『MY LOVE』
[ 未来ベジブルの第一子がブラだったら?というIFストーリーです。
過去世界滞在編で、『もしも、明日が』を補間する内容です。]
「すごい・・。」
「すごいや・・。」
わたしも悟天も
もう、その言葉しか出てこなかった。
ママの造ったタイムマシンによって、わたしたちは無事に 十六年前の世界に辿りつくことができた。
降り立ってすぐに、複数の、巨大な気を感じ取った。
大急ぎで向かってみると、そこには・・・
大勢の敵を、またたく間に蹴散らして倒していく、奇妙な格好をした男の人がいた。
今、わたしの隣りにいる悟天、
そして、人造人間との戦いに敗れて
死んでしまった悟飯さんと よく似た顔、背格好。
それに、気。
そう。 あの人こそが
悟天と悟飯さんのお父さん、 孫悟空さんだ。
たった今、
あっという間に倒されてしまった敵、
あれがフリーザとその一味。
フリーザというのは、宇宙の覇者だった。
屈強な戦闘民族
サイヤ人の母星、惑星ベジータを滅ぼして、
王子である
わたしのパパを配下にして 顎でこき使っていた。
そのフリーザを、あんなに
あっけなく・・・。
なのに、あれほどまでの強さを誇った悟空さんは 病に倒れ、
あっさりと
この世を去ってしまうというのだ。
悟天の誕生を、見届けることもできずに。
そんなこと、させるもんですか。
ママから渡された特効薬を、わたしは
しっかりと握りしめた。
「・・・!」
悟空さんが、こちらを向いた。 わたしたちの存在に、気付いたのだ。
悟天に向かって、声をかける。
「? おめえ、悟飯・・・ じゃ、ねえよな?」
「違うよ・・。」
気も顔も、よく似ているから
間違えたようだ。
「そっか、よかった。
こんなに でかくなっちまって、もしかすっと地球じゃ 十年くれえ経っちまったかと思って焦ったぞ。」
そんなことを言って笑った後、真顔になって 悟空さんは尋ねた。
「じゃあ
おめえ、いってえ 誰だ?」
何と言って切り出すべきか
迷っている様子の悟天に代わって、わたしが答えた。
「悟飯さんの、弟よ。」
その時。
「お父さーーーん。」
男の子の声が、耳に届いた。
悟飯さんだ。 まだ、七つだった頃の・・・。
「悟空―!」
それに続いて
仲間たち、地球の戦士たちが やってきた。
あれは、ヤムチャさんね。
恋人だった彼の腕に抱えられている、若くて可愛いママもいる。
そして、皆から
距離を置いた位置に一人でいるのが・・・
わたしのパパだ。
「その子たちは?」 「誰なんだ? なんだって、こんな所に?」
気で、敵ではないことは
わかってもらえているはずだ。
けれど
悟天は悟空さんに、わたしはママにそっくりだ。
だから
却って、あやしまれてしまう。
意を決したように、悟天は話し始めた。
「僕たちは
ブルマさんの造ったタイムマシンで、十六年後の未来から来ました。
お父さんを病気で死なせないためです。」
「病気だって? 悟空がか?」 「まさか・・。」
わたしも補足する。
「この少し後に、心臓の病気で倒れてしまうの。 この時代では治せないのよ。
もしかしたら、他の星でもらってきたんじゃないかって ママが言ってたわ。」
「ママって・・。 君は?」
写真を差し出した。
信じてもらえない場合に備えて、ママが持たせてくれた。
ママが、赤ん坊のわたしを抱っこしている写真だ。
実は、ポケットの中には
もう一枚ある。
けれども、それは
まだ見せない。
それは
わたしが、どうしても持っていきたいと思ったのだ・・・。
写真を覗き込みながら、くるんくるんのヘアスタイルをした 若いママは言う。
「これ、わたしよね・・。 背景はC.C.だし、この服も持ってるわ。
だけど
こういう髪形には、これまで一度もしたことないわ。」
写真に写っているママは、顎の辺りで切りそろえた おかっぱだ。
同じく
写真を覗き込んでいたヤムチャさんが、呑気な声を出した。
「こっちの方が
ずっといいなあ。 パーマ、合わないんじゃないか?」
「何よ!」
その様子を見ていた小柄で坊主頭の・・
クリリンさんね。 話しかけられる。
「何だかんだ言って、仲がいいんだよなあ。
・・君たちの話が本当なら、君はヤムチャさんとブルマさんの娘ってことだね?」
「違うわ!」
思わず、大きな声が出た。
離れた所にいる、パパの方に視線を向ける。
だけど、こっちを、わたしの方を見てくれない・・・。
「違うわ。 わたしは・・ 」
