118.『闇に溶ける』
[ 『ドラゴンボール』の続きです。
『サイヤ式』を書きなおしたような内容ですが、視点を少し変えてみました。]
この星に連れてこられてから
わたしは、何もしていない。
ただ、部屋の中で
じっとしているだけだ。
だから、食欲なんて
わくはずがない。
なのに 食事の時に多めに手をつけた料理は、翌日には皿に多く盛られて出てくる。
まるで、少しでもたくさん食べさせようとしているみたいだ。
ここの使用人・・
侍女の配慮じゃないことだけはわかっている。
食事の配ぜんや寝具の交換をしてくれる侍女たちは 手を動かしながら、
いつも あの男の話をしている。
あの男が この星の王子であることを、わたしは侍女の話で知った。
王子ときたら 許嫁には冷淡で、
周りが用意した えりすぐりの美女にさえも興味を示さなかった。
それなのに 髪と瞳がおかしな色の、異星人の女には夢中のようだ。
尻尾のない女に執着するのは、血筋なのではないか・・・。
話は いつもそこで終わった。 口をつぐんでしまうからだ。
おかしな色の瞳と髪の、異星人の女。 もちろん
わたしのことだ。
侵略者から地球を救うために
たくさんの犠牲をはらって、
命からがら宇宙に出たのに・・・
よりによって
わたしは、侵略者の中心人物である男に捕らえられてしまった。
だけど 男は、わたしを抱いていないのだ。
あの、 宇宙船内の浴室での、最初の時以来。
男は夜、 ほぼ決まった時間に
この部屋を訪れる。
起きていても
わたしは、身を固くしてまぶたを閉じている。
背を向けるわたしに触れようとはせず、同じベッドの中で
男は寝息をたてはじめる。
そして、誰に起こされるわけでもないのに 夜明けの頃には身支度を終えて、
この部屋を出ていく。
わざわざ この部屋にやってきて、毎晩、毎朝、それを繰り返している。
わたしは混乱していた。
わたしをここに連れてきたのは、慰みにするためではないのだろうか。
だったら あの、最初の時。
まるで何かに憑かれたように、こちらの意識が遠のくまで突き上げた獰猛さ。
あれは いったい、なんだったの・・・。
この数日間、
男は姿を見せなかった。
侍女たちの話によると、宇宙へ出ているらしい。
もしも 男が、新しい別の女を連れて戻ったとしたら。
お払い箱になったわたしは、その場で殺されるんだろうか。
食事に必ずついてくる、イチゴに似た味の果実をつまみながら わたしは考えていた。
本当は わかってる。
わたしがちゃんと食事をとるよう、
使用人にあれこれ指示をしているのは
あの男だということを。
この星に戻った夜、 俺は例の部屋を訪れた。
いつも真っ暗にしてあったが、今日はベッドサイドのライトがついていた。
そして、 横たわっている女は、まぶたを閉じてはいなかった。
俺はマントと装備をはずし、ベッドの上にいる女の衣服を脱がせた。
女の体を見て、
俺は 思ったことを口にした。
「・・・ やせたな。」
女の口元が何かを言いたげに動いて、でかい目は笑ったような形になった。
言ったことを
さらに確かめるために、手を使って触れてみる。
白すぎる肌は、ひどくなめらかだ。
だが同時に、指先に
手のひらに、勝手に吸いついてくるかのようだ。
気がつくと、女が発していたかすかな溜息が
嗚咽に代わっていた。
顔を覆ってしまった両手を、片方ずつはずす。
青い瞳からあふれ出ている涙を拭ってやると、女は
ようやく口を開いた。
「わたし、
ブルマっていうのよ。」
「ブルマ・・ 」
教えられたとおりに、呼んでみる。
「ここにいると、自分の名前、忘れちゃいそう・・。」
どこかで聞いたことのある言葉だった。
「王子様の名前は、何ていうの?」
「・・ベジータだ。」
ブルマも、俺の名前を口にする。
胸の奥底から、説明のつかない感情が湧きあがってくる。
気が付けば、唇が重なっていた。 夢中で、むさぼる。
二本の華奢な腕が、背中に巻きつく。
俺は自分の腕を伸ばして、ベッドサイドのライトを消した。
その後。
ベジータは
何度も何度も、恋人みたいなキスをして、
愛している女にするようなやり方で わたしを抱いた。
憎しみも、悲しみも、思いだしたくないことさえも、
闇の中に溶けていく。
この部屋で、
この星で彼に抱かれたのは、その夜が初めてだった。