YOUR LOVE

もしも、明日が MY LOVE の続きで、未来天ブラの過去世界滞在編です。

ブラ目線のベジブル馴れ初めというかんじです。]

悟空さんとの修行。

悟天にとっては特に、夢にまで見たことだっただろう。

その彼が、ぜえぜえと 肩で息をしている。

「全っ然 ついていけないや。 わかってたことだけど・・。」

 

それは仕方のないことだ。

悟空さんは もちろんのこと、この時 まだ7歳である 悟飯さんだって、

何度も死線をくぐり抜けてきた 戦士なのだから。

 

そうは言うものの、悟天は ずいぶん頑張っている。

どうにかして 父親 そして兄の、今は自分よりも年下なのだけど・・ 

動きに食いつこうと 懸命だ。

 

くやしくて、とても残念だったけれど、わずか二日ほどで わたしは離脱した。

わたしの場合、ついていけないだけでなく、気を遣わせてしまっているように感じたためだ。

邪魔には、なりたくなかった。

 

どこも壊されてはいないC.C.には、立派なトレーニングルームだってあるのだ。

とりあえずは そこで自主トレを行う。

 

「ブラちゃん、君、すごいな・・。」

ヤムチャさんが、コーチをしてくれることもあった。

自分の修行があるから 毎日ではなかったけれど、やっぱり うれしかった。

ママが、頼んでくれたのかもしれない。

 

その設備を、パパは全く利用しなかった。

悟天とわたしからの警告の後、

ママのお父さん・・・ 

つまり わたしのおじいちゃんである ブリーフ博士に、重力室という物を造るよう命じていた。

悟空さんが、ナメック星という星に向かう宇宙船の中で行っていたという、重力の負荷を倍増させた修行。

それを、やろうとしていたのだ。

 

トレーニングをしていない時 わたしは大抵、机に向かっていた。

体を鍛える、 何かを学ぶ。

どちらも決して、無駄にはならないことだから。

 

そんな わたしに、ママが声をかけてきた。

「頑張ってるわね、 えらいわ。 ・・・だけどさ、 ちょっとは息抜きもしなさいよ。」

それはもう、何度も言われていることだった。

「わかってるわ。 心配しないで。」

「父さんと母さんなんかね、あんたを いろんな所に連れて行ってやりたくって ウズウズしてるんだから。」

 

そう。 おじいちゃんとおばあちゃんは、わたしを大歓迎してくれた。

おいしいものを食べさせよう、 きれいな、珍しいものを見せようと、常に心をくだいてくれている。

勉強が嫌いじゃないのなら、ここにいる間だけでも学校に通ったらどうか。

そんなことまで言ってくれた。

 

学校。

同じ年頃の友達と一緒に、たくさんのことを学べる場所。

ママからの、話でしか知らない。

わたしが生きてきた世界では、物心ついた頃には、既に無くなっていた所。

わたしは首を、横に振った。

怖いのだ。

居心地のいい世界に、どっぷりと浸かってしまうことが。

元の世界に、帰りたくなくなること・・・

ううん、 それよりも。

自分が生きて暮らしてきた、パパや悟飯さんたちが 死を賭して守った あの世界を忘れてしまいそうで、

とても 怖かったのだ。

 

そのことを、短い言葉で説いてみた。

「・・・。」

次の瞬間。

ママは何も言わずに、わたしの肩を抱き寄せた。

 

背丈は、ちょうど同じくらいだ。

わたしと同じ色の、だけどウェーブの強くかかった髪からは、甘い香りが漂ってくる。

ああ、 これは ママの匂いだ。

わたしを産んで、育ててくれたママからも、同じ匂いがしていた。

どうしてなんだろう。

ここと違って、化粧品なんて物は ろくになかったはずなのに・・・。

 

そんなことを考えていた時。

ひどく乱暴に、部屋の扉が開いた。

パパ。  思わず、そう 口にしそうになった。

 

