『Like a virgin』
[ 結婚後、一児をもうけた後の二人のお話です。
天ブラはC.C.に同居しているという設定です。ベジブルの『・・・ばか。』
『飽きない挑戦』と併せてお読みいただけましたら うれしく思います!]
トランクスは、先々週から出張に出ている。
今日はブラちゃんに誘われて、娘と一緒にC.C.に遊びに来ていた。
楽しい時間はすぐに過ぎていき、夕飯までごちそうになってしまった。
こんなふうに過ごしていると わたしは時々、あることを思い出す。
小さかった頃 ブラちゃんは、遊びに飽きると 悟天おにいちゃんの膝にのって甘えた。
すると 所在無げなトランクスが、わたしに向かって声をかけてくる。
『パンちゃんも おいで。』
幼いながらも彼を意識していたわたしは、いつも その場から逃げだしていた。
トランクスは、そのことを よくからかう。
だけど 今、脳裏に浮かんでいるのは、それよりも もう少し前の記憶だった。
従兄たちと はしゃぎまわっていた娘は、まるで倒れ込むように眠ってしまい、
ブラちゃんがゲストルームのベッドを貸してくれた。
「・・・ちゃん、もうグッスリね。 ねえ、今夜は泊まっていったら? 起こしちゃ かわいそうよ。」
「じゃあ、そうさせてもらおうかしら・・。」
そんな会話をしていたら、携帯が鳴った。 わたしのだ。
「トランクスからだわ。 もしもし?」
予定が繰り上がり、今夜帰って来られるという。
「そうなの。 じゃあ わたしたちも帰るわ。 今ね、C.C.にいるのよ。」
「あら。」 ブラちゃんが顔を近づけてくる。
「・・・ちゃん、もう寝ちゃったわよ。 お兄ちゃんも こっちに来ればいいじゃないの。」
電話口の向こう側にいるトランクスに、聞こえるように提案する。
「ああ、それとも・・ 」
通話を終えたわたしに向かって、ブラちゃんは続けた。
「・・・ちゃんは うちでこのまま預かって、パンちゃんだけ帰った方がよかったかしら。」
その方が、二人きりで過ごせるだろうと言いたいのだ。
「やだ、何言ってるのよ・・。」 「だってえ。 何日ぶり? わたしだったら絶対・・、 」
ふふっ、と頬を両手を当てて 意味ありげに笑いながら、ブラちゃんは一人照れていた。
トランクスが帰って来た。
背広を脱ぎ、ネクタイをほどきながら留守の間に変わったことが無かったか、
それに娘の様子なんかを聞いてくる。
勝手知ったるC.C.で、彼は いつの間にかキッチンへ向かったようだ。
食事は済んだと言っていたから、何か飲むつもりなのだろう。
「トランクス、わたしが・・ 」 声をかけた途端、物が床に落ちる音が聞こえた。
「なんだ これ・・・!」
ひどく苦しげな、トランクスの声とともに。
「どうしたの? あーーーーっ!!」 様子を見に来たブラちゃんが叫ぶ。
床にはミニサイズのペットボトルが転がり、液体が少し こぼれていた。
「お兄ちゃん! これ飲んじゃったの?!」
吐き出したいのをこらえるような仕草をしながらトランクスは答える。 「飲んだよ。悪いか。」
「飲み物は たくさんあるのに、どうしてわざわざ・・。」
「カロリーが低そうなやつを選んだんだよ。 いったい何なんだよ、これは。」
「これはね、 実は・・ 」 一旦言葉を切ると、ブラちゃんは はっとしたような顔になった。
そして、兄であるトランクスの顔をまじまじと見つめる。
「若返りの薬なのよ。 わたしも半信半疑だったんだけど、ちゃんと効いてるみたいね・・。」
「若返りだって?」
トランクスは両手で自分の頬を、何度も何度も触っている。 そしてわたしの顔を見て尋ねる。
「おれ、変わった? どう見えてる?」
「・・・。」 確かに・・ 若い。
青年期の長いサイヤ人とのハーフである彼は もともと若く見えるのだけど、
今のトランクスは どう見ても高校生だ。
