058.『シャワー』
[ セル戦後の二人です。 トランクスは5歳くらいのつもりです。 ]
一週間ほど、出張に出ていた。
本当は あと一泊して、明日 帰る予定だった。
だけど どうしても、今夜じゅうに帰りたくなってしまった。
母さんたちに任せっきりの、トランクスのことが心配だから。
せっかくの代休は、めいっぱい休みたいから。
理由は あと、もう一つ ある。 それは、もちろん ・・・。
少し無理をしてでも、早く帰りたい。
そう わたしに思わせた男は今、 寝室のベッドの上で眠っている。
枕もとのライトを点けると 彼の瞼が、いかにも不快そうに ぴくり、と動いた。
「ただいま。」 覆いかぶさり、耳元にささやく。
起きているくせに、返事をしない。 わざとらしく、背中を向ける。
ふと思った。
これって トランクスを授かる前、わたしたちの最初の頃と、ちょうど逆ではないだろうか。
夜遅く、外から戻ってきたベジータ、 眠ったふりをしていた わたし。
そう。 あの頃、この男は いつも、有無を言わさず、自分の欲望をぶつけてきたものだ。
だったら、わたしだって。
ベッドの上を素早く移動し、彼のズボンをずり下げる。
そして、まだ頼りなげだとすら思える ものを、根元まで口に含んだ。
「何しやがる・・・ 」
彼は やっと口を開いた。
別に。 元気だったかなーと思って。 心の中で そう答えて、舌で、唇で 愛撫を続ける。
「おい。」
返事はしない。 口を離してしまったら、すぐに引き剥がされるから。
「やめろ。」 手で、肩を掴まれる。
待って、 もう ちょっと、 あと ちょっとなのよ・・・ でも。
「わかった。 やめるわ。」
チュッ、とわざと音をたてて、わたしは離れた。
「また 後でね。 シャワー浴びてこようっと。」
まだ、着替えもしていなかったのだ。 部屋の中にしつらえられた、バスルームの扉を開ける。
本当は、大きなお風呂で疲れをとりたいところだ。 でも 今は、シャワーで我慢することにしよう。
服を脱ぎ、熱めのお湯を出すべく 栓をひねろうとした、ちょうど その時。
「キャッ! ちょっと!」
ドアを開けて、ベジータが入ってきた。
「ロックしてあったはずなのに・・ 壊したわね? あっ・・・ 」
片手が胸を鷲掴みにし、もう片方の手が下に伸びる。 熱い吐息が、首筋にかかる。
「あ、 ・・・ ん ・・」
まだ、お湯を出してはいなかった。 それなのに、水の音が、大きく耳に響いていた。
事の後。 わたしはシャワーで、体の汚れを流している。
もちろん ベジータにも、同じようにしてあげている。
この男は、そんなこと 当然だと考えているようだ。
あの頃、 最初の頃も そうだったから。
「出張の間ね、夜は わりと暇だったのよ。
そんなに わたしが恋しかったんなら、飛んで 会いに来てくれればよかったのに。」
「チッ、 誰が ・・・。」
「あんたの力なら、わたしの気でも、ちゃんと見つけられるんでしょ?」
トランクスは まだ、わたしくらいの気じゃ わからないみたいだ。
それでも、悟飯くんや悟天くんに遊んでもらうことで、どんどん力をつけているらしい。
なのに 父親であるベジータは、まだ 一緒にトレーニングをしてやっていない・・・。
「あいにく、俺は そんなに暇じゃないんでな。」
「・・・。」
言い返してやりたい。 けれど、今は やめておく。
来たるべき戦いに備えて、ひたすら己を鍛え続けている。 そう思うことにする。
「じゃあ、 もし 瞬間移動が使えたら。」
「なに?」
「あれなら、一瞬でしょ。 そしたら、会いに来てくれた?」
しばしの沈黙。
「フン、 くだらん。」
短い一言だけを残し、彼はバスルームから出て行った。
「ちょっと! 待ちなさいよ・・・ 」
急いで部屋に戻ってみれば・・・
ベジータときたら まったく、体を拭かずにベッドに横になっているではないか。
「もうっ、 ダメじゃないの。」 巻き付けていたタオルをはずし、水滴を拭いとってやる。
すると 彼は腕を伸ばして、毛布を 自分の肩まで引き上げた。
「えっ、 このままで寝るの?」
風邪ひいちゃうわよ、 と 言いかけてやめる。
そんな小さな病なんて、頑健な この男には、縁がないのだろうから。
代わりに、こう言ってみる。
「もし、 寝ている間に何か起きたら どうするのよ。 裸で戦うの?」
彼は 聞えよがしに、フン、と大きく鼻を鳴らした。
「・・いったい、何が起こるっていうんだ。 こんな、生ぬるい星で。」
確かに、 孫くんのいない今、 この地球で最も強いのは・・・。
あれから、平和な日々が続いている。
孫くんが、生き返ることを拒んだのは 本当に、わたしの一言が原因だったのだろうか。
でも、それは もう、考えても仕方のないことだ。
こんなふうに言ってみる。
「どこか、考えられないような所から 敵がやってくるかもしれないわよ。
あんたの強さに引き寄せられて。」
だって、 ここにいる あんただって、 かつては その一人だったのだから。
勢いよく毛布を剥いで、ベジータがこちらを向いた。
「くだらんことしか言わんな、おまえは。」
両腕で 引き寄せられて、腕の中に閉じ込められる。
「なによ、足りなかったの? まあ、そうよね。 一回だけじゃね。」
「・・ おまけに、下品だ。」
皮肉な笑みが浮かんだ口元に、自分のそれを そっと重ねる。
瞼を閉じて、覆いかぶさる彼の、髪の匂いを 強く吸いこむ。
この部屋の、バスルームに置かれている、シャンプーの香り。
自分と同じ匂いのする男になんて、欲望を抱くことはできない。
少し前、そんな記事を何かで目にした。
だけど わたしは、そう 思わない。
何故なら それは、この場所に留まって、わたしと いてくれる証の一つだから。
「ふふっ、 また 汚れちゃうわね・・・ んっ ・・・ 」
「ふん、洗えばいいことだ。」
「うん、 一緒にね。 また、一緒に ・・・ 」
あとは言葉にならなかった。
そばにいてね、 ここにいてね。 トランクスが もう少し 大きくなるまで、一日でも、長く。
それが叶わないのなら せめて、目を覚ました時、隣にいてほしいの。
一緒に起きて、そしたら また、シャワーできれいに洗ってあげる。
そんなことを思いながら、 わたしは眠りに落ちていく。
彼の隣で。 温かな、同じベッドの上で。