく、鏡という物が無い。

だから じっくり確かめることができないけれど、

ヘアスタイルや着ている物から判断すると、どうも ここ数年くらいの姿でいるみたいだ。

天国では、一番 印象が強かった時代の姿でいられるという話を 聞いたことがある。

それって本当なのかしら。

だったら、もう少し 若い頃のルックスに戻してほしいわ・・・。

 

そんなことを考えていたら、順番がやってきた。

見上げるような巨体を、きちんとしたスーツで包んだ閻魔大王様。

この人も、いわゆる 神様の一人みたいなものよね。

その閻魔様は わたしの顔を見て、きさくに声をかけてくる。

「ブルマか。 久しぶりだな。」

そう。 わたしが この場所に来るのは二度目だ。

あの、ブウとの戦いの時にも一度来ている。 

まあ、あの時は地球上の人 ほぼ全員だったけど・・。

 

「おまえの功績は素晴らしい。 

ルール違反の方も相当なものだが、平和への貢献度は それを遥かに上回る。」

そうでしょ、 そうでしょ。 

だって、 もしも わたしがドラゴンボール探しの旅に出てなくて、

孫くんを連れ出していなかったとしたら。

この地球は まず、悪の組織 レッドリボン軍に滅茶苦茶にされてたでしょ。

そして その後は、ピッコロの手で皆殺しだったかしらね。

サイヤ人が たどりついた頃には、だーれもいない死の星になってたんじゃないかしら。

びっくりして、さぞ がっかりしたでしょうね。

 

閻魔様の話は続く。

「おまえならば、望み通りの条件で 新しい命に生まれ変わることができるぞ。」

それを聞いて、わたしは すかさず こう答えた。

「待っていたいわ。」

「なに?」

「ベジータが死んで、地獄での贖罪を終えて、生まれ変わる その時まで、天国で彼を待ちたいの。」

 

閻魔様の表情が、みるみるうちに曇っていく。

「それは・・ 難しい。 気の毒だが、すぐには叶えてやれぬ願いだ。」

「わたしの頼みでもダメなの? 結果として、かもしれないけど、わたし結構 頑張ってきたつもりよ。」

「残念だが・・。 少なくとも、今は何とも言ってやれないのだ。」

「ベジータの罪って、そんなに重いの・・。」

それを聞いた閻魔様が、静かな声で問いかける。

「生まれてから これまで、おまえは幸せだったのだろう?」

「ええ。 とっても。」

「おまえの夫であるベジータは、かつて数えきれない程の命を奪った。 それは、つまり・・・

同じ数の幸せを、無残に消してしまった。

 

そのとおりだ。

わたしは両手で、顔を覆った。

幸せすぎて、忘れていた。

わたしの愛した男は、決して消えることのない重い罪を 背負って生きているということを。

 

しばらく のち。  ふと、あることを思いついた。

「ねえ、閻魔様。」

涙を拭って、顔を上げる。

「わたしが生まれ変わることについての希望だったら、聞いてもらえるのよね?」

「ああ、 もちろんだとも。 何でも言ってくれ。」

「じゃあね、 ベジータの近くにいられる存在になりたいわ。 あの人が生きているうちにね。」

「近くにいられるというと・・ おのずと限られてくるだろう。 

新しい命、すなわち赤ん坊ということだからな。」

「赤ん坊・・。」

そうよね。 幽霊みたいに、誰かに のりうつるってわけじゃないものね。

だいたい、ベジータが わたし以外の女となんて、絶対にイヤだわ。

 

「娘のブラが、今 妊娠中なの。 あっ、でも 男の子なのよね。」

できれば やっぱり、女の子になりたいな。

「女の子の孫って、できないのかしら? 調べてもらえる?」

閻魔様は、小山のような肩をすくめて見せた。

それでも 周りに控えているワイシャツ姿の部下?職員?に命じて、担当者を呼んでくれた。

現れたのは・・・ 

「久しぶりじゃな、 ブルマ。」

「占いババさんじゃないの。 ほんと、お久しぶりね。」

挨拶の後、さっそく水晶玉を覗いてくれる。

「うーむ、 おまえさんの娘は 典型的な男腹じゃな。 五人の子宝に恵まれるが、見事に全員 男じゃ。」

「えーっ、 そうなの!」

ふふっ。 自分では戦えないけど、戦士を産んで、育てていくってことね。

 

「じゃあ、 トランクスの方はどう? あの子、そもそも 結婚できるのかしら・・。」

ちょっと心配なのよね。

強くて、ルックスも頭もいいっていうのに、恋人に関しては どうも うまくいかないみたいだから。

「おお。 こっちは大丈夫じゃ。 5〜6年先になるが、女の子ができるぞ。」

「やったあ!!」

わたしは思わず手を叩いた。 周りからも、拍手が沸き起こる。

「決まりね。 その子に生まれ変わらせてちょうだい。」

 

おじいちゃんに甘えている、小さな女の子。

その時 わたしの頭の中には、

満面の笑顔の孫くんに抱っこされている パンちゃんの姿が思い浮かんでいた。

「ねえ、 ババさん。 もう一つ教えて。 トランクスのお嫁さんって誰? わたしの知ってる子?」

 

その名前を耳にした時、 わたしは また泣いてしまった。

だけど さっきの涙とは全然違う。 心からの、安堵の涙だった。

 

「いろいろ ありがとう。 天国でおとなしく待ってることにするわ。

 晴れてトランクスの娘に生まれ変わる、その日まで。」

そう言って 深く頭を下げた後、最後のつもりで質問をした。

「生まれ変わったら、今の記憶は全く無くなるの? まるっきり、別の人間になっちゃうのかしら。」

「基本的には そうなる。 だが 生まれ持った性格、好みなどに、以前のそれが表われることもある。

 特におまえの場合は、血を分けた 家族の一人になるわけだからな。」

「そう・・・。」

 

考えてみたら わたしも、それに ベジータも、誰かの生まれ変わりだったんでしょうね、きっと。

だからこそ あんなに大変な人に どうしようもなく魅かれて、愛して・・・

うんと愛してもらったんだと思う。

 

わたしは今、目を閉じている。

次に瞼を開いた時には 青く澄んだ空と、見渡す限りの花畑が広がっているだろう。

わたしは そこで待っている。

新しい命に生まれ変わって、再び彼に会える日を。

 

「だから、ちゃんと元気でいてよね。 たくさん抱っこして、かわいがってね。」

そんなことを つぶやきながら。