with

[ 未来編のヤムチャ&プーアルのお話です。 ]

C.C.から、出ていくことになった。

ヤムチャ様が、ブルマさんとお別れしたためだ。

 

ボクは一言だけ聞いてみた。

「ベジータのことが、好きになったの? ヤムチャ様よりも?」

ブルマさんは、彼女らしくない表情で答えた。

「・・・わからない。 ただ、あの時、そばにいたいって思ったの。」

 

それから、しばらくたったある日。

ヤムチャ様は、行き先を告げずにボクを誘った。

途中でお花屋さんに寄る。

「プーアル、選んでくれよ。

 ・・ブルマが、男の子を産んだんだってさ。 顔を見に行ってやろうぜ。」

 

他の病室とは違う階の大きな部屋に、パジャマ姿のブルマさんがいた。

赤ちゃんが、キャスター付きの小さなベッドで眠っている。

「ヤムチャ・・・プーアル・・・久しぶりね。 来てくれたの・・。」

短いおかっぱにしたブルマさんの、きれいな笑顔。

久しぶりに見た。

 

「髪の色はブルマだけど・・・目元はあいつに似てるかな。」

ヤムチャ様が、赤ん坊の顔を覗き込む。

「尻尾も、しっかりついてたのよ。 切っちゃったけど。

 ベジータも、いいって言ったから・・・。」

「あいつ、 ちゃんと来てるんだ。」

どこか、ホッとした様子でヤムチャ様が言った。


「一度だけね。 チラッと見てただけだけど。

 名前も 『好きにしろ』 って言っただけ・・・。」

 

少し寂しそうに呟くブルマさんに

「名前、まだなのか。 ブリーフ博士の孫で、ブルマの息子・・・

 トランクスなんてどうだ?」

ヤムチャ様がおどけたように言って、みんなが笑い、

目を覚ましてしまった赤ん坊が泣きだした。

わが子を抱き上げるブルマさんの表情には、迷いがなかった。

 

赤ん坊のことを、ヤムチャ様に教えたのは誰だったんだろうか。

 

ブルマさんのお母さん?

それとも、昔の仲間の誰か?

 

どちらにしても、今はもういない。

あの日から数か月後。

都は、 地球は、 恐ろしい事態に見舞われる。

たった二人の人造人間によって。

 

 

昔の仲間たちと共に、ヤムチャ様も勇敢に戦った。

 

けれど 『気』 を感じさせず、無限のエネルギーを持っている人造人間には

まるで歯が立たなかった。

 

二度ほど、残り少ない仙豆で命を取り留めてから

ヤムチャ様は、前線には出て行かなくなった。

 

だけど、何もしなくなったわけじゃない。

大きな目的なんてない人造人間たちは、街を一気に破壊しない。

ゲームとでも思ってるんだ。

中途半端に壊された街には、火災や崩落が、逃げ惑う人たちがいる。

 

普通の人より体力があって、ずーっと強いヤムチャ様は

がれきの下からケガ人を助けて、家族と引き合わせてあげたり、

火事場泥棒みたいな奴をこらしめたりと、

自分のやり方で戦いを続けていた。

 

もちろん、ボクもお手伝いした。

時には・・・ 死んでいく人や、その家族を・・・

変身術を使ってなぐさめたりもした。

 

「あれで、よかったんでしょうか。」

迷うボクに、ヤムチャ様はいつでも

「よかったんだよ。  あれで。」 と言ってくれた。

 

そんな日々にさえ、終わりがやってくる。

 

ヤムチャ様とボクが、いつものように

たくさんの遺体と、まだ息のある数人を、崩れかけた建物から救い出していた時・・・

また、爆発が起こった。

 

最後の仙豆は細かく砕いて、

ケガをした赤ちゃんに与えてしまったばかりだった。

 

「プーアル、おまえだけなら脱出できる。 生き延びるんだ。

 そして・・・おれのこと、覚えててくれよな。」

「ヤムチャ様、 そんなこと言わないで。」

「ブルマの赤ん坊・・おれの子じゃなくて、よかったよ。

 おれの子だったら、心配で置いていけないからな・・・。」

 

その言葉で、ボクは初めてヤムチャ様の言いつけに背く。

 

ボクは、ブルマさんの姿になった。

 

血と灰で汚れた彼の頬をなでて、そっと唇をかさねる。

もう目を開かないヤムチャ様は、ほんの少しだけ笑顔になる。

 

爆発音がまた聞こえて、辺りは炎に包まれる。

 

これで、よかったかどうかはわからない。

 

だけど、これはボクが決めたこと。

ずっと自分で決めていたこと。

彼のそばにいることを。