317.『事故』

ちょっと繋がっていないところがありますが、『煙草』の端折った部分を

補間しました。]

言われたとおりに するしかなかった。

敵だらけの星、戦えない わたし。

そして目の前にいるのは すさまじい力を持ち、傷つけるのも殺すのも、何とも思っていない男。

その男に わたしは、服を脱ぐよう命じられた。

二人きりの密室。 武器の類は役に立たない。

悟飯くんたちは戻ってこないし、孫くんも、今日は まだ着かないだろう。

 

ファスナーに手をかけて、のろのろと下ろす。

その様子を見て、男は言った。

「時間を稼いでいるつもりか? だったら無駄だ。

 他の地球人どもを待ったところで、死体が増えるだけだぞ。」

… 確かに、そうかもしれなかった。

今 ここで戦いが始まれば、この男の慰みになることは免れるかもしれない。

でも、悟飯くんとクリリンくんだけでは この男、ベジータには勝てないだろう。

そのうえ 騒ぎに気づいて、他の敵まで集まってきたとしたら もう…。

ドラゴンボールが、いくつ あったって足りやしない。

 

「安心しろ。 無事に用を済ませたら 出て行ってやる。

 これは いわば、景気づけだからな。」

そう言うと 男は手を伸ばし、羽交い締めの形で わたしを引き寄せた。

最後の一枚は、男の手によって破り取られた。

その後で、少しの間 男は 壁の方を見つめていた。

壁に両手をつかされて、立ったままで犯される。

その予想は はずれた。

男は床に腰を下ろし、同じ向きで、重なる形で わたしを座らせた。

 

背後から、裸の胸を揉みしだかれる。

足をひょいとかけられて、両脚を大きく開かされる。

そして…

いとも容易く、それは探り当てられた。

絶対に、声だけは出すまい。

なのに その決意もまた、あっけなく覆される。

二本の指による、ごく短い距離の往復。

それは いつしか、小さな円を描くような、捏ね回すような愛撫に変わった。

耳たぶも、刺激されている。

男の口から発せられる、熱く湿った吐息によって。

胸から離れた片方の手が、わたしの体の中心を、さらに、もっと押し広げる。

けれど もう一方の手は相変わらず…

「あ、あーー… っ 」

わたしは達してしまった。

溢れるような、強い快感。

それと同時に体の奥が、ひとりでに、閉じたり開いたりを繰り返している。

まるで 陸に打ち上げられて、必死に呼吸しようとしている貝のように。

 

「…っ!」

床に手をつかされ、四つん這いに させられた。

後ろから、入ってくる。 固定されて、打ちつけられる。

速く、強く、激しく、何度も。

なのに、急に動きが止まった。

そのままの姿勢で 男は言う。

「貴様も動け。 好きなように、動いてみろ。」

何 言ってるの? 絶対、絶対にイヤよ!

その言葉の代わりの沈黙。

「フン…。」

男が、片方の手を伸ばしてきた。

「ひっ …!」

 

さっき さんざん いたぶった個所を、繋がったまま、指で再び苛み始める。

「あっ、あっ、 … 」

「そうだ。 どうせなら、楽しんだ方がいいぞ。 それに、」

一旦 言葉を切る。

「やせ我慢など するだけ無駄だ。

 貴様は さっきも、俺の手の動きに合わせて 腰を振っていたんだからな。」

「嘘! ああっ、」

「嘘じゃない。 無意識なのか? いやらしい女だ…。」

 

強い力で、また押さえ込まれる。

貫かれ、打ちつけられて、わたしは二度目の絶頂を迎える。

そこで やっと、男が手袋をはずしていたことに気付いた。

あちこちに深手を負っていたけど、手だけは無傷だったこと。

手のひらも、指先も、まるで女のように滑らかであること…。

それらを反芻しながら、わたしは聞いていた。

男が発した溜息と、微かなうめき声を。

 

引き抜いた後、すぐに裏返されて、床に仰向けに寝かされた。

覆いかぶさる形になって、男は言う。

「地球の奴らに、随分と可愛がられてきたようだな、貴様は。」

…! 奴らって何よ! この わたしを、娼婦か何かだと まだ勘違いしているの!?

思い浮かんだ その言葉を、全ては口に できなかった。

けれど 男は察したようだ。

「決まった男がいたと言いたいのか。 カカロットじゃないなら、いったい誰だ?

 あの、命知らずの連中の中にいたのか?」

「…。」

「言ってみろ。 何という名だ?」

背けた顔を、向き直される。

「言え。 この俺が、聞いてやると言っているんだ。」

 

観念し、口を開きかけた その時。

信じられないことが起こった。

唇を、押し当てられた。

割って、入り込んできた舌に、掻き回される。

それは つい今しがたまで していたことに よく似ていた。

だから わたしの奥からは また、ぬるい液が溢れてくる。

まるで何かの反射のように、いくらでも溢れ出てくる それには、

この男によって放たれたものが混じっているはずだ。

 

 

起きなくてはならない。

服を着て、いつもどおりに、何事もなかったように振舞わなくてならない。

頭では わかっているのに、体が動かなかった。

わたしは、床の上に横たわっている。

ぼんやりしながら、裸のままで。

 

ふと、あることを思い出した。

もう何年も前、大学の研究施設に通っていたことがあった。

その仲間の一人が、性格診断テストなるものを始めた。

まずは こんな話をされた。

 

ある若い女が 恋人と一緒に、客船で旅をしていた。

ところが嵐に遭って船は座礁。

救命ボートに助けられ、命拾いをしたまでは よかった。

流れ着いた小さな島に 恋人の姿は なかった。 別のボートに乗っていたのだ。

そのボートは どうやら、彼方に見える、ここと同じような小島に流されたらしい。

恋人の安否を確かめるべく、女は海へ出て その島に行こうとした。

なのに、頼りのボートを隠されてしまう。

それは 女を助けた、船員の仕業だった。

怒り、詰め寄った女に、船員の男は こう言った。

[ 自分と寝ればボートを出し、向こうの島へ連れて行ってやる。 ]

他に為すすべは無かった。 女は、仕方なく従った。

再会した恋人は無事だった。

けれども彼は 女の裏切りを責め、二人の仲は戻らなかった。

 

子供だった わたしは もちろん、ボートを隠した男を憎み、そのように答えた。

そうしたら単純だと言われ、笑われてしまった。

残念ながら、他の答えの診断は忘れてしまったけれど。

今の わたしは、三者全てに怒りを覚える。

何か事情があったにしても、自分から 来てくれなかった恋人。

すぐに諦めて、やすやすと言いなりになった女。

そして、弱さにつけ込む 悪い男…。

 

ヤムチャが もしも、今日のことを知ったとしたら。

その話の恋人のように、わたしを責めたりはしないだろう。

仕方ない、事故みたいなものだ。 そう言ってくれるだろう。

だけど決して、元には戻れない。

そこだけは、同じだと思う。

涙が頬を、つたって落ちる。

でも この涙の理由、 それはヤムチャのことだけではない…。

 

男が出て行き、彼の手によって閉じられた扉を見つめる。

戻ってきた 誰かによって開かれるまで、そうしている。

そうすることしか、今の わたしには できないから。