354.『きっかけ』

[  チビ  一人じゃない』の続きのお話です。 ]

中2のクラス替えで、わたしとベジータは別々になってしまった。

隣のクラスだから、体育の授業は合同だけど。

 

今年は久しぶりに、ヤムチャと同じクラスになった。 席も近くだから、よく話をする。

普通に話せるようになってよかった。 陰口を言う人はまだいるけど、もう中2だものね。

部活の先輩や、塾なんかで知り合った 他の学校の子と付き合ってる人だっているのよ。

 

部活に結局入らなかったベジータは(孫くんが、どこにも入らなかったからなんだと思うわ。)

いつもさっさと帰ってしまう。

クラス委員を引き受けてしまったわたしとは すれ違いだ。

それに・・ 運動部に入っていなくても 自分のやり方で体を鍛えているらしいベジータは、

この間の球技大会で大活躍した。

それ以来 彼は、1年生の女の子達から騒がれるようになったのだ。

 

成績も運動神経もいいベジータは、以前からもてる要素はあったと思う。

だけど とにかく愛想が無いから、今まではどちらかというと怖がられていた。 

それが、 今では ・・・

 

2階にある教室の窓から、帰ろうとしているベジータが見える。 

その後ろに、何人かの女の子の姿も。

溜息をついたわたしにヤムチャは言った。

「ああいうのって、そんなにうれしいわけじゃないんだぜ。」

好きでもない女に まとわりつかれたってさ。 小さく付け加えたあと、わたしの顔を見る。

「気にしないで 声をかければいいじゃないか。」

 

「わたし、そういうのダメなのよ。」  誰のせいだと思ってんの・・・。

かばんを持って、わたしは教室を出た。 

今日も委員の話し合いがある。

 

3年生になる時には 多分クラス替えがない。 

そのまま別の高校に進んだら、ベジータとはそれっきりになってしまう。

 

そんなのイヤ。 絶対、絶対にイヤ・・・。

 

それから何日か経ったある日。 

帰りの学活が終わった後、窓から外を眺めていたヤムチャが 話しかけてきた。

「今日は委員会、ないんだろ。」

「そうだけど・・。」

「おれ 昨日、面白い場面 見ちゃったよ。」 窓辺に立ったままで話し続ける。

 

「例の1年生の子たちがさ、ベジータ先輩は彼女いるんですかー、って詰め寄ってさ。

そのうちの一人が、はっきり質問したんだ。」

「何て?」

「ブルマ先輩はベジータ先輩の彼女なんですか、ってさ。」

 

 

何か言いたげな顔のブルマから 再び外に目を移すと、ちょうどベジータの姿が見えた。

「今日は一人か。 まぁ、あんなふうに答えたら 女の子たちも引くだろうな。」

「いったい何て答えたの・・?」

おれが言い終わるよりも早く、ものすごい勢いでブルマは教室を出て行った。

 

『ブルマ先輩はベジータ先輩の彼女なんですか?』

『えー、ブルマ先輩はヤムチャ先輩と付き合ってるんでしょ?小学校の頃からだって聞いたわ。』

 

女の子たちの、勝手なやりとり。 その後ベジータは なんと、こんなことを言ったんだ。

『ブルマは、あいつは俺のものだ。』 

・・まったく、ビックリしちゃうよな。

 

 

「ちょっと、待ってよ・・ 」 やっと追いついた。 

足を止めたベジータに、肩で息をしながら声をかける。

 

並んで歩くのは、本当に久しぶりだ。 そのことを口にすると、ベジータはこう言った。

「おまえのクラスは、終わるのが遅いからな。」

「そうなのよ。うちのクラスの担任の先生、話が長くて・・ って、ベジータ。」

声変わりしてる。  知らなかった。 いつの間に・・・。

 

鍛えてるせいなのか、体つきも以前より がっしりして見える。

「なんだか、手も大きくなったみたい。」  どさくさに紛れて、ちょっとつないでみた。

 なのにすぐ、払いのけられる。

「おまえと手をつないだことなんかないぞ。」 そのうえ、こんなことまで言う。

「誰かと間違えてるんだろう。」

「そんなことないわよ。」 わたしは言い返した。

「つないだこと、ちゃんとあるわ。 運動会の、ダンスの時・・。」

小学生の頃の話だ。 ベジータは、あきれたように少し笑った。

 

腹がたったわたしは、ずっと思っていたことを口に出す。

「こんなにいろいろ変わっちゃったくせに、どうして背はあんまり伸びないの?」

「・・気に入らないんなら、背が高い奴と歩け。」

その時 ちょうど、ベジータの家の前に着いてしまった。

 

そのまま門を開けて入っていこうとする彼に、わたしは言った。

「わたしは、あんたのものなんでしょ?」

 

ぎょっとした顔で、ベジータは振り向く。

「わたし、うれしかったのよ。 他の人には絶対言われたくないけど。」

 

玄関の前にカバンを放り投げて、わたしの前に立ったベジータ。

両肩に手を置いて、その唇に そっと、短く、触れてみる。

わたし自身の唇で。

 

「何しやがる・・。」

「あんたがわたしの背を追い越したら キスしてあげよう、って思ってたの。」

なのに、なかなか伸びないんだもの。待ってられないわ。

不平が終わらぬうちに、彼に肩を引き寄せられた。

 

2度目のキス。 今度はもっと長い、ちゃんとした ・・・

 

「勝手に決めるな。」  唇が離れた後、頬を赤らめながらベジータは言った。

そして、わたしの家まで送ってくれた。

 

 

その後の話。 

やっぱり中3ではクラス替えはなかったんだけど、ブルマとベジータは同じ高校に進んだんだ。

 

街で時々見かけるけど、とっても楽しそうに見える。 

ベジータは相変わらず無愛想だけどな。

 

おれとブルマがうまくいかなかったのは、おれたちがまだ子供すぎたからなんだ、って思ってた。

だけど それは違ったんだって、あいつを見ててわかったんだ。

 

ところで、あの二人がちゃんと付き合うようになったのは、おれが背中を押してやったせいだよな。

まったく、感謝してもらいたいよ。 

だから 自分で、声に出して言ってみる。

「おれってホント、いい奴だよな。」