155.少年のころ

煙草』 『事故』の続き、地球に、C.C. やってきたベジータです。

王子様時代のベジータの設定は、非常に管理人好みな感じです。

ダメなかたは×を押してお戻りください。内容へのクレームはご遠慮ください。]

「わたしが魅力的だからって 悪いことしちゃダメよ、 もう。」

最後に小声で、付け加えた 「もう」。

多分 聞こえなかったと思う それには、もう しちゃったけどね、遅いけどね…

そんな意味が込められていた。

 

ともあれ、彼、ベジータの反応は わたしを随分と満足させた。

もっと もっと、表情を変えてやりたい。

うろたえて、困惑するさまを見てみたい。

そんなふうに思うのは、恋をしてしまったせいだ。

初めてではないこと、そして 普段の暮らしに戻り、地球の、自分のテリトリーに彼を招き入れたこと。

それらによって わたしは、自分の気持ちを素直に認めることができた。

 

とはいっても、彼もまた 戦う男だ。

用意してあげた部屋で のんびりと寛ぐことなど、ありはしなかった。

僅かな時間 体を休めて、空腹を満たしてしまえば いつの間にか姿が消えている。

修行のためだ。

けど いったい、何処へ行っているのだろう。

人に見られて、無用なトラブルを起こさなければ いいんだけど。

そうだわ。 このC.C.に、思い切り修行できる場を造ってあげられたら。

そうできれば彼も もっと、落ち着くのではないだろうか…。

そんなことを考えながら わたしはひたすら、研究室のコンピューターと向き合っている。

ただし、ディスプレイに映し出されている記号も画像も、仕事とは無関係だ。

「!」

窓の外に、人の気配を感じた。

「ベジータ。」

彼が、戻ってきた。

 

リモコンを使い、大急ぎで窓を開ける。

さもなければ、せっかちな彼に壊されかねない。

入ってくるなり尋ねる。

「戦闘服は、どうなっている?」

そう。 

さっきから仕事そっちのけで没頭していたのは、彼に命じられている、戦闘服の製作だった。

フリーザ軍が採用していた あれは、この地球には存在しない素材で作られており、

生地の分析や配合から始めなければならなかったのだ。

「まだ、もう少し かかるわ。」

今 着ているウェアは激しい動きに耐えられなかったらしく、ボロボロになってしまっている。

それを見つめながら続ける。

「でも、できるだけ急いでるから。 今、別の着替えを用意するわね。」

そして、こう付け加える。

「ねえ、ついでに 体も洗ってきたら どう?」

わざと鼻をひくつかせると、面白くなさそうな顔で、それでもバスルームへと向かって行った。

 

ドアの向こうにいる彼に、脱衣所から声をかける。

「タオルと着替え、ここに置くわよ。」

返事は無い。 シャワーの音は聞こえないのに…。 

きっと、体を洗っている最中なのだろう。

けれど、戻ろうと足を踏み出しかけた わたしを、彼が発した短い言葉が呼び止めた。

「来い。」

それは彼から わたしへの、もう何度目かの命令だった。

 

バスルームのドアを開く。

裸のわたしを目にしても、彼は眉を動かさない。

くやしくて、泡を直に手に取る。

スポンジやタオルを使うことなく、彼の肌に、直接 手を滑らせる。

「ちゃんと洗わなきゃね。」

そう言って、しっかりと掴んでやった そこは、ひどく素直に反応していた。

「ここは特に、清潔にしないと… 」

濡れた手を、指先を動かしてやれば、それは ますます膨らんでくる。

 

ふと思った。

彼は王子様だ。

故郷の星にいた頃は こんなふうに、下女か誰かに体を洗わせていたのだろうか。

思い切って、尋ねてみる。

意外にも、彼は あっさりと答えた。

「ああ。」

すぐに こう続ける。

「いたぞ。 おまえのような、下品な端女がな。」

「何よ、ひどいわ! …、」 続きは言葉にならなかった。

胸を掴まれ、揉みしだかれる。 「あんっ… 」

「あの女と同じだ。 生意気なことを言っても、こうしてやれば おとなしくなった。」

片方の手が離れ、二本の指が 脚の間、体の奥へと伸びて うごめく。

「んんっ … 」

何よ、 何よ。 やっぱり わたしのこと、そういう女だと思ってるのね。

それにしても。

この男が故郷の星で 王子様として暮らしていたのは まだ、ほんの子供だった頃のはずだ。

そんな年で もう、女に悪さをしていたってわけ?

