あの時のママって、やっぱり ・・ だったんだろうな。

 

このところ おれは、チビだった頃のことを よく 思いだす。

パンちゃんや うちのブラが大きくなっていく様子や、

一緒に遊んでいるところを目にしているためかもしれない。

 

ママから、会社を抜けられそうにないという内容のメールが届いた。 

代わりに、ブラを迎えに行ってほしいというのだ。

仕方ない。 急いで幼稚園へと向かう。

これまでにも、何度か迎えに来たことがある。 いつもは、園児と親でごった返している園庭。 

だけど今日は、がらんとしていた。

いつもより、ちょっとだけ遅れてしまったせいだろうか。

 

「もうっ、 遅いわねえ。」  文句を言いながら、ブラが玄関の外に出てきた。 

「みんな もう 帰っちゃったわ。 でも・・。」

続いてやってきた、パンちゃんの方を見ながら言う。 

「パンちゃんのところも、今日は遅いのよ。」

「今日は誰が迎えにくるの?」 尋ねると、 「おばあちゃんよ。 もう、近くまで来てるわ。」 

ぱっちりとした黒い瞳が、おれを見上げて答えた。

 

毎日ではないらしいけど、ビーデルさんも仕事をしている。 

そこへ、ブラが口を挟んできた。

「みんな忙しいのよね。 うちのママなんか今朝ね、パジャマを着ないで、裸で寝てたのよ。」 

「えーっ??」 

「・・・。」

「遅くにシャワーを浴びた後、疲れて そのまま寝ちゃったんですって。」

 

また、おんなじことをやって、おんなじように誤魔化してんのか・・。

・・ じゃなくって! 

「おい、ブラ! パパとママの寝室を、覗いちゃダメだって言われてるだろ!」

口の達者なブラは、強い口調で言いかえしてくる。 

「あら、朝はいいんでしょ。 だってね、パパがわたしに言ったのよ。 いいかげん起こしてやれ、って。」

 

そして、パンちゃんに向かって こんな質問をする。

「パンちゃんのおうちではどう? パパやママが、疲れて裸で寝ちゃってることって、ない?」

首を、横に振って答える。 

「パパとママは、ないけど・・・。」

うん。 そりゃ そうだよな。 普通は、そうなんだと思うよ。

「おばあちゃんは あったわ。 少し前だけど。」

・・・えーーーーっ。

「いつも早起きなのに おかしいなと思って、お部屋を覗いてみたら・・。」

 

あ〜、 そういえば昔もあったな・・・。

夏休みかなんかに、パオズ山で朝から遊んだ時のことだ。

腹が減った 腹が減ったって、悟天の奴は やけにうるさかった。

おれは尋ねた。 『朝メシ、食ってないのか?』

悟天は答えた。 『少し食べたけど・・。お母さん、今朝、起きてこなかったんだもん。』

『えっ、大変じゃないか。 病気なのか? お医者には診せたのか?』 

『違うよ。』  

いつの間にか背後に来ていた悟飯さんが、すかさず答えを返した。 

『そういうんじゃないよ。心配いらないからね。』

そして、余計なこと言うな、とばかりに 悟天の頭を小突く真似をしていたっけ・・・。

 

そんなことを思い出していたら、聞き慣れた声が耳に届いた。 

「すまなかっただな、パン。 遅れちまって。」 

「おばあちゃん!」

パンちゃんと一緒に、ブラまで走り寄っていく。 

「ねえねえ、今日 遊びに行ってもいいかしら?」

・・・こらっ! 

