323.『チビ』

[ 公立の小学校に通う(笑)小学6年生の設定です。]

「また、前から二番目だったの?」

 

二学期が始まってしばらく経った頃。

クラスの者を男女で分けて、改めて並び順を決めた。

身長の高さでだ。

 

「あんたって、よっぽど二番目が好きみたいね。」

 

教室で、隣に座る女が俺をからかう。 

くやしいが、確かにいつも この女の成績にわずかに届かない。

そして、体育でも・・。

隣のクラスにいる気に入らん奴、 カカロットに差をつけられっぱなしだ。

 

「髪をもっと、さっぱりさせたら?」

生意気な女、 ブルマは坊主頭のクリリンを横目でちらりと見た。

「そしたら、一番になれるわよ。きっと。」

 

俺とクリリンの身長の差は、髪形のせいだと言いたいのだ。 

これにはさすがに頭にきた。

「黙れ。 大女。」 「あら、わたし 別に大きくないわ。 普通よ。」

 

言い返した後、

ブルマはさっきからこちらを見ながらヒソヒソ話をしている女達を睨んだ。

 

「このクラスは、背の低い子や、子供っぽい子が多いだけよ。」

 

一瞬の沈黙。 そのあと女どもは、聞えよがしに話し始めた。 

ブルマの悪口を。

 

はっきりとものを言うブルマは、クラスの女達から敬遠されている。

あまり 隙を見せない奴だから、いじめという程にはならない。 

だから、教師も見て見ぬふりだ。

 

班決めや席替えの時、ブルマはいつも一人になる。

結果、群れることを好まない俺と組むことが多くなる。

 

頭や見た目の悪くないブルマは、低学年の頃は人気者だった。 

それがこうなってしまった最大の原因、それは・・・

 

以前、何かの時にクリリンの奴が言っていたことを思い出す。

まぁ、 俺には関係のない話だ。

 

 

委員会のつまらん話し合いがやっと終わったと思ったら、

教師に用事を言いつけられた。

 

ちっ、 まったく。 

6年だからって、なんで見知らぬ下級生の世話までしなきゃならんのだ。

これが中学に入れば今度は、上級生の言うことを聞け と言われるのだろう。 

まったく理不尽だぜ。

 

さっさと帰ろうと、カバンをとりに教室へ戻った。

 

すると・・ 窓辺に女が立っていた。 一人で。

 

背の高さと髪の色で、後ろ姿でも誰だか すぐにわかる。

 

ブルマはこちらを見ずに 窓の方を向いたまま、目元を拭うような仕草をした。

 

俺には関係ない。 だから、声なんかかけない。

 

靴を履き替えて、玄関を出る。 

そこで俺は、あいつが窓から何を見ていたか わかった。

 

カカロットと同じクラス(ろくな奴がいない)のヤムチャだ。

いつもブルマの悪口を言っている女たちに囲まれている。

 

何を話していたのか知らんが、鼻の下を伸ばして デレデレしてやがる。

 

運動神経は俺に及ばないが、カカロットと同じくらい背が高いヤムチャ。

4年の終わりに あの野郎から告白されたことで、

ブルマは この、特にたちの悪い女どもを敵にまわしてしまったらしい。

(その後、ヤムチャとブルマがどうなったかは、興味がないから 知らん。)

 

「ねぇ。」 ブルマが玄関から出てきた。

「一緒に帰ろう。」 俺に向かって声をかける。 

ヤムチャと、女どもを無視して。

俺には関係ない。 そう思ったが、口には出さなかった。 

だから、ブルマはついてきた。

 

「・・あんたは、中学 受験しないの?」 

「ああ。」 「どうして?頭 いいのに。」

面倒だから、答えない。

 

「もしかして、孫くんのせい?

だけど、別の学校の方が、何かの試合で勝負できるんじゃない?」

 

俺は黙って歩き続けた。

 

「ふふっ。 あんた、ほんとは孫くんが好きなのよね。 

だから、おんなじ学校に行きたいんでしょ。」

「勝手なことを抜かすな。」 

「いいじゃない。 わたしだって好きよ。 それに、チチさんも好きだわ。」

 

奴らとブルマは、去年までは同じクラスだった。

「前のクラスは、楽しかったのにな。」

 

ぽつりとつぶやいた後、こんなことをつけ加える。

「でも、今のクラスには あんたがいるもんね。」 

それから、足を止めた俺に言った。

「中学でも、同じクラスになれるといいわね。 孫くんとも。」

「・・私立に行くんじゃないのか。」

 

この女は、そうした方がいいと思う。

そうすれば少なくとも、つまらん嫉妬をするような連中とは離れられるんだ。

 

「迷ってたけど、やめたわ。 あっ、あれね? あんたの家。」 

いつの間にか、俺の家のそばまで来ていた。

 

「おまえの家は、逆方向だろう。」 今 気づいたように言う。

「いいのよ。 たくさん歩かなきゃ、太っちゃうもの。」

笑顔を見せて、ブルマは続ける。

「うちのママね、すっごくお料理上手なの。

だから、いつも食べすぎちゃうのよ。 それでね・・」

 

見おろすかたちで、俺の顔をじっと見つめる。

「わたしは女の子だから、もうあんまり背が伸びないのよ。」

 

だけど、あんたはこれからよね。 

独り言のように言って、「じゃあね。」と手を振る。

 

俺は、手に持っていたカバンを玄関先に投げた。

 

「どうしたの?」 「あっちの方に、用があるんだ。」

俺は歩き出した。 

この辺では知らぬ者がいないほど でかい、ブルマの家がある方へ。

 

「待ってよ・・。」

 

ベジータを追いかけながら、わたしは思っていた。

もっと小さい頃だったら、ポケットに入ってる その手をとってつなぐのに。

そしてもっと大人だったら、腕を組んで歩くのに。

 

そのかわり、話すつもり。 うちのママは、お菓子作りも とっても上手だってこと。

 

家の前に着いたら、こう言うわ。 「あんたも来たら?」って。

 

そんなことを考えてたら、なんだかワクワクしてきちゃって、

イヤなことなんて いつの間にかどっかにいっちゃった。

 

「・・なんだ。」 

信号待ちの歩道で、ベジータが怪訝な顔でわたしを見上げる。

 

笑いながら、わたしは答える。

「別に。 つい、なんとなく、ね。」