「おい、 女。」

「なによ。 今、この子と話をしているのよ。」

「・・・。 5分以内に来い。」

それだけを言い残し、パパは立ち去った。

「まったく・・・。 今度はどこを壊してくれたのかしら。」

 

広大な庭の一角に設置された重力室。

まだ 超サイヤ人というものになれないパパは、ひどく あせっているらしい。

フルパワーで連続運転といった 無茶な使い方ばかりしているためか、しょっちゅう故障させてしまう。

大掛かりなメンテナンスが必要だという助言にも、耳を貸さない。

不具合が起きるたびに、ママは呼び出される。

呆れながら 怒りながら、それでも 工具箱を抱えて、ママは重力室に向かう。

あの中で、二人の間で どんな会話がなされているのか。

それは、誰も知らない・・。

 

 

そんな ある日、 あの爆発事故が起こったのだ。

重力室の心臓部が、ついにオーバーヒートした。

かなり大きな爆発で、C.C.の家屋の方に被害が及ばなかったことが 不思議なくらいだ。

急がされての突貫工事だったとはいえ、この地球で有数の科学者である おじいちゃんの仕事だというのに・・

見る影もなく、粉々になってしまった。

 

パパ・・!  声を上げて駆け寄る前に、ママが走り出した。

「ベジータ!」

おびただしい量の破片の中から、パパが起き上がったのだ。

けれど、また すぐに倒れてしまう。

爆心に近い所にいたのだろうか。

ずいぶんとダメージを受けているようだ。

 

破片の散らばる中に膝まづいて、ママはパパを抱き起こす。

服に血がついてしまったけれど、まるで気にならないようだ。

パパが、何事かを口にした。

ママは、すぐに それに答える。

笑顔を浮かべ、とても優しく、なだめるように。

ママの膝に頭を乗せて、パパは じっと、目を閉じている・・・

「ヤムチャ! 見てないで、手を貸してよ。」

そのままの姿勢で、ママが呼びかけた。

 

わたしの隣には、ヤムチャさんがいた。 

声をかけることは、できなかったのだ。

彼もまた、もう、わかっていたのかもしれない。

 

 

『わたしはね、とっても忙しいのよ。 仕事もあるしさ、

この美貌を保つための お手入れだって欠かせないんだから。』

そんなふうに ブツブツ文句を言いながらも、

パパに命じられれば必ず、重力室へ向かって行ったママ。

そのママは ずっと、パパのそばを離れず、看護にあたっている。

ちゃんとした看護師さんに来てもらうことは 簡単なはずだ。

きっと、他人の手に任せたくはないのだろう。

 

そんな中、ヤムチャさんは わたしに尋ねてきた。

「ブラちゃん、君、 ほんとは知ってるんだろ? 自分の父親が 誰なのかってこと。」

 

少しだけ迷ったけれど、うなずいた。

わたしは この時、どういう顔をしていいのか わからなかった。

だから 多分、すごく複雑な、おかしな顔をしていたと思う。

それを見て、ふっ、と笑みを浮かべながら、ヤムチャさんは言った。

「ブラちゃんは たしかに、ブルマにそっくりなんだけど・・

たまにさ、 あれ? ちょっと違うかな、って思うことが あるんだよ。」

そうか。 あいつに、似てたんだなあ・・。

 

小さな声で付け加えた後、こう続ける。

「トレーニングの時の、身体能力も すごかったもんな。

おれの子なら いいのにな、ってずっと思ってたけど・・  やっぱり違ったかあ。

 

何と返していいのか わからない わたしに、

ヤムチャさんは また、質問をした。

「君が生きてきた世界では、ベジータも死んじまったんだよな。

ブルマは幸せだったのかな。 あいつといた、短い間・・。」

「いいところも あった、って言ってたわ。 だけど、あんまり教えてくれない。

もう少し大人になったらねって、いつも おんなじことを言うの。」

「そうか。 恋人ができたら、ってことなのかもしれないな。

ブルマらしいな・・。」

 

