混血のプリンス

Made in tears』の続きで、『Lovers kiss』の数年前のつもりです。

えーっ…って感じだったり、??というところばかりかと思いますが、

抜けた部分を補間し、完成させたかったのです。とりあえず前編にあたる話をupします。

もし よろしければ お付き合いください。]

パンと共に降り立った地球。

そこには やはり、フリーザ軍の奴らが 大勢待ち構えていた。

奴らの監視のもとで ドラゴンボールを探し集め、揃ったら直ちに フリーザに献上しろということだろう。

フン、冗談じゃない。

状況によっては従っているふりをし、少し様子を見ようとも思った。

だが、もう いい。

一人残らず、片っぱしから片付けてやる。

 

人数はやたらと多かったが、手ごたえのある奴は一握りだった。

妙だとは思うが、考えても仕方がない。

それに、奴らを楽に始末できたのは パンの働きのせいもある。

パンの力は、おれが考えていたよりも ずっと上だった。

しかし これまた、思っていた以上に言うことを聞かない。

しかも それを咎めると、こんなふうに言い返してくるんだ。

「自分なりに判断してるの。 いい命令か そうじゃないかをね。」

「…。」

 

まったく、いつの間に こんな生意気な口をきくようになっちまったんだ。

ブラに預けてたのが良くなかったのかな。

いくつか命令した中で、まともに守っているのは一つだけ。

「トランクス、見て! また見つけたわ!!」

おれのことを、名前で呼ぶように命じた。

それだけかもしれない。

ともあれ おれたちは、水も草木も枯れ果てた 死の星となった地球を飛び回り、

七個のドラゴンボールを揃えた。

 

「出でよ、神龍。」

一年前と同じく、闇の空に浮かび上がった巨大な龍。

はたして、叶えてくれるのだろうか。 おれの最後の、最大の願いを。

「母さんを、せめて静かに眠らせてやりたいんだ。

 フリーザたちの手が伸びてこない、どこか安全な星に送ってやってくれ。

 父さんと… できれば家族も一緒にだ。」

ややあって、神龍は答えを返す。

「その願いを叶えてやることは、」

「できないのか。 じゃあ、どうすればいいんだ。 どこまでだったら、頼みを聞いてくれるんだ。」

 

その答えを、聞くことはできなかった。

「!」

「キャアッ!!」

パンのつけていた物も、ブラから借りてきた おれのスカウターも壊れた。

測定不能の戦闘力を持つ者が やってきたからだ。

「ああっ!!」

パンが再び、驚きの声を上げる。

神龍が撃たれた… 消されてしまったのだ。

それと同時に ドラゴンボールも、跡形もなく消えうせる。

空は薄闇に変わった。 今は、夕刻だったのだ。

そして ついに、フリーザが姿を現した。

 

供を同行させず、一人でポッドに乗っている 奴の姿は…

おれのよく知っている それとは違っていた。

変身したのだ。

おれたち、いや、おれに対する激しい怒りのために。

「見事なまでに、予想通りの行動をとってくれましたね。

 トランクスさん。 あなたって人は本当に、期待を裏切らない人ですよ。」

奴の話は続く。

「ドラゴンボールはね、覇者の証として、コレクションに加えるつもりだったんです。

 大王とまで呼ばれている父上でさえ、叶えられなかったことですからね。

 でも どうも、意地になりすぎてしまったようです…。」

 

パンに向かって、おれは命じた。

「逃げろ。 乗ってきたポッドでも、フリーザ軍の船でもいい。一番近くにあるやつに乗り込め。 

おまえだけでも生き延びるんだ。」

「イヤよ!一緒に、」

「言うことを聞け!!」

「そうそう。 さっき、人員整理してもらったことには礼を言いますよ。

 雑魚ばかりだったでしょう? 

