Painful Love

ラブ』のブラ目線+アルファです。

そのとき』と併せてお読みいただけましたらうれしいです。]

お兄ちゃんがパパの後継ぎとして、この家を出てお城に住むようになったのは

10歳になる少し前のことだ。

前の日の夜に パパがママに告げていた本当の理由。

それを聞いた時、お兄ちゃんはひどく悲しそうな顔をしていた。

7歳だったわたしは、言葉の意味がよくわからなかった。

 

それでも、暇を見つけては 顔を見せに来ていたのだ。

あの後、5年くらいは。

 

そう。 

15歳になった頃から、お兄ちゃんはあまり家に来なくなった。

心配したわたしは 宇宙から戻る予定の日にはいつも、ポッドの発着場まで

無事かどうかを確かめに行った。

遠い星での任務を終えて帰還するお兄ちゃんは いつの頃からか、

ある下級戦士の少年を従えるようになっていた。

 

それが・・ 今 わたしに覆いかぶさっているこの男、 ゴテンだ。

殺すつもりで抵抗すれば、逃れられたと思う。

だけど そうしなかったのは、それ程ひどい目に遭わされている気がしないのと・・

わたしが この男に乱暴されたと知ったら、お兄ちゃんはどんな顔をするだろうか。

そう思ったからだ。

 

そんなことを考えているわたしの上で 男は、信じられない言葉をかけてきた。

・・痛い?」

何言ってるの? 

「痛いわよ。」

そう言ったら、やめるつもり?

 

本当に体を離そうとした男にわたしは言った。

「背中が、痛いの。」

地面の上に組み敷かれてるんだから、当たり前だ。

それを聞いた男・・  ゴテンは、わたしの背中と地面の間に自分の両腕をまわした。

まるで、庇ってくれるみたいに。

 

事の後、 ゴテンは何も言わずにわたしの髪に指先を通している。

彼のその表情は、膝の上に乗せたママの髪を 指先で梳く、パパの姿を思い出させた。

 

次の日。

同じ場所へ、同じような時間に行ってみると 彼はもう来ていた。

 

「どうして来たの?」

「出撃命令が無いとヒマだから、一緒に花でも探してやろうと思ったんだよ。」

 

うれしかったのに、こんなことを言ってしまう。

「嘘。 パパやお兄ちゃんに、言いつけられると思ったんでしょ。」

「言ったっていいよ。」

あっさりとゴテンは答える。

「戦場じゃ、ちょっとしくじったら あっという間に死ぬんだ。」

 

捨て石として扱われることの多い下級戦士は、その可能性が特に高い。

彼らに婚姻が許されていないのは、戦い以外に目を向けさせないため。

そして迷いを持たせないため。  わたしはそう考えていた。

 

ゴテンがわたしを抱き寄せる。

もう抵抗することもなく、彼の背中に腕をまわす。

花を探すことなんかすっかり忘れて。

 

その後、わたしとゴテンは同じ場所でしょっちゅう会うようになった。

彼はお兄ちゃんのお伴をすることが多いから、宇宙へ出てしまう日は大体わかる。

とにかく ゴテンがこの星にいる日は、必ずと言っていいほど会っていた。

 

その日も彼に会うために、わたしは家から出ようとしていた。

 

「おい。」 

聞き慣れた声に呼び止められる。

「お兄ちゃん・・ 帰ってたの。 家に来るなんて、何年ぶり?」

「自分の部屋で、髪の毛ばかりいじってるから気付かなかったろ。」

なんだか機嫌が悪そうだ。

 

「おまえ、いつもどこへ行ってるんだよ。」

「どこって・・。 どうして お兄ちゃんがそんなこと・・。」

理由は一つしかない。

問いただすよう、ママに頼まれたんだ。

 

わたしは逆に尋ねてみた。

「お兄ちゃんは、わたしが心配?」

「当たり前だろ。」

「そうよね。 たった一人の妹だもんね。」

自分で言葉を続けた後で、わたしは口に出してみる。

「キスしてくれたら、 もう出かけないわ。」

「・・何 言ってんだよ。」

 

その時のお兄ちゃんは、あの夜・・・

わたしたちが引き離される前の夜、あの時と同じ表情をしていた。

 

「母さんに心配かけるな。」

外へ出て行くわたしに、お兄ちゃんはそれだけを言った。

 

いつもの場所で、ゴテンは待っていた。

わたしが来たことに気付くと、黙ったままでじっと顔を見ている。

 

「あんた、わたしを抱くために来てるんでしょ。 だったら さっさとそうしなさいよ。」

憎まれ口をたたくわたしの、涙で濡れた頬に手を伸ばしてくる。

「死んだ兄貴の子供が・・ 今6歳で、女なんだけどさ。」

泣いている理由は聞かず、唇でそっと触れる。

「おれが暗い顔してると、こんなふうにするんだよ。

 いったい どこで覚えるんだろうな。」

 

笑っている彼の肩に腕をまわして、わたしは言った。

「ねぇ、 抱っこして。」

きょとんとしながらも、言うとおりにしてくれる。

「なんだよ。 まるで、赤ん坊みたいだな。」

 

赤ん坊。

下級戦士の子は皆、生まれてすぐに辺境の惑星に送られるはずだ。

彼の姪っ子は、そうしなかったのだろうか。

やはりゴテンの家族は、かなり変わった人たちのようだ・・。

 

「どうかしたのか?」

「ううん。 ねぇ、ちょっとだけでいいから、このまま飛んで。」

ゴテンがわたしの顔を見る。

「いいけど、誰かに見られたら・・ 」 「構わないわ。 わたしは平気よ。」

彼は また、言うとおりにしてくれた。

 

「わぁ・・・。」

どんよりとした空も、殺風景なこの星の大地も、なんだかいつもと違って見える。

 

「おかしな奴だな。 自分で飛んだ方が早いだろ。」

「いいじゃない。 わたし、重たい?」

笑いながらゴテンは答える。 

「全然。 羽根みたいに軽いよ。」

「おおげさね。」 「ホントさ。 特にこの辺、

手を少し動かして、わたしの胸をぎゅっと掴む。

「・・もう少し 太った方がいいよ。」

「もうっ、 何よ・・・。」

 

大笑いした後で、わたしはつぶやく。 

「好きよ。」

心の中だけじゃつまらないから、口に出して言ってみる。

「大好き。」

 

風がとても強いから、多分聞こえていないと思う。

だから わたしは、もう一度言った。

「お兄ちゃんよりも、 好きよ・・・。」