ああ、だけど それも、地球で平和に暮らしてきた わたしたちだけの常識なのだろうか。

 

「ん、あっ … 」

指の動きが、緩慢になる。

シャワーとユニットバスだけの、狭い浴室。

そこで 壁を背に、押さえ込まれて 追い詰められている。

けれど わたしは自由だった。

力を抜いて、ぐっと込めて。 彼の指の動きに合わせて 、幾度となく繰り返す。

そうすれば自分の意思で、 「あーー …っ 」

「くそっ。 いやらしい女め。」

憎々しげな声。 その後に、彼は また命令をした。

「さっさと泡を流せ。」

ぐんにゃりと、床にへたりこんでしまった わたしに向かって。

 

くやしい。 どうにかして、少しでも反撃してやりたい。

このまま顔を埋めて、彼の、今もなお いきり立っているものを咥え込んでやろうか。

髪を掴まれ、やめろと言われたって離れない…

けれども、その計画は行わなかった。

内線電話が、けたたましく鳴り響いていたためだ。

「はい。 母さん?どうしたの? そう!じゃ、こっちに繋いで。」

外からの電話の取次だった。

例の、ベジータの戦闘服の素材の一部を外注しており、何とか完成したらしい。

そのことを伝えようと振り向いた時には、彼は もう いなかった。

気なんてものは読めないけれど、この家の中には いない。

また、どこかへ行ってしまった。

 

その夜は自分の部屋ではなく、彼のために用意した部屋のベッドに入った。

ほとんど使っていないベッドからは、特に何の匂いもしない。

闇の中、眠りに落ちて行こうとした その時。

物音が聞こえた。 また、窓から 彼が入ってきたのだ。

「何なの、もう。 すぐに戻ってくるなら、どうして出ていっちゃうのよ… んっ、」

「黙れ。」

覆いかぶさる彼の、唇が押し当てられる。

「気が向いたからだ。 俺は、俺の好きなようにする。」

 

吐息と体の重みを肌で感じながら、わたしは考えている。

王子として暮らしていた、まだ少年だった頃、彼の世話をしていた女のことをだ。

髪や体を洗ってやり、身支度を整えるのを手伝う。

それとなく、性についての手ほどきも行う。 いざという時、恥をかかせないためにだ。

もしかしたら その延長で、成長した彼の、最初の女になってしまうかもしれない。

それは嬉しいことだろうか。

誇らしく、名誉なことなのだろうか…。

 

どちらにしても、わたしは その女よりも幸せだ。

さっきのキスは まるで、恋人にする それのようだったし、

彼の堅い髪からは外気の匂いとともに、うちのバスルームに置いてある、

わたしも愛用している シャンプーの香りが漂っているから。

彼は今、わたしの胸に 顔を埋めて うつ伏せている。

「もうっ。 枕じゃないのよ…。」

このまま、朝まで眠る気だろうか。

でも まあ、それでも いい。

夢の中では少年の頃、王子様だった昔に戻ればいい。

黒い髪に指を通した時、彼は小さく 何かを口にした。

命令ではない。

わたしの名前でもなかったけれど、今は目をつぶってあげる。

 

何故 この男と知り合ったのか。

そして ヤムチャや孫くんが戻ってくる日が近いことも、わたしは あえて、頭の隅に追いやっている。

ベジータも、そうであればいいなと思う。 せめて今、この時だけは。