10代の彼。 わたしの一番古い記憶の中のトランクスだ。
「ブルマが遺した成分表を見て作ったか?」 いつの間にか、お義父さんも来ていた。
騒ぎを聞きつけて・・ではなく、感じ取ったのだろう。
ブラちゃんが答える。
「うん。 だけど、どうしても手に入らない材料があって・・ 一部は代替なの。
似た研究をしてる人のレポートも参考にしたのよ。」
「昔どおりに作ったのなら、二時間程度で元に戻れるはずなんだが・・。」
わたしは思わず口を挟んだ。 「ブラちゃん、自分で試してないの?」
言いにくそうに、ブラちゃんは答えた。 「うん・・。 ちょっとだけ、舐めてはみたんだけど。」
「だろうな。 あの味じゃな。」 トランクスが吐く真似をした。
そして、父親に向かって 彼は尋ねる。 「この薬、母さんも作ったことがあったんだね?」
お義父さんが ぼそり、と口を開く。 「ああ。 二度ほどな。」
「ふーん。 おれは知らなかったな。」
そうつぶやいた後、ブラちゃんの方を見て 厳しい声で言い放つ。
「おい。二時間経って戻らなかった責任とれよ。」
「わかってるわよ。 絶対に何とかするわ。」 ブラちゃんが、汚れた床を拭き始めた。
手伝おうとしたら、トランクスに呼び止められる。
「いいよ、そんなの。 パン、おいで。」
「・・・。」
彼の声には、有無を言わせない響きが込められていた。
娘が眠っている部屋の、隣のベッドルームを貸してもらった。
自室に置いたままだったという昔の部屋着に身を包んだトランクスは、本当に若く見える。
「だけどブラちゃんったら、どうして若返りなんて考えたのかしら。」
ブラちゃんは わたしと同い年だ。
主婦になってもお洒落に手を抜かないから、子供がいるようにさえ とても見えないと思うのに。
「・・ブラが飲むんじゃないよ。 悟天に飲ませようとしたんだろ。」
「悟天おにいちゃんに?どうして?」
わたしの質問に、トランクスは こんな答え方をする。
「母さんは あの薬を二回も作ったらしいのに、おれは知らなかった。
それは やっぱり、そういう使い方をしたってことだろ。」
一人頷いた後、わたしの目を見て彼は言った。
「パンには わかんないかもな。 だって・・ 」 そこで言葉を切ってしまう。
「なあに?」 「・・おれさ、今回の出張、本当に忙しかったんだよ。」
「うん。 わかってるわ。」
長い出張の場合、彼は いつも、ほんのわずかであっても 娘とわたしの顔を見に、家に戻ってくる。
だけど今回は、それも できなかったのだ。
「だからさ、 パンの方が来てくれるかなって思ってたんだ・・。」
その言葉で わたしはようやく、トランクスの不機嫌の理由を理解した。
ブラちゃんが作った、謎の薬を飲んでしまったせいだけではなかったのだ。
「だって、 ・・・も いるし、」 娘の名前を口にする。
「そうだね。 でもさ、おれは寂しかったよ。 毎晩、すごくね・・。」
強い力で引き寄せられる。 トランクスは、独占欲が ものすごく強い。
そのうえ わたしと二人でいる時は、そのことを まるっきり隠そうとしない。
器用な手つきで、ブラちゃんから貸してもらったパジャマを脱がされる。
自分の着ていた物も、あっという間に脱いでしまった。
ベッドの上に仰向けにされ、口を塞がれる。 重ねられた唇によって。
ようやく離れた後で、彼は言った。
「いけない、 これじゃ いつもとおんなじだよな。」
すぐ隣に、今度は自分が仰向けになる。 わたしの手をとって、起こそうとする。
「今日はパンの方から来てよ。 いいだろ。」
強引で、甘えん坊。 わたしの中にある、もっとも古い記憶の一つが蘇ってくる。
悟天おにいちゃんに、まとわりついて甘えるブラちゃん。
それを見ているトランクスは、傍らにいるわたしに いつも声をかけてきた。
『おいで、 パンちゃん。』
