おれは、ゴテンの遺体を惑星ベジータに連れて帰った。
そういうことをする奴は あまりいないらしい。 だけど、そうしなければいけないと思った。
メディカルマシンから出られてすぐに あいつの親の所へ行った。
下級戦士は大抵の場合、生後間もなく どこかの星に送られちまう。
だから、親とは関わらずに生きていく奴が多い。
ゴテンとその親兄弟は、かなりの変わり者だってことだ。
長い髪を結いあげた母親は、棺を見ると両手で自分の顔を覆った。
だが その後で、おれに向かって深々と頭を下げた。
父親の方は こう言った。
「すまなかったな、わざわざ・・。 連れて帰ってくんの、大変だったろ。」
ねぎらうような言い方に、こんな言葉が口から出てくる。
「こうなったのは、おれのせいだ。」
おれのことをじっと見つめるゴテンの父親。
その背格好も顔立ちも、あいつに本当によく似ている。
「おれの見通しが甘かったんだ。 敵を甘く見すぎちまったから、そのせいであいつは ・・・ 」
「あいつが、しくじっちまったのさ。」
でかい手のひらで、おれの肩を ぽん、と叩く。
「仕事がうまくいったんなら、よかったじゃねえか。」
その時。 少し離れた場所から視線を感じた。
「おお、 パンか。 王子様が来てんだぞ。 挨拶しろ。」
物陰から出てきたそいつは ぺこり、と小さな頭を下げる。
子供・・・ 女か。
この男、同じ女に何人 子を産ませてるんだ。
おれの視線に気づいたらしいゴテンの父親は、笑いながら言った。
「オラの子じゃねえよ。 孫だ。 ゴテンの、姪ってやつだな。」
そして こんなことを言い出した。
「パンは なかなか見込みがあるぞ。 あと何年かしたら、ゴテンの代わりに使ってみてくれ。」
冗談とも本気ともつかない言葉に 適当に返事をしたおれは、その場を去ろうとした。
するとゴテンの姪だというチビが追いかけてきて、足もとにまとわりつく。
「ねぇ、わたし本当に強いんだよ。 おじいちゃんに修行つけてもらってるんだから。」
濡れたように黒い瞳で、おれを見上げる。
「おれより強くなるだろうって、ゴテンおにいちゃんが いつも言ってたもの。」
頭をなでてやりながら おれは答えた。
「強い奴は歓迎するよ。 今度会うまでに、もっと腕を磨いておけ。」
「うん! それとね、 あの ・・・ 」 頬を赤く染めてうつむく。
「大きくなったら、お嫁さんにして。」
おれは、自分の耳を疑った。 「妻になりたいってことか? おれの?」
こっくりとうなずく。 真剣な表情に、つい笑ってしまう。
「王妃になりたいんなら、あいにくだったな。 おれは、王になるかどうか わからないよ。」
「どうして? 王子様なんでしょ?」
おれは、スカウターのスイッチをオフにした。
おれの瞳と髪の色を見たチビは、静かな声でつぶやいた。 「きれい・・・。」
そして、その後 こう言った。 「空の色ね。」
空の色?
この星の空は、いつだってどんよりとした灰色だ。 別の星のことを言ってるのか。
無邪気な顔の このチビも、生まれてすぐに 知らない星に送りこまれて、
物心がつかないうちに一つの世界を潰したんだろうか。
「おまえ、パンって名前なのか。」
「そうよ。 ねぇ、大きくなったら ほんとにわたしのこと使ってね。」
目を輝かせてパンは続ける。
「おばあちゃんもそうやって、おじいちゃんのお嫁さんになったのよ。」
「・・相手が 純粋なサイヤ人じゃなくてもいいんなら、考えてやるよ。」
そんなふうに答えると、パンはおれに飛びついてきた。
「そういう奴は ほんとはいっぱいいるんだって、おじいちゃんが言ってた・・。」
頬に、やわらかな唇が触れる。
妹のことを思い出すけど、妹とは違う、小さな女。
パンを地面に下ろして、おれは言った。
「なるべく早く、大きくなれよ。」