『ありきたりなロマンス』 その1
近頃、わたしはついてない。
学校でイケメンだって評判の男の子に告白されて、
何度か一緒に帰って、休みの日には映画に行った。
だけど、自慢話ばっかりでサイテーな奴だった。
もう二人だけで会いたくない、 ってハッキリ言ったら
家の前まで付いてきちゃって、言い合いになって・・・
そしたら パパが出てきちゃって、ずいぶん面倒なことになった。
おにいちゃんの皮肉にも (そういう時は、ものすごくパパに似ている)
気にしなくていい、 って言ってくれたママにまでなんだかイライラしてきちゃって・・・
帰りたくなくて、一人で街を歩いてたら・・・。
「きみ、すっごくカワイイね。プロポーションもいいし。 モデルかなんか?」
軽薄そうな男に声をかけられた。
「ちがうわ。」
無視して早歩きすると、そいつの仲間らしい数人も近づいてくる。
もうっ。 どうしてわたしには、ヘンな男ばっかり寄ってくるの?
好きだって思う人は、いつだってわたし以外の人のことを考えてるのよ。
行く手をしつこく遮られて、イライラしたわたしは
独特の形に手をかざしてみた。
まだ小さかった頃、
ここから ものすごい熱波みたいなものが出たことがあった。
そう、 あれは・・
おにいちゃんと いつも一緒にいた彼の真似をしたせいだった・・・。
「やめときなよ。」
気がつくと、彼、スーツ姿の悟天がわたしの腕をつかんでいた。
悟天は「僕の知り合いなんで、連れて帰ります。」と、奴らに告げた。
手を出してきた一人を軽々とあしらい、あとの数人をにらみつけた。
その迫力に奴らがひるんだ隙に、わたしの手を引いて夜の街を走った。
「よし、追ってこないな。」
悟天、全然息が乱れてない。 さすが。
「・・足、痛くなっちゃった。 のどもかわいた・・。」
半分嘘だけど、久しぶりに会えたからちょっと甘えてみた。
そしたら、仕方ないな、 って近くのコーヒーショップに連れて行ってくれた。
「夜にコーヒー飲むと、眠れなくなるんだよね。」
いつの間にかスーツが似合うようになっているのに
彼は子供みたいなことを言って、わたしは、少しだけ笑った。
「奴らに手をかざした時のブラちゃん、やっぱりベジータさんに似てたな・・・。」
「パパに似てるって言われたの、初めて。」
嘘だった。 ママにだけは、何度か言われたことがある。
「だけど、身を守るっていっても、あれはマズイよ。 おおごとになっちまう。」
力を抑える訓練をしてないんだからさ、 と
悟天は諭すように付け加えて、わたしは素直にうなずいた。
「さ、 そろそろ出ようか。」 「え・・・ もう?」
「だってさ・・・ ほら、もう来たよ。」
席を立った悟天が窓の方を見る。
外には、険しい表情のパパがこちらを見ていた。
[ その2につづく ]