083.『初めての・・・』

[ チビ』『一人じゃない』から続く、ベジブル思春期パラレルです。

一気に高1にしてしまいました・・。]

「試験も終わったし、どこかに行きたいな。」

「・・どこかって、一体どこだ。」

 

ベジータがそんなふうに聞いてくれることは めずらしい。 

だからわたしは、すかさず答えた。

「二人だけになれる所。」

 

この部屋に来るのは初めてじゃない。

だけど、長い時間を過ごしたことは、まだなかった。

「今日は少し ゆっくりしていい?」 「ああ。」

 

短く答えたあとで ベジータは制服の上着を脱ぎ、

ゆるめに結んでいたネクタイをとった。

 

「毎日、ここで寝てるのね。」

ベッドに腰かけながら言ってみる。

「こういう所に、エッチな本とか隠してるの?」 壁との隙間に手を入れる。

「フン、そんなもの あるか。」

「あっ、見つけた。」 「嘘つけ・・

少しだけ、あわてた様子のベジータに腕を掴まれる。

 

「嘘よ。」 顔をじっと見つめる。

「そんなもの、必要ないわよね。 だって、

いつも わたしのこと、考えてるんでしょ? 小さな声でささやいた。

 

彼は舌打ちをして、けれども否定はせずに唇を重ねてきた。 

自分から仰向けになったわたしに、覆いかぶさるかたちで。

 

最初の時から数えて 何度目のキスなのか、もうわからない。

 

中学に入った時に決めていた。 

ベジータがわたしの背を追い越したら、その時に、って。

 

なのにその日は なかなかやって来ず、わたしは結局待ち切れなかった。

 

そして、高校に入った時にも 決めたことがある。

だけど、今度も やっぱり待てないかもしれない。

 

「制服が、皺になっちゃうわ・・。」

わたしの声で、ベジータは黙って体を起こす。

「だから、脱ぐわね。」自由になったわたしは、上着を脱いでネクタイをほどく。

それから言った。シャツのボタンを外しながら。

「あんたも脱いで。」

 

ベッドの上で、下着だけの姿になって、

わたしたちはお互いの背中に腕をまわしている。 

 

頬が熱くなってくる。 

「どうしてはずかしいのかしら・・。 水着とおんなじはずなのに。」

「さあな。」 少しだけ笑って、ベジータは答えた。

しゃべるな、って叱られるかと思ったけど。

 

水着だって。 中学の時は、水泳の授業がなかった。 

そのせいか わたしは、小学校の頃のそれを思い出していた。

 

何人かの女の子たちが わたしの水着姿を横目で見ながら、

小声で話している。

そのうちの一人が言ったことが耳に届いた。 

『いやらしい。』  ・・・

 

「わたしって、いやらしいの?」

 

ブルマからの問いかけに、なんて答えていいのか俺はわからなかった。

だから、塞いでしまうかたちで唇を重ねる。 

深く、 多分、 これまでで一番 長く。

 

「ねぇ・・ 」 

身をよじるみたいに動くから、苦しいのかと 体を離す。

自由になったブルマは自分の背中に手を持っていき、上の下着を外してしまう。

「ここにも キスして。」

 

 

わたしの胸に顔を埋めるベジータ。

その、髪の匂いを吸いこんでみる。

 

これまでにも何度も触れた彼の髪。 

だけど、こんなふうにするのは初めて・・。

 

両腕で、彼の頭を抱きしめる。 

切なくて、泣きたいような気持ちになる。

だから わたしは、我慢できずに口に出す。 

「抱いて。」

 

顔を上げて、わたしの目を見て、

ベジータは最後に残っている一枚に手をかけた。

 

その時。 携帯が鳴った。

 

体を起こして ベジータは言う。 「おまえのだ。」

「いいわよ、別に・・ 「出ろ。」

そう言うと彼は、ベッドから おりてしまった。

 

 

電話はブルマの母親からだった。

来客があるから、早めに帰ってくるよう言われたらしい。

まだいい、と渋るブルマを促して 帰り支度を急がせた。

 

家へ送って行く途中。

しばらく黙って歩いていたが、やっぱり話しかけてくる。

 

「ねぇ、 ・・・さんっていたでしょ。」

小学生の頃、ブルマに嫌がらせをしていた女どもの一人だ。

 

「この間、街で見たの。 男の子と、こんなふうに歩いてたのよ。」

そう言うと、俺の左腕に しがみつくように両腕を巻きつけた。

「やめろ。 歩きにくい・・ 」 

意外と素直に、ブルマは腕をほどく。

「なんだか、周りが見えてないみたいだったわ。 でも、楽しそうだった。」

そして付け加えた。 にっこりと笑いながら。

 

「よかったわね。」

 

 

そんな話をしているうちに、もう家に着いてしまった。

 

「送ってくれて ありがと。 気をつけて帰ってね。」 「ああ。」

それだけ言って、ベジータは歩き出す。

いつもと同じようにわたしは、後ろ姿が見えなくなるまで手を振っている。

 

だけど、今日は・・・ 立ち止まった。

振り返って、こっちを見ている。 目が合って、気まずそうな顔になる。

「さっさと家に入れ。」

ベジータの声が届くよりも早く、わたしは駆けだしていた。

 

さっきと同じように、彼の腕にしがみつく。

「忘れてたの・・。」 「忘れてた? 何をだ。」

「ママにおつかい頼まれたの。 さっきの電話で。」

嘘だった。 もう少しだけ、一緒にいたかった。

 

文句を言って、腕を払いのけて、

それでもベジータは わたしの隣を歩いてくれる。

 

高校に入った時に決めたこと。

それは彼が自分の方から好きって言ってくれたら、その時に、って。

 

だけどキスの時と同じで、わたしはとても待てそうにない。

 

今日だって ママからの電話がなければ、あの後 ・・。

 

でも、いいの。

わたしは ずっと、ずーっと前からベジータが好き。

口に出してくれないだけで、ベジータも きっと同じだと思う。 

だから、 いいの・・。

 

「どうした?」

彼の方から伸ばしてくれた手を しっかりとつないで、わたしは言った。

「ううん、 何でもない。」