しばしの沈黙。

次の言葉を探していると、良く知っている、強い気を感じた。

ヤムチャさんが、先に口を開いた。

「お客さんだよ。 ブラちゃんにだな。」

 

やって来たのは、悟天だった。

少し離れた場所から、こちらに向かって 手を振っている。

 

「そう先のことじゃなさそうだな。

あの子が、自分の両親についての、いろんなことを 知る日は。」

 

わたしは知らなかった。

大急ぎで外に出ようとする後ろ姿を見つめて、

ヤムチャさんが そんなふうに、ひとりごちていたことを。

 

久しぶりに会った悟天は、ずいぶん たくましくなっていた。

けれども同時に、顔つきが少し変わっていた。

「大丈夫なの? 修行、きつすぎるんじゃない?」

「こっちの お母さんにも 兄ちゃんにも、おんなじことを言われるよ。

けど、へっちゃらだ。 ついていけないのは、相変わらずだしね。

それに、」

 

とにかく、頑張るしかないから。

そんなふうに、続くのかと思った。 けれど違っていた。

「苦しい思いをした方がいいんだ。

そうしてないと、忘れちまいそうになるんだよ。  向こうの・・ 生まれ育った世界のことを。

それが、怖いんだ。」

「悟天・・。」

 

悟天も、同じだった。

元気だった家族が揃っている おだやかな この世界で、同じ思いを抱いて 過ごしていたのだ。

 

そして、 わたしは こうも 思っていた。

パパも、同じなのではないだろうか。

もちろん、戦うこと、自分を鍛えあげることが 何よりも好きな人だというのは わかっている。

けれども 居心地の良すぎる この世界に、はまりこんでしまうことを恐れている。

そういう理由も、あるのではないか・・。

 

もし、 ママに それを言ったとしたら。

おそらく、こんなふうに答える。

いつもどおりの、ひどく あっさりとした調子で。

『あんたたちとあいつ・・ ベジータは違うわよ。

あいつの故郷は、もう とっくに無いわけでしょ?

だったら もうちょっと この地球に馴染もうとしたって、バチは当たらないはずだわ。』

 

まるっきり 違う価値観を持ちながらも 重力室を調整し続け、

地球には存在しなかった素材でできた、戦闘服の開発まで 引き受けてあげているママ。

わたしは気付いていた。

このC.C.で、パパは ほとんど、ママとしか話をしていない。

つまり、ママにだけは 気を許している。

自分でも、気付かないうちに。

 

「ど、どうしたの? なんか あったのかい?」

 

ううん、違うの。 

わたしの身には、なんにも起きていない。

だから、悲しいのとは 少し違う。

さっきの ヤムチャさんとの やりとりや、

あの爆発事故があった日のことを、思い出してしまっただけだ。

それなのに、わたしの目からは 涙が溢れてくる。

 

「見ちゃダメ。 あっち向いてよ。」

「だけど・・。」

「いいから!」

ためらいながらも、悟天は言うとおりにしてくれた。

 

「でも、まだ 行かないでね。 まだ、ここにいて。」

「わかってるよ。」

 

わたしは泣いた。

以前よりも広くなった、悟天の背中に額をつけて。

 

かつての悟飯さんに、似ているけれど やっぱり違う。

悟天は わたしの、初めての友達。

学校というものが無くなってしまった世界で育った わたしに

初めてできた、同い年の友達だ。

 

 

窓辺に佇んでいるヤムチャの姿を目にして、ほんの一瞬、 ブルマは躊躇した。

だが、すぐに駆け寄ってきた。

彼が何を見ていたか、気付いたためだ。

窓の向こう、 少し離れた場所にいたのは、悟天とブラだった。

 

「ふふっ、 かわいいわね、あの子たち。 小さな恋人ってかんじ。

いったい、何を話しているのかしら。」

その問いかけには答えを返さず、ヤムチャは切りだした。

「ブルマ。」

「ん? なあに。」

「おれ、 ここを出て、修行の旅に出るよ。 もっと自分を追い込まないとな。

 おれが、一番弱いんだから・・。」

 