だけど その日は、何も言わずに引き寄せられた。 腕の中に閉じ込められる。
イヤだと一言 口にすれば、すぐに離してくれただろう。 だけど、その時のわたしにはできなかった。
彼の体温、そして 髪にかかる吐息。
うんと幼いながらも わたしは、おじいちゃんやパパ、家族とは違うものを感じ取っていた。
その時のトランクスは・・ 今と ちょうど、同じ顔をしていた。
トランクスの手によって巧みに促され、 わたしは今、彼の下半身に顔を埋めている。
太さと固さを増してくる 熱いものを、口いっぱいに頬張る。
このままでは喉がつかえてしまうだろう。 だから懸命に、舌と唇を上下させなくてはならない・・・。
溜息とともに 彼の手が、わたしの髪を何度も掻きあげる。
「うまくなったんじゃない? どうしてかな。」
わざと そんな言い方をする。 彼が わたしにしてくれることを、真似ているだけなのに。
これまでも、 これからも、 わたしはトランクスだけのものだっていうのに・・・。
「くっ・・ あ、 やばい、ゴメン!」
言い終わらぬうちに、わたしの口内は苦く ぬるい液体で満たされた。
吐き出そうとしたのに、かなりの量を呑み込んでしまった。
「ごめん、間に合わなかった・・。 こっちの方も10代に戻ってるんだな。」
口を すすがないとね。 そう言いながら彼は、仰向けにした わたしを押さえこんで唇を重ねてきた。
舌が入り込んでくる。 身じろぎひとつできないままで、口の中を掻きまわされる。
ああ そして、この後 間もなく 別の個所で、今の行為と よく似たことが行われるのだ。
唇を離した後で 彼は、舌舐めずりをしながら こう言った。
「ひどい味だな、ほんとにゴメン。 でもさ、あの薬もほんとにひどかったんだよ。」
おどけたような言い方に、わたしは少しだけ 笑ってしまう。 だけど、すぐに ・・・。
「だからさ、口直しさせて。」
今度はトランクスが、顔を埋める番だった。
執拗に苛まれる。 指と、鋭くした、濡れた舌先によって。
「あ ・・・ んっ ・・」
わたしの中からも ぬるい液体が、どくどくと あふれ出してくるのが わかった。
夫婦の寝室。
ブラは、遅く帰って来た夫に向かって話しかける。
「もう とっくに二時間経ってるけど・・・ どうだったのかしら。」
「ちょっと、聞きにいけないよね・・。」
悟天が、苦笑いを返す。
トランクスとパンが取り込み中であることは、激しく絡み合う気で すぐにわかった。
「お兄ちゃんとパンちゃんも、C.C.に住めばいいのにって思ってたけど・・。」
「いつも こうじゃ ちょっとなあー。 パンの気もまた、すごいからな・・。」
こちらの夫婦も そんなことを囁き合い、ベッドの上での距離を縮めていく。
自分たちだって同じであるということに、彼らは気付いていない。
夫の手による愛撫に身をまかせながら、頭の隅でブラは考えている。
どうやって悟天に、あの薬を飲ませようかしら。
悟天ってコーヒーも好きじゃないし、苦味のあるもの苦手なのよね。
だけど あきらめないわ。 だって わたし絶対、悟天の最初の女になりたいんだもの。
事の後。 いつの間にかトランクスは元の姿に戻っていた。
「よかったわね、 無事に戻れて。」
「うん、でもさ、ラッキーだったかな。 これで おれの最初の女はパンってことになったわけだし。」
「・・・。」
10代に戻った体で愛し合ったから・・ ということらしい。
なんとなく おかしな理屈だと思ったけれど、パンは反論しなかった。
トランクスが何歳でも好き。
だけど やっぱり、この年齢差の彼が 一番好きなのかもしれない。
家族とは別に、赤ん坊の頃から自分を見守ってくれていた人だから・・・。
そんなことを考えながら、パンは眠りに落ちていく。
愛する男が寝息をたてる、その傍らで。