「ブラ! 図々しいぞ。 今日は もうダメだよ。 じきに夕方だぞ。」

「まあ、いいだよ。 みんなでおやつを食べて、家の中で ちょっとだけ遊んだら帰ればいいべ?」

「うん!」 

チチさんからの折衷案に、ブラは素直に頷いた。

 

どうせ、迎えに行かなくてはならない。 だから仕方なく、おれもついていった。

孫家に着くと、パンちゃんとブラは まっすぐに台所へ向かった。

おれと悟天ほどではないけれど、ブラたちも結構な量を食べる。 

市販のお菓子じゃ きりがないから、チチさんの指導のもと、

自分たちの手で 簡単なおやつを作っているのだ。

これが、ままごとの延長みたいで ものすごく楽しいらしい。

・・・おれなんか、食い散らかすばっかりで、そんなこと考えもしなかったな・・。

 

テーブルの用意を始めたチチさんに、声をかける。 

「なんだか すみません、いつも いつも・・・。」

あはは、と おかしそうに笑ってチチさんは答える。 

「おめえも いいお兄ちゃんになっただな。 うちは ちっとも構わねえだよ。 

こっちこそ、いろいろ世話になってるし・・。」

 

その時。 ブラがバタバタと、台所から飛び出してきた。 

「帰って来たわ!」

? ・・ ああ、 悟天か。 よく 気付いたな。 ジェットフライヤーの音は、まだ全然聞こえてこないのに。

その様子を見て、チチさんは付け加えた。 

「それに、これから もっと 世話になるかもしれねえしな。」

 

「ただいまー。 わー、いい匂い。 いいとこに帰ってきたなー。」 

「教えてもらいながら、パンちゃんと一緒に作ったのよ。 ちゃんと、手を洗って来てね。」

悟天とブラが、そんな会話とともに 家に入ってきた、その 数秒のち。

空気が、さっと変わるのを感じた。  

「お父さん!」   悟天の、驚いた声。

「よお。 たでぇま。」 

悟空さんが現れた。 

天下一武道会の日、悪いブウの生まれ変わりだという子供と一緒に、

南へ旅立ってしまったきりだったのだ。

 

「おじいちゃん!」 パンちゃんが、胸に飛びつく。 

なのに、チチさんは何故か、台所に引っ込んでしまった。

悟空さんが、小声で尋ねる。 

「チチの奴、怒ってっか?」 

「・・・。」 そりゃあ・・・。  

おれたちが答える前に、大きな声が聞こえてきた。

「別に、怒ってなんかいねえ。 いつものことだからな。」 

「チチ・・。」 抱き上げていた パンちゃんを、下におろした。

チチさんは続ける。 

「夕飯の支度を始めるだけだ。 どうせ、腹が減ったから ちょっとだけ戻ってきたんだべ?」

 

本当に、そうだったのかもしれない。 でも・・。 

悟空さんは、台所へ入っていった。 テーブルの上にある、焼きたてのお菓子に目もくれずに。

 

「おじいちゃん・・。」 

後を追いかけようとしたパンちゃんを、おれは制した。

悟天も 「さあ、食べようよ。 おれが全部もらっちゃうよ。」 と、声をかけてくれた。

 

チチさんと悟空さんは、その後 しばらく 台所から出てこなかった。

 

 

あーあ、 なんだか・・・。 サイヤ人の奥さんってのは、ほんっとうに大変だな。

戦うことが何よりも好きで、お金を稼いでこない。 

でも それだけじゃなく、他にもいろいろとさ。

きれいで優しいだけじゃダメだ。 心が うんと強くなけりゃ、務まらないだろう。

それに・・ 何より、体の方も丈夫じゃないと ・・ その・・ 

なんて、な。

 

ふと見れば、悟天の隣を陣取ったブラが、甲斐甲斐しく世話を焼いていた。

「・・。 あーん。」 

おれも ダメもとで、パンちゃんに向かって口を開けてみた。

ちょっとだけ ためらっていた。 

けれど パンちゃんはちっちゃな手で、お菓子を口に入れてくれた。

「ありがと。 うん、おいしいよ。」 

その後 見せてくれた笑顔は、本当に、とっても可愛かった。

『ツマヲメトラバ』

シャワー 戦士の休息』の十数年後、トランクス目線です。

当初 次世代CP+ベジブルのつもりでしたが、悟チチ感が強くなったので・・。 ]