Tears & Reasons

Kiss&Cry』、『旅立ち』と併せて

  お読みいただけましたらうれしいです。]

ターゲットの星に到着した。

 

科学のレベルが高いらしい こういう星の場合は、いつものように片っぱしから破壊してはならず、

施設等をなるべく残さなくてはいけない。

どの辺りから手をつけていくか、上空から視察していた時。

この仕事の相棒であるゴテンが、ある一か所を じっと見つめているのに気づいた。

「どうした。 何かあるのか?」 視線を辿る。

「いや、 何でもありません。」

 

・・・花?

ゴテンは、建造物の周りに植えてある花を見ていたようだった。

 

打ち合わせが済んだ後、俺は少し前から気づいていたことを 口にしてみた。

「おまえ、女ができたんだろ?」

照れ笑いするかと思っていたのに、どことなく厳しい顔つきになる。

「そういうんじゃありません。 下級戦士のおれは、妻を持てませんから。」

 

「俺が即位したら、法律を変えてやるよ。」

笑って言った後で、付け加える。

「王になるかどうか、わからないけどな。

 おまえたちには悪いが、俺はあの星を治めることに 興味が持てないんだ。」

 

険しい目で俺の顔をじっと見ているゴテンの前でスカウターのスイッチをオフにする。

髪と瞳の色が変わっても、奴は驚かなかった。

「俺は強くなりたいだけだ。 誰よりも。  もちろん、父さんよりもだ。」

 

「・・フリーザ様に、取って代わる、ってことですか。」

自分もスカウターのスイッチを切ったゴテンが ぼそりと呟く。

「フリーザは倒す。 だが、宇宙を支配したいわけでもない。」

「じゃあ、 一体 ・・・ 」

「俺は、ある星を取り返してやりたいだけだ。」

 

そうだ。 俺の望みはそれだけだ。 俺の欲しいものは、決して手に入らない。

だから俺は、決まった女は いらないんだ。

 

「どうしておれに、そんなことまで話すんです?」

風に煽られて 乱れた髪を掻き上げる。

「このことを知ってても おまえがついて来たから、かな。」

答えた後で、もう一度尋ねてみる。

「どんな女なんだ? おまえの女って。」

 

「目が覚める程、きれいな女です。」

まるで照れることなく、ゴテンは言葉を続けた。

「いろんな星の人間を見てきたけど、あんな女、見たことがなかった・・・。」

「抜け抜けと、よく言うな。」

 

軽口を返しながらも 俺は何故かその時、

母さんを初めて見た時の 父さんの表情を思い浮かべていた。

 

 

「やっと終わったか。 ずいぶん手こずったな・・・。」

俺は、かなり見くびっていたらしい。

やはり、破壊をせずに 住民だけを始末するというのは難しい。

それを知っていたから、普段俺にすり寄ってくる奴らは 誰もついてこなかったんだ。

あいつ以外は。

 

その時。 俺は、上空で最終確認をしていたはずのゴテンの姿が無いことに気づいた。

 

「嘘だろ・・。 おい、しっかりしろよ。」

何度も声をかけると、ようやく薄く目を開けた。

「ちょっと・・ しくじっちまいました ・・・ 」

「待ってろ。 宇宙船に戻って、生命維持装置を使えば・・ 」

連れていくために、かかえようとした時 背中の辺りに激痛が走った。

知らない間に、俺もダメージを受けていた。

 

血と灰で汚れた、奴の顔を見ると また瞼を閉じている。

「おい・・・! 待ってる女がいるんだろ。 目を開けろ。」

目を閉じたままで、ゴテンは呟く。

「こうなったのが、王子、あんたじゃなくてよかった。」

そして、確かにこう言った。

「おれは、ブラの泣き顔を見たくないんです。」

 

俺たちの周りには、あの時 奴が見ていた花が咲いていた。

 

 

ゴテンが死んだことを知ったブラは、その場に崩れ落ちた。

俺は、髪の毛が見えないようにマントで隠してブラを抱きかかえた。

 

乾いた花びらが床に散らばっている。

この花を摘んだのは、俺だった。

多分あいつは、そうしたかったんだろうと思ったからだ。

 

ブラの泣き顔を見たくない、 と あいつは言っていた。

そうだな。 ブラは泣き虫なんだよ。

チビの頃、ブラが泣きだすと手がつけられなくてあの父さんも ひどく困った顔になった。

この星に連れて来て間もない・・・

自分のものにしたばかりの頃の母さんのことを、思い出していたのかもしれない。

 

目が覚めたら、ブラは泣くだろう。

そして、泣きやまないだろう。  俺が、どんなに なだめても。

 

「バカ野郎。」

声に出すと、周りの景色が滲んで見えた。

両手がふさがっているから、拭うことができない。

頬を伝って落ちたしずくが、血で汚れたリストバンドを濡らす。

 

気を失っていても ブラは、あいつの形見であるそれを 握りしめたままだった。