「わからないんです。」
悟天が、口を挟んできた。
「ブルマさんは、教えてくれないんです。 だから 彼女のお父さんが誰なのか、知らないんです。」
「えーっ・・。」 「そんなこと、あるのかしら。 わたし、そんなこと するかしら・・。」
若いママは混乱してしまったらしく、いろんなことを口走っている。
「いっぺんに
あれこれ言っちゃ、まずいよ。」
悟天が
そっと、耳打ちをした。
そして
ようやく本題に・・・ 最も重要な話を始めるに至った。
「聞いてください。 今から三年後、恐ろしい敵が現れます。
それは
かつて、お父さんがやっつけたレッドリボン軍の、
残党の科学者が手掛けた人造人間で・・・ 」
悟空さんが病死した後の世界に現れる、二人組の敵。
破壊と、人々を苦しめることのみが目的であるかのような あいつらによって、
ここにいる戦士たちは全員
殺される。
パパも。 そして、最後に残った
悟飯さんも。
話を聞いた皆が、静まり返った
その時。
少し離れた場所に、何かが墜落した。
「ありゃ。 オラの乗ってきた宇宙船だ。 今頃 着いたんかー。」
「えーっ。 あんた、一体
どうやって 地球に降りたのよ。」
「地球が見えてきて
すぐ、フリーザたちが来てるってわかったからさ、
新しい技を使ってみたんだ。」
知人の気を探り当て、一瞬で
その場へ移動するという技を披露してくれる悟空さん。
皆は驚き、パパは大層
悔しそうに歯噛みしている。
そんな中、呆れたようにママは言った。
「あんた、今や何でも
ありね。」
不思議な現象を見せられたせいもあったのだろうか。
わたしと悟天の話を、皆は信じてくれたようだ。
悪の軍団、レッドリボン軍の残党である
マッドサイエンティスト、ドクター・ゲロ。
人造人間の生みの親である
そいつを、
「今から
みんなで乗り込んでさ、やっつけちゃえば いいんじゃない?」
そう提案したママを、
「そんなことしやがったら、貴様をぶっ殺すぞ。」
と、パパが恫喝するこという一幕は
あったけれども・・・
警告を受けたからには、むざむざ
やられたりしない。
新たな敵を迎え撃つため、三年間、力の限り修行する。
戦士たちの意見は、その方向で一致した模様だ。
「僕も、一緒に修行させてください。」
父親である悟空さんに向かって、悟天は訴えた。
「ブルマさんがタイムマシンで
この時代に僕を送ってくれた理由の一つは、それなんです。」
兄である悟飯さんの仇を討つこと。
孫悟空の息子として、恥ずかしくない戦士になること・・・。
「おお、いいぞ。 じゃあ、とりあえず
おめえも うちに来っか。」
「でも、お母さんが
びっくりしちゃうんじゃ・・。」
「おめえを見て
うんとびっくりすりゃあ、オラを怒ること、忘れちまうんじゃねえかな、なんてな。」
ひとしきり笑った後で、尋ねる。
「そうだ。 おめえ、名前は何ていうんだ?」
「・・・」
悟天が口を開く前に、悟空さんは言った。
「もしかして、悟天か?」
「どうして・・ 」
「やっぱ
そうか。」
悟飯さんと悟天を、代わる代わる見つめながら続ける。
「チチはよ、悟飯が生まれた時、悟天って名にしたがったんだ。
けど、オラが
じっちゃんの名前をつけたいって頼んで・・
なら
次の子が男だったら、悟天にしよう。 そう話してたんだ。」
その話を聞いた悟天は、本当にうれしそうな顔をしていた。
「あんたは、うちに来るでしょ?」
ママに声をかけられて、あわてて
うなずく。
「ねえ。
あんたは名前、何ていうの?」
「ブラ。」
「へえ・・。」
大きな目を、さらにパッチリと見開いた後で、にっこりと ママは笑った。
「何だよ、それだけ? 悟空んとこみたいに、つけたかった名前だとか、そういうのは ないのか?」
わたしが思ったことを、ヤムチャさんが言葉にしてくれた。
「あいにく
そういうのはないけど・・ かわいい名前だなと思って。
だって、ひっくり返すと
ラブになるじゃない。」
ああ。 やっぱり
この人は わたしのママだ。
どうして
わたしは、ブラって名前なの?
そう尋ねると、ママはいつも
こう答える。
『ひっくり返すと、ラブだからよ。』 ・・・
クリリンさんが、再び茶々を入れてくる。
「やっぱり、仲がいいなあ。 二人の子なんじゃないですか?」
「違うわ。」
いけないと思ったけれど、もう一度、はっきりと否定した。
パパの方を見る。
視線が合った。
今度は、わたしの方を見てくれた。