「・・・。 わかったわ、 頑張って。

だけど、ブラのトレーニングは どうしたらいいかしら。」

「クリリンに頼んでいくよ。   やっぱり 週に1〜2回程度になっちまうだろうけど。」

「そう。 でもC.C.の方に来てもらうようにしなきゃ。

ブラはすっごくかわいいから、老師様からのセクハラが心配だわ。」

「ギリギリ大丈夫だろ。

15歳未満の子は そういう目で見ないようにしてるって、前に言ってたよ。」

 

その言葉の後、二人は 同時に笑いだした。

しばしののち、 ヤムチャは言った。 とても、静かな声で。

「ブルマも、頑張れよな。」

「? うん、ありがと。 あんたこそ・・ 」

「今まで、 ありがとう。」

 

それが、別れの言葉となった。

恋人としての、二人の。

 

 

ママが子供を産んだのは、その日から一年と少しが過ぎてからだ。

産まれてきた赤ん坊を見て、わたしは言葉を失った。

こんなことって あるんだろうか。

赤ん坊は、男の子だったのだ。

驚いて、動揺している わたしを見つめて、優しい声で ママは言った。

 

「なんて顔してるのよ。 よかったじゃない。

ここと、あんたのいた世界とは、完全に別になったってことでしょ。」

「そうかもしれないけど・・。」

「孫くんも、いまだに発病してないみたいだし。

きっとさ、誰も死なずに済むのよ。

あんたたちが警告してくれたおかげで、みんな すっごく強くなってるし。」

「なら、いいんだけど。」

 

人造人間の強さ、恐ろしさを知っている わたしは、そこまで楽観的には なれなかった。

それなのに ママは もう、その先のことを考えていた。

 

「そうなると、問題はベジータよね。 孫くんとの最終決戦か。

でも、何とか収まるような気もするわ。 どういう形でかは、わからないけど。」

あのピッコロだって、今じゃ すっかり、こっちの味方だもんね。

 

そう付け加えて、笑った。

 

「ママは、パパが このまま、ここに留まってくれると思ってる?」

ママの腕に抱かれている赤ん坊、 トランクスと名付けられた男の子を見つめながら 続ける。

「この子の父親として。 そして、ママの だんな様として。」

 

「いいえ。」

きっぱりと答えた。

「そこまでは期待してないわ。

故郷の星は もう無いけど、宇宙に戻るって言うかもしれないわね。」

 

「そしたら どうするの? ママは、何て答えるの・・・?」

「仕方ないわよね。 でもね、頼むつもりよ。 もう一人、子供を授けていってほしいって。」

「子供・・。 もう一人?」

「そうよ。 今度は女の子をね。 だって ブラ、あんたを産まなきゃ。」

 

瞼の裏が、熱く、重たくなってくる。

人が死ななくても、 つらく悲しいことがなくても、涙は出てくる。

それは わたしが、この世界に来て 初めて知ったことの一つだった。

 

「いくら あいつだって、宇宙船がなけりゃ 地球から出られないわ。

えらそうにしてたって、C.C.や わたしの力がないと どうにもならないんだから!」

 

そう言って、ママは 肩をそびやかした。

あごの辺りで切りそろえられた髪が、さらさらと揺れている。

おなかが大きくなってきてからは パーマをかけるのをやめにし、

その後は ずっと 短めにしているのだ。

 

素早く 目元を拭った後で、笑顔をつくって わたしは言った。

「ねえ、 わたしにも 抱っこさせて。」

「いいわよ。 首のところ、気をつけてね。」

 

とても温かな、 小さな男の子。

瞳の色は ママと、つまり わたしと おんなじだ。

 

「トランクス・・。」

名前を呼ぶと、わたしの顔を ちゃんと見てくれた。

パパに そっくりな目を、まぶしげに こちらに向けて。