『もしも、明日が』

未来編で天ブラに挑戦しました。ベジブルの第一子がブラ、という設定です。

お許し下さるかたのみ、お願い致します。

その後、過去世界滞在編も 書いちゃいました。]

力尽きて 傷を負った少年が、地面の上に倒れている。

 

「なんだ、もう おしまいかい? 全然、たいしたことなかったね。」

人造人間の、女のほう・・ 18号が、手をかざす。

とどめをさすためだ。

 

「まあ、待てよ。」

男のほう、 17号が その手を押しとどめる。

「まだ いたんだな、 こんな奴。 空も飛んでたし、一応は攻撃もしてたよな。」

少しの間 考えているような素振りを見せて、彼は言った。

「よし、 放っとこう。」

「えっ? どうしてさ。」

「傷が治って、また来たら 面白いじゃないか。

 そういう奴がいてくれなきゃ 退屈だよ。 孫悟飯は こないだ殺しちまったしさ。」

「・・・。 まあね。」

 

「じゃあ、今日のところは引き上げるか。

あーあ、しょぼい村しか残ってなくて つまんないな。 最初の頃、ちょっと張り切り過ぎたよな。」

ぼやきながら空に浮かび、

倒れたまま 動かない少年に視線を向ける。

「バイバイ。 せいぜい頑張って、もうちょっと強くなってくれよ。」

・・・

 

「そういえばさ、」 

空の上で、18号が口を開いた。

「さっきのあいつ、 孫悟飯に似てなかった?」

「そうだったか? ああ、 そういや、おんなじような格好してたな。」

「顔も似てたんだよ。 もしかしたら・・・ 」

弟じゃないの?

 

奴らが そんな会話をしていたことを、わたしは もちろん知らなかった。

 

ノイズだらけのラジオ放送が、人造人間の出現を伝えた。

それなのに、ひどく出遅れてしまった。

ママに 止められたためだ。

 

『やめなさい。 あんたが行ったって、どうにもならないのよ。』

 

何度も そう言われた。   

 

確かに、その通りだ。

空も飛べるし、気も読める。

暴漢からママを護ることくらいなら、朝飯前だ。

だけど、人造人間に立ち向かうことまでは・・・。

一人だけで鍛えるには、限界がある。

もっと強くなりたい。 本気で、修行をつけてほしい。

何度も何度も、悟飯さんに頼んだ。

けれど、聞いては くれなかった。

 

『君に もしものことがあったら、ブルマさんはどうするんだよ・・。』

 

優しい声で諭されると、何も言えなくなってしまった。

でも、 もしかしたら・・・

本当は悟飯さんも、ママと同じことを思っていたのかもしれない。

 

くやしい。

わたしが、女の子じゃなかったら。

もしも 男の子だったとしたら、きっと一緒に戦ってくれた。

人造人間を倒すことまでは できなかったかもしれない。

けど、 それでも。 

悟飯さんを死なせやしなかった。 決して。

溢れてくる涙を、必死に拭う。

破壊された跡を調べて、死を免れた人を救うこと。

そして、遺体が残っていたら、ちゃんと葬ってあげること。

それが 悟飯さんと約束した、わたしの大切な役目だった。

 

降り立った その地に、人造人間は もう いなかった。

何も、 ほとんど なんにも無い。

都会ならば煙が上がり、がれきや破片が無数に目につくのだろうけど・・

簡素な住居が集まった集落だったのだろう。

もっとも、今は もう、

かつて都会だった場所はゴーストタウンと化し、生きている人間など ほとんど いないのだ。

 

踵を返して 飛び去ろうとした、その時。

「・・・!?」

あれは・・・

まさか、 嘘でしょ。

「ねえ、ちょっと! 大丈夫?」

 

地面に、男の子が倒れている。 ひどいケガだ。

わたしが、ついに着ることのなかった亀仙流の道着が、血で汚れている。

だけど、 ちゃんと 息をしている。

まだ、生きている。

 

彼を背負って、C.C.に向かって わたしは飛んだ。

一週間ほど前、 悟飯さんの亡骸を運んだのと、同じようにして。

 

 

重傷を負い 意識を失った男の子を背負って、わたしは飛び続けた。

C.C.に戻ると、ママは ものすごく驚いていた。

男の子の着ている道着、それから顔を、代わる代わる見つめている。

「悟天くん・・・ ?」

 

「え? 悟天くんって、悟飯さんの弟の?」

「そうよ。 間違いないわ。 生きてたのね。 元気だったのね。」

「今は元気じゃないわよ・・。」

「そう、 そうだったわ。 すぐ手当てしてあげなきゃ。 そのソファの上に下ろして。」

 

悟飯さんに弟がいることは知っていた。

けれど、産まれたときから体が弱く、ずっと 病院にいるのだと 聞かされていた。

ここ何年かなどは、尋ねても ほとんど様子を話してくれず、

もしかしたら 亡くなってしまったのではないかと思っていたくらいだ。

手当てを終えた後、ママとそんな話をしていた、ちょうど その時。

彼が口を開いた。

意識が、戻ったのだ。

 

