Kiss & Cry

[ 天ブラのサイヤ人パラレルです。『ラブ』の続きです。]

「あんたって、下品よね。」

今日のブラは、なぜか次々不満を漏らす。

 

「顔を見るなり すぐに物陰に引き込んで、ろくに話もしやしない・・。」

いつもはクスクス笑いながら、おれの背中に両腕をまわしてくるくせに。

 

「下品で結構だよ。 下級戦士だからな。」

開き直って、ブラのスカウターを片手ではずす。

瞳と髪の色が変わる瞬間は、何度見ても飽きない。

 

それから いつものように仰向けにして、邪魔っけな服を剥がす。

プロテクターをつけていないから簡単だけど、

破かないようにするのは意外と骨が折れる。

 

「いつもそればっかりね。 だけど、わたしは・・

上目づかいの青い瞳が、覆いかぶさっている おれのことをじっと見つめる。

そして両手で頬を包むと、ほんの少し頭を上げて やわらかな唇を重ねてきた。

「これの方がずっと好きだわ。」

「・・嘘つけ。」

 

手を、 指を動かす。

どうすれば悦ぶのかは、もうわかっていた。

表情が変わっていくさまを観察しながら、おれは尋ねてみる。

「こっちだって、好きだろ?」

「違う・・。 わたしは、あんたのことが、 」 

 

少しだけ力を入れて脚を開かせ、体重をかける。

ブラの声には 溜息が混じり、続く言葉は聞き取れなかった。

 

 

「下品なお姫様だな。」

地面の上に寝転んだおれの上に、何も着ていないブラが重なっている。

「・・誰か来たら大変だぞ。」 「そしたら、あんたが追い払ってよ。」

仕方なく揺り動かすと、ブラは ようやく体を起こす。

 

「お姫様か・・。」 服を着ながら、目を伏せて笑う。

皮肉っぽいその表情は、彼女の兄によく似ていた。

 

「そうだろ? 王子の妹で、王の娘だ。」

ブラは、何も答えない。

 

異星人との混血であることを伏せて後継ぎとして育てられている王子と違い、

彼女の存在は隠されている。

そのことでブラは、傷付いているんだろうか。

こんなことを言ってみる。

 

「ブラの母さんは、どうして王妃にならないんだ?」

おれの言葉で、ブラは伏せていた目を上げた。

「王妃は死んじまったんだろ? だったら・・

「ママは、この星が大キライなのよ。」

一呼吸置いて それにね、と続ける。

 

「王妃様は、死んでなんかいないのよ。 どこか他の星へ、男の人と逃げたの。」

「まさか・・。」

「ほんとよ。」

 

ブラの話は こうだった。

 

王妃だった女は、

戦闘力の高い男児が続けて生まれていた、王家の遠縁の娘だ。 

生まれた時から、今の王の許嫁だった。

子供のように小柄で ひどく幼く見えた彼女は、

実は この星のもう一人の王子のことを愛していた。

 

「パパが異星人のママに夢中で、妻に見向きもしないから

叔父さんは王妃を連れて逃げたのよ。」

「嘘だろ。 そんなこと、できるはず・・

「やろうと思えば、できるのよ。」

スカウターをつけていない、ブラの青い瞳がおれを見つめる。

 

「正式な妻にしなくたって、パパは決してママを手放さないわ。

それに、聞いたわよ。 あんたのお父さんだって・・

 

そうだ。

おれの父親は、おれと兄貴を産んだ女を 自分のそばに置き続けている。

 

下級戦士は、妻を持てない。 

なのに戦闘の実績の高さで、周りを黙らせてるんだ。

 

気がつくと、ブラの顔がまた近づいていた。

おれの顔を自分の方に向き直させて、唇を重ねてくる。

始めは そっと、ついばむみたいに。 次第に深く、味わうように。

 

「あんた、これは したことなかったんでしょ?」

ああ、と頷く。

 

「これね、キスっていうのよ。

女は知っててもキスはしたことないなんて、昔のパパとおんなじだわ。」

「王と同じだなんて、光栄だな。」

 

その時。 ブラとの会話を聞かれないよう、

はずしてあったスカウターから けたたましい音が鳴り響いた。

呼び出しだ。

 

「・・じゃあな。」

「気をつけてね。」

 

こういう形でおれを見送る時、ブラは泣きだしそうな顔になる。

「待ってるから・・。」

 

周りの誰からも、 親兄弟にさえ言われたことのない言葉。

 

強くなれば。 

もっと強くなりさえすれば、あいつを本当に自分のものにできるんだろうか。

手放すことなく そばに置いても、誰にも何にも言われないのか。

 

ブラ。 おれは、 おまえを ・・・

 

 

戦場へ旅立っていく男の姿が見えなくなっても しばらくの間、

ブラは空を見上げ続けていた。

 

彼女の髪の色とは違う、厚い雲に覆われた、泣きだしそうな この星の空を。