070.『戦士の休息』

シャワー』の翌朝のお話です。

この10数年後が、次世代CP+悟チチの『ツマヲメトラバ』になります。]

朝。 ドアを激しく叩きつづける音で、目が覚めた。

半身を起こし、返事をする前に、重い扉が開かれる。

「ママ! おはよう!」

 

トランクスだ。 いきおいよく、こちらの方へ駆け寄ってくる。

園服を着ており、帽子も既にかぶっている。

「おはよ・・ って、 え? 今 何時?」

時計を見ると、間もなく登園の時間だった。

「あー、 やっちゃった・・・。」

 

昨夜遅くに出張から戻り、今日は代休だ。

けど、 だからこそ、 一緒に朝ごはんを食べて、ゆっくりと話をしたかったのに。

 

「ママ、帰って来てたんだね。 おれ、全然 気付かなかったよ。」

そう。 

帰宅してすぐ 子供部屋へ行き、トランクスの寝顔を確かめた。

でも、 その後はずっと・・・。

 

「ねえ、ママ。」 「ん? なあに。」 

「なんで 裸なの?」 

「あ・・ あらっ! あはは、 えっと・・・」

毛布を引き上げて、あわてて胸を隠す。

「夜、シャワーを浴びて すぐ寝ちゃったみたい・・・。」

「ダメだよ、ちゃんとパジャマを着なきゃ。 でも、しょうがないよね。

ママ、 疲れてたんだよね。」

「・・・。」

 

そうよ、と返していいものか 少し迷う。

すると、トランクスは意外な言葉を続けた。

「ママは、お仕事と戦ってるんでしょ?」

「えっ・・?」  

戦ってる?

「誰が言ったの? おじいちゃんかおばあちゃん?」

「うん。 あとはね、幼稚園の先生と〜・・

あっ、 それから、悟飯さんや悟天のママも言ってた!」

 

寂しがるトランクスを 周りの大人たちが、そうした言葉で なだめてくれたのだろうか。

胸の奥が、ちくんと痛んだ。

本当は ちゃんと起きて、幼稚園へも送っていくつもりだったのに。

小さな声で つぶやく。

「ごめんね。」 

「えっ? なーに?」 

「ううん、 なんでもないの。 今日は、帰りは ママが迎えにいってあげるわね。」

「ほんと?」

目を輝かせる。

「でも、 ちゃんと 服 着て来てね。」

「わ、 わかってるわよ・・。」

 

そして その後、こんなふうに続けた。

「あったかくしてきてね。 短い服はダメだよ。 風邪ひいちゃうから。」

「ふふっ、 トランクスは優しいのね。」

「違うよ。 パパが言ってたんだ。」

「え?」  ベジータが?

「ほんとに? なんて言ったの?」

「なんで、いつも ママの服を見て怒るの、って聞いたらね、

風邪をひくからだ、って言ってた。」

 

ぷっ。 あいつが、そんなことをね・・・。

「おれたちは強いから 風邪なんか引かないけど、

ママは ふつうのおんな だから、って。」

「へえ・・。」

 

普通の女、か。 

地球人の、 非戦闘員の、 しかも まったく鍛えていない、非力な・・

って とこかしらね。

あいつなりに、自分のやり方で、気遣ってくれるってことなのかしら。

あれでも。

 

「じゃあね、 ママ。 待ってるからね!」

「はーい。 気をつけて いってらっしゃい。」

ベッドの中から手を振って、トランクスを送り出す。

 

立ち上がり、床に落ちていたバスタオルを体に巻いた。

「さて、と。」

とりあえず、シャワーを浴びようっと。

バスルームの、ドアノブに手をかける。

けれど、そこで思いとどまる。

「ベジータの、早朝トレーニングが そろそろ終わる頃よね。」

トレーニングの後は、シャワーで汗を流すはずだ。

だったら・・・。

「お風呂の方がいいわよね。 断然広くって、脚も伸ばせるし。」

うふっ、 一緒に入っちゃおーっと。

 

あーあ。 幼稚園へのお迎えも、一緒に行ってくれればいいのに。

そしたら トランクス、どんなに喜ぶかしら・・。

何か、 うまい誘い方ってないもんかしら。

あれこれと、頭の中で考えを めぐらせる。

 

ふと 思った。

気難しいベジータとの、日々のやりとり。

これも、わたしにとっては ある意味、戦いと言えるかもしれない。

仕事と同じくらい、 ううん、もっと難しくって、

だけど楽しい、とっても やりがいのある・・・

 

重力室への連絡ツールのスイッチを入れる。

マイクに向かって、話し始める。

「そろそろ、一旦 終わりの時間でしょ。 ねえ、一緒に・・・ 」

 

言いかえされたら すかさず、こう答えるつもりだ。

「だって。 よく あったまらなきゃ風邪ひいちゃうわ。

なんたって わたし、 普通の女なんだから。」