「僕も、そう 言い聞かせられていました。

おまえは体が弱いから、あんまり外へ出ちゃいけないって。

世の中が どうなっているかってことも、ずっと教えてくれなかった。」

声も、兄である悟飯さんに よく似ていた。

 

「本当のことを教えてもらったのは、二年ほど前です。

自分が長くないってことを知った、お母さんが教えてくれました。」

体の具合が悪いのは、お母さんの方だったんです。

ぽつりと そう、付け加えた。

 

それを聞いたママは、意を決したように 切り出した。

「あのね、本当に言いにくいんだけど・・・。

あなたのお兄さんの 悟飯くんはね・・・」

 

悟飯さんの亡骸を目にした時の、ママの第一声を思い出す。

 

『チチさんに、いったい なんて言えばいいのよ ・・・。 』

 

静かな声で、彼は言った。

「やっぱり そうだったんですね。 気が、感じられなくなったから。  いつですか。」

「一週間前よ。」   

わたしが答えた。

「お母さんが亡くなったのと、同じ日だ。」

 

彼は そう言った後、

お母さんが最期に口にしたという言葉を、わたしたちに話してくれた。

 

『悟飯ちゃん・・・ 来てくれただか。 

ふふっ、 おっかあの所なんかで よかっただか ・・・? 』

 

ママが両手で、顔を覆った。

わたしは、彼を見つめている。

白い包帯を巻かれ 横たわっている彼は、確かに 悟飯さんによく似ている。

だけど よく見ると、僅かずつ、違っているところがある。

どちらかが お父さんに、そして お母さんに、より 似ているのだろう。

気がつけば、わたしの目からも 涙が溢れていた。

 

 

それから 数日。

さすがはサイヤ人との混血児、というべきなのか、

彼は驚異的な回復力を見せた。

よほど退屈だったのだろう。 ついに ベッドを抜け出した。

気を辿って探しに行くと、外で 体を動かしていた。

 

「無理すると、傷口が開いちゃうわよ。」

「うん・・。」

不満そうな顔をしながらも、こちらの言うことに、素直に従う。

だから わたしは もっと、話がしたくなった。

 

「悟飯さんね、 ここ二年位、姿が見えないことが多かったのよ。

ママは恋人ができたんだろうって言ってたんだけど・・・

あんたやお母さんの所に行ってたのね?」

「・・・。 僕に修行をつけてくれたのは、ほとんど おじいちゃんだよ。」

彼らのおじいさんという人も、亀仙流の使い手だった。

 

「兄ちゃんは 僕が戦うことに、最後まで反対してたよ。

僕が死ぬようなことになったら、お母さんは どうなるんだって よく言ってた。」

 

その言葉に、 わたしは胸を突かれた。

悟飯さんは 実の弟にも、同じことを言っていたのだ。

黙り込んだ わたしに向かって、彼は言った。

「そりゃあ うちにも来てたけど、恋人はいたと思うよ。

お母さんも そう言ってたもの。」

そして、こんなことを付け加える。

「君、 もしかして 兄ちゃんのこと、好きだったの?」

 

「悟飯さんのことが嫌いな人なんて、いるはずないわ。」

あえて、否定も肯定もしなかった。

わたしの知らない所で 恋をしていたことは寂しい。

だけど この気持ちは、やきもちなんかとは違う。

だって、やきもちっていうのは 元気で生きている、

今 幸せな人達に 妬くものだと思うから・・・。

 

「恋人って、どんな人だったのかしら。 うちのママみたいな人かも。」

「君のママって・・ 君にそっくりじゃないか。」

呆れたように言った後で、きっぱりとした口調で彼は続けた。

「兄ちゃんの恋人は、うちの お母さんみたいな人だと思う。」

お母さん。 その言葉には、涙が混じっていた。

 

顔を見ずに、わたしは そっと、彼の手をとる。

悟飯さんも 恋人と、こんなふうに手をつないだのだろうか。

その人は、知っていただろうか。

亡くなる前に、左腕を失ってしまっていたことを。

だとしたら、どんなに驚いて、悲しんだだろうか・・・。

 

瞼が また、熱く 重たくなってくる。

でも、 もう 泣きたくはなかった。

だから わたしは こう言った。

「ねえ、悟天って呼んでいい?」

彼は すぐに、答えを返した。

「いいよ。 おんなじ年だもんね。 君のことも・・ 」

「うん。 ブラって呼んで。」

 

いつの間にか、夕闇が迫っていた。

C.C.に向かって、わたしたちは飛んだ。

ちょうど、同じくらいの速さで。

 

 

夕飯の席で、ママが口を開いた。

「タイムマシンね、 すぐにでも出発できるわよ。」

あっさりと、 まるで 料理が、あと もう一品あったんだわ、とでも 言うように。

「チャージに8カ月もかかっちゃったから、テスト走行もできないわね。

ちゃんと、行って帰って来れると思うんだけど。」

 