フリーザ軍も大きくなりすぎたのでね、今後は もう少し、シンプルにいくつもりです。

おまえたちの故郷である惑星ベジータも、今頃は同じことになっているだろうよ。」

「くそっ…!!」

 

 

その時。 攻撃の構えをとったトランクスの体を、一本の閃光が貫いた。

「トランクスーーー!!」

駆け寄って、助け起こそうとする。

なのに体が、まるっきり動かない。 まるで、磔にでもされたように。

これも、あの フリーザの力…

「この私を怒らせて、苛立たせて。 

でもね、おかしなことに、だんだんと愉快な気持ちになってきたんですよ。

あまりにも、命知らずで愚かなためでしょうね。 だから これまで、泳がせてやった。

だが、それも 今日で終わりだよ。」

最後は、声色が変わった。

 

「そこの小娘。」

動けない わたしの方に向き直り、尋ねてくる。

「その死にかけの、混血の王子様を助けたいかい?」

「当り前よ!」

「これ以上は何もせず、捨て置いてやってもいいよ。」

「ほんとに!?」

サイヤ人は頑健だ。 

とどめさえ さされなければ、生き延びるチャンスはある。

「ああ。 ただし おまえが、私の所に来るならね。」

「? どうして… ?」

「強くて 美しい子供が好きだからさ。」

信じられない申し出だった。

けれど体が、動かせるようになったのだ。 

まるで今の言葉を、証明するかのように。

「わかったわ、行きます。 だから お願い、トランクスを殺さないで!」

 

地面を蹴って浮かび上がり、フリーザの元へ飛んで行こうとする。

すると、トランクスが叫んだ。

「ダメだ、やめろ! 行くな!!」

特別製のプロテクターを貫いた穴からは、赤い血が どくどくと流れ出ている。

「行っちゃダメだ、戻れ、パン!!」

「どうして? だって、生き延びろって言ったじゃない! ここで死ぬよりは、」

「あいつの言うことを、聞いちゃダメなんだ!!」

 

「おや おや。 黙っていれば、ずいぶんなことを言ってくれるね。」

フリーザが、口を挟んできた。

「おまえには、かなり優しくしてやったつもりなんだけどねえ。」

「黙れ…。」

トランクスの声が、震えている。 

恐怖ではない、怒りのためだ。

「何せ、おまえの父親の 二代目ベジータ王から、よーく頼まれていたからね。」

「黙れーーー!!!」

立ち上がり、渾身の力でエネルギー波を撃つ。

けれども それは難なく かわされ、次の瞬間 また一本の閃光が…

「トランクスーー!!」

 

フリーザに向かって、わたしは訴えた。

「約束が違うわ!!」

「ふん。 まだ、とどめは さしていないよ。

 お猿さんは頑丈だからね、このくらいじゃ くたばらないさ。」

そして、トランクスに向かって続けた。

「知っていたかい? おまえは、妹の代わりに差し出されたんだよ。

 あの時 私は、娘の方を所望したんだ。 それなのに、ベジータ王ときたら。」

「…。 もちろん、知ってたさ。 おれなら すぐに抜け出せる。

 何度も そう言われたんだ…。」

 

「なんだ、知っていたのかい。 なら、この とっておきの話をしてやろうか。

 トランクス王子、おまえの体にはサイヤの血なんて たったの四分の一しか流れていないんだよ。」

「何だと…?」

「おまえの父親である 二代目ベジータ王も混血だってことさ。

 初代の王が、どこかの星から連れてきた女に産ませたんだ。」

「まさか… 考えられない。 あの父さんが…。」

「もっとも 本人も、はっきりとは知らされていなかったかもしれないね。

 王妃のことを母と呼んでいたようだし。」

言葉を切って続ける。

「ああ、そういえば、第二王子のターブルというのもいたねえ。

 あれは純血だったはずだが、パッとしない男だった。

女を連れて逃げたそうだが、きっと、あっという間に のたれ死んだことだろうよ。」

 

空は既に、とっぷりと暮れてしまっている。

辺りは全て、闇。

厚い雲に覆われて、星のひとつも見えやしない。 でも…

「トランクス…?」

「とにかく。 血の濃さだけでいえば、そこの下級戦士の小娘の方が上だってことさ。

 まあ どちらにしても 野蛮な猿と、辺境の 遅れた星の女との混血児だ。

下等生物であることに変わりはないね。」

その言葉で、わたしの中の何かが はじけた。

 

目の前が、まぶしいほどに明るくなって、視界が ぐんと広がって、

ありえないような力が、体の奥底から湧き上がってくる。

「バカな。 何なんだ、いったい。」

フリーザの、それまでとは うって変わった、怯えているような声。

「月は とっくの昔に破壊したはずだ。 いや、違う。 まさか、これが あの、」

 

さっき 闇の中で、倒れていたトランクスの髪が、金色に変わったように見えた。

もしかしたら 今のわたしも、そうなっているのだろうか。