263.『見果てぬ夢』
[ 『残酷な未来』 の続きです。
『with』と併せてお読みいただけましたら うれしいです!]
孫くんのお葬式の日。
クリリンくんをはじめとする、 何人かが申し出た。
地球のドラゴンボールでは もう、生き返らせることはできないけれど、
何か方法があるはずだ。
もう一度ナメック星の人たちに頼ってみてはどうか。
宇宙船が用意できるなら、すぐにでも出発する。
けれど、チチさんは 首を縦には振らなかった。
彼女は もう、夫に離れて行ってほしくないのだろう。
二度と声が聞けなくても、 触れることができなくても。
そんなことを考えながら、
眠ってしまったトランクスを キャスター付きのベッドに寝かせた。
その時。 窓の外に、気配を感じた。
「ベジータ・・。」 駆け寄って、窓を開ける。
病室に入ってきたベジータは、頬を赤らめて顔をそむける。
ついさっきまで授乳をしていたわたしは、パジャマの前を はだけたままだった。
「赤ちゃんの世話は大変なのよ。」
何も言わない男に向かって、言葉を続ける。
「そう そう。 この子の名前ね、トランクスに決まったから。」
彼はいかにも興味無さげに、眠る息子を一瞥する。
「ヤムチャのアイディアなんだけどね。 この間、来てくれたの。」
ベジータの眉が、ぴくりと動いた。
「冗談で言ったみたいだったけど、母さんたちも気に入ってたから・・。」
ひどく不機嫌そうな顔になる。
その理由が、勝手に名前を決めたせいなのか、
ヤムチャの名前を出したためかは わからなかった。
「もしかして、つけたい名前があった?」
「・・そんなものは無い。 好きにすればいい。 地球人の名など、わからん。」
地球人、か。 だけど半分は、確実に・・・
「純粋なサイヤ人は あんただけになっちゃったけど・・・ 不思議よね。」
「何がだ。」
「だって、この子や悟飯くんが大人になって 誰かと結婚したら
また、尻尾がはえた赤ん坊が生まれてくるかもしれないのよ。」
黙っているベジータに、わたしは言った。
「わたしね、悟飯くんに この子の師匠になってもらおうと思うの。
チチさんにもちゃんと話して、許してもらうつもり。」
言い終わらぬうちに 彼は口を挟んできた。
「なんで わざわざ、あんなガキに・・・。」
「だって、あんたの子なのよ。 きっと すごいパワーを持ってるわ。
他の人じゃ、すぐに手に負えなくなっちゃうわよ。」
あんたが力の使い方を教えてやってくれれば 一番いいんだけど。
あんたは 宇宙に戻っちゃうんでしょう・・・?
そう付け加えると ベジータは、何かを言いたげな、複雑な表情になった。
しばらくのち、 彼は ぼそり、 と口を開く。
「・・決めつけるな。」
「えっ?」
「勝手に決めるな、 と言ったんだ。 この星を出ていく時期は、俺が決める。」
「じゃあ・・・ 」
体が勝手に動く。 わたしはベジータにしがみついていた。
「やめろ。 離せ。」 「だって・・・。」
ふぎゃーーーーー。
トランクスが、目を覚ました。 大声で 押し問答をしたせいだ。
「あら、 起きちゃった・・・。」
泣いているトランクスを抱き上げて、声をかける。
「よかったわね。 パパは まだ、地球にいてくれるって。」
「フン、 すぐには出発しないってだけだ。」
そっけなく言った後、ベジータは 再び 窓から出て行こうとする。
「ねぇ、 次の子供ができたら、今度は あんたが名前をつけてね。」
「何をバカなことを・・・ 」
「だって、しばらくいてくれるんなら、十分考えられるでしょ。」
舌打ちする彼に、言い添える。
「わたしとトランクスね、明日の朝に退院するのよ。」
「だったら 何だ。」
「C.C.で、待ってるから・・・。」
わたしは その時、はっきりと思い描くことができたのだ。
わたしのそばにいてくれるベジータを。
優しい言葉をかけてくれることはなくても、
ゆっくりと、 時間をかけて家族になっていく わたしたちの姿を・・。
病室の窓辺で、トランクスを抱いたままわたしは
彼が飛び去った空を眺めていた。
夕焼けが、まるで絵のように美しかった。
この空が、街を燃やす炎で赤く染まる日は、
もう、 すぐ そこまで来ていた。