『幸せになるために』 ブラside
[ 『ありきたりなロマンス』のつづきです。]
悟天はわたしに、自分からはキスしてくれない。
部屋の鍵を渡してくれた、あの日以来。
待つことが苦手なわたしは、いつも自分から顔を近づける。
彼は仕方ないな、みたいな表情で、それでもいつも応じてくれる。
とても優しく。
一緒に出かけた時も楽しかったけれど、
彼の仕事にわたしの学校、 そして門限のせいで会える時間は限られている。
だから アパートの、悟天の部屋で過ごすほうが好きになってしまっていた。
わたしが、ごはんも作るのよ。
そりゃあ、包丁をあんまり使わないメニューばっかりだけど・・・。
だけど わたしは、ママよりはお料理上手だわ。
ママは、パッケージに書かれたレシピを無視して
全然関係ない調味料を大量に入れようとするんだもの・・・。
「発明と間違えてるんじゃないの。」 って、悟天は笑う。
同級生の男の子とは違って、
わたしがする家族の話を、楽しそうに聞いてくれる。
だけど、あの時。
勉強か何かのことで、
ママにそっくりなのに、ママのようにはできない。 って、いじけたように言ってしまった時。
「いいじゃないか、 それでも。」
いつもの笑顔とは少し違う不思議な表情で、悟天は続ける。
「いくら似ていたって、別の人間なんだからさ。」
わたしは、胸の奥が苦しくなった。
車の中で、初めてキスされた時と同じくらいか、それよりも もっと。
気がつくと、夢中で唇を重ねていた。
彼の背中に自分の腕をきつくまわすと、
背伸びするのがつらくなって、バランスを崩した。
二人でベッドの上に倒れこむ。
我に帰ったように唇を離した悟天に、とうとうわたしは言ってしまう。
ずっとずっと、言いたかった言葉を。
せつなそうに、苦しそうに、悟天はわたしに訴えた。
「まだ、ダメなんだよ。 子供じゃない、 って言うんなら、
頼むからわかってくれよ。」
悟天が我慢できても、わたしはできないかもね。
わたしは待つのが苦手だから、他の人のところに行っちゃうかも。
そんな脅しに彼は乗らず、願いがやっと叶えられた時、
わたしは19歳になっていた。
[悟天sideに続く]