Lovers  Kiss

[ Innocent Love』の数年後のお話です。

あまり細かい部分は考えず、萌えにまかせて書いてしまいました。]

廃墟の壁に寄り掛かって腰を下ろし、溜息をつく。

そんな時 こいつは、いつの間にかそばにいる。  離れた場所にいたはずの時でも。

 

「何か、悲しいことがあるの?」 

そんなふうに言いながら おれの肩に手をおいて、左の頬に唇を寄せる。

こいつが・・ パンが、今よりも もっとガキだった頃、最初に会った時と同じように。

「なぐさめてるつもりなのか?」 

おれの問いかけにパンは答えず、黙って隣に座っている。

 

下級戦士とは思えない戦闘力を持つ祖父から仕込まれたというだけあって、

パンの力はなかなかのものだ。

だが、やはり女だ。 それに、若いというよりは、まだ幼さの方が勝っている。

おれが使ってやらなければ、どうなっちまうか わからない。

そんなことを考えていたら、胸の奥に苛立ちに似た気持ちが湧きあがってきた。

「本気でおれをなぐさめたいなら、着てる物を脱いで 脚を開け。」

 

怒ってこの場を離れるか、 それとも まだ、言われた意味が理解できないか。

おれの予想は、どちらもはずれた。 

「バカ、本当に脱ぐな・・。」

脱いだ物を身につけながら パンは言った。

「そうしろ、って言ったくせに。 自分勝手な王子様ね。」

 

舌打ちをして、おれは地面に寝そべった。

「フン、一人前の口をききやがって。」

「わたし、もう一人前だわ。」 同じように隣に寝そべって続ける。

「子供を産むことだって、できるもの。」

 

「・・そうか。」  おれは、妹のことを思い出していた。

 

パンの肩を引き寄せ、髪に指を通す。 

その黒い髪は 他のサイヤ人とは違って、やわらかくて やけに艶がある。

視界が悪くなるし 火の粉をかぶることもあるから、切るか束ねるかしろ。

何度そう言っても、聞きやしない。

・・今頃気づいた。  こいつの髪は、伸びている。

 

最初に会った時は、男みたいに短かった。

おれと組むようになった頃は、たしか肩につかない長さだった。

そして今では、背中まである。

サイヤ人は、遅くとも幼児期には髪の伸びが止まるはずだ。 

つまり、髪形は生涯ほとんど変わらない。

 

パンの父親は、ゴテンの兄貴だ。 「パン、おまえの母親って・・

パンは おれの胸の辺りに顔を埋めて、返事をしない。

おれは初めて会った日、こいつが言っていたことを思い出していた。

 

「・・そういえば おまえ 昔、王妃になりたいって言ってたな。」 

「言ってないわ。」 パンは顔を上げた。

「お嫁さんになりたい、 って言ったのよ。」  その言葉で、おれはやっぱり笑ってしまう。

「まだ、そう思ってるのか?」

「うん。」  けれど 一呼吸置いた後で、「ううん。」と首を横に振った。

 

「なんだよ。 どっちなんだよ。」 「どっちでもいい。 だけど、

スカウターをつけていない おれの目を、じっと見つめてパンは言った。

「トランクスの赤ちゃんは、わたしが産んであげる。 いつか、 きっとね。」

 

おおいかぶさっているパンと、自然に唇が重なった。

その唇は やわらかで、小さいくせにふっくらとしていて、離したくなくなる。

 

ガキの頃、父さんと母さんがこうしているのを 物陰に隠れて何度か見た。

一緒に見ていたブラがささやく。 『あれ、気持ちいいのかな。』 

声をおとして おれは答えた。 『さあな。』

『ねぇ、 わたしたちも してみよう・・

 

だけど パンとのこれは、あの時とは違う。  

ブラもきっと、そう思っていたんだろう。  あいつ・・ ゴテンとの時。

 

体勢を入れ替えて、仰向けにしたパンに おれは尋ねた。 「おまえ、いくつになったんだ。」

ついさっきまで 貪っていた唇が、紅く光って濡れている。 「わかんない。」

「嘘つけ。」  「15・・ 14。」

「どっちなんだよ。」  「13・・。」

 

なんだよ。 まだそんなもんか。

初めて会った日から、ずいぶん経ったはずなのに。

体を離し、溜息をついて寝転んだおれに パンは言った。

「急いで大きくなるから・・

 

「別に、急がなくてもいい。」 

妹と、ちょうど同じくらいの長さの髪を指で梳いてやりながら おれはつぶやいた。

「待っててやるよ。」