そう。 機体が完成したのは、 もう ずいぶんと前のことだ。

本当に飛びたてる日がやってきたなんて、なんだか ピンとこない。

 

「悟飯くんに 行ってもらうつもりだったんだけど・・・。」

悟飯さんだって、おそらく 半信半疑だったと思う。

 

「悟天くん、行ってくれるわね。」

「えっ、 僕が? どこへ行くんですか?」

「あんたたちが生まれてくる、 少し前の世界よ。

孫くん・・・ あんたのお父さんに、これを渡してあげてほしいの。」

 

薬瓶を取り出す。

当時は まだ発明されていなかった、ウィルス性の心臓病の特効薬だ。

 

「お父さんに、会えるんですか・・・?」

「そうよ。 7歳だった悟飯くんにも、それにチチさんにだって。」

そこまで言って、ママは一旦言葉を切る。

「タイムマシンのすごいところはね、旅立った日に戻って来れるの。

だから、できたら むこうで しばらくの間、修行してもらうといいわ。」

「そんなことが できるなんて・・・!」

 

驚いて、でも とても うれしそうに、悟天は瞳を輝かせていた。

 

食事を終えた後、一緒にお皿を洗いながらママが言った。

「ブラ。 あんたも行きたい?」

「そりゃあ・・。 でも あれって、一人乗りでしょ?」

「窮屈なのを我慢できるんなら、何とかなるわよ。」

 

それを聞いた わたしは、すぐさま答えを返した。

「だったら 行きたい。 わたしも、パパに会ってみたい。」

パパも、わたしが赤ん坊の頃に亡くなった。

人造人間に、殺されたのだ。

 

「あんまり、いろんな期待はしない方がいいと思うけどね・・。」

苦笑いを浮かべたママに、質問をする。

以前から、疑問に思っていたことを。

「どうして、ママは自分で行こうとしないの? パパに、会いたくないの?」

「向こうには向こうの、ブルマがいるでしょ。」

「だけど、一目だけでも・・・ 」

「顔を見ちゃったら、一目じゃ済まなくなるわ。  騙してでも、こっちに連れてきたくなっちゃう。」

「・・・。」

ママなら、本当にやりそうだ。

 

「なーんてね。 いいのよ、 もう。

短い間だったけど、大切な思い出が ちゃんとあるもの。」

「じゃあ、代わりに わたしが会ってきてあげる・・・!」

頷いた後、ママは言った。

「でもね、あんまり 余計なこと言っちゃダメよ。

直接は変わらないはずだけど、どんな影響が出るか わからないし。 それに、」

くれぐれも期待しすぎないように。

 

そう付け加えた後、ママは とても小さな声で、もう一言を添えた。

「もし、向こうで暮らしたいと思ったら・・・ 

もう戻りたくないと思ったら、 そうしなさいね。」

「?  なに言ってるの?」

「あんたや悟天くんが幸せなら、わたしはそれでいいってこと。」

「そんなこと、するはずないでしょ。

戻ってきたら パパのこと、たくさん話してあげる。」

 

ママの、水仕事を終えた後の冷たい手を、わたしは しっかりと握りしめた。

 

 

翌朝。

ママに見送られ、 わたしと悟天はタイムマシンに乗り込んだ。

 

「君って度胸あるよね。」

「? どうして?」

「だってさ、 僕の両親は夫婦だけど、君のは違ったんだろ。」

「そうだけど・・ 」

「もし ヘンに意識するようになってさ、避けるようにでもなったら・・

君の存在そのものが、無くなっちゃうかもしれないんだよ。」

 

「そんなこと。」

きっぱりと告げる。

「そんなこと、させないわよ。  何としてでも、パパとママを結び付けてやるわ。」

 

そう言ったわたしの顔を、じっと見つめて悟天は言った。

「ブラって・・・ 」

初めて、名前を呼んでくれた。

「ブルマさんにそっくりだけど、お父さんにも似てるみたいだね。」

「なんで、そう思ったの?」

 

その答えは、聞けなかった。

ありえないようなスピード、それに加えてものすごい圧力。

とてもじゃないけれど、おしゃべりなど していられなくなったためだ。

 

 

なんとか たどり着いた、過去の世界。

そこでは、本当に 語りつくせないほど さまざまなことがあった。

 

まだ子供だった悟飯さん、宇宙から戻ったばかりだった孫悟空さん、

その仲間である 強く優しい戦士たち。

そして、いつも そこから離れた所に一人でいた、わたしのパパ・・・。

 

若かったママには 特にお世話になって、よくしてもらった。

出発の前夜、ママが言っていたことの意味が、よく わかった。

平和であることの幸せ。  家族や仲間の温かさ。

悟天は特に、戻りたくなかったのではないだろうか。

だけど もちろん、そんなことはしなかった。

 

そうだ、 それから・・・

やはり、 わたしたちが訪れたせいなのだろうか。

二つの世界は、完全に別になってしまった。

まず 悟空さんの発病が遅れ、悟天の誕生も ずれこんだ。

何よりも驚いたのは、パパとママの間に生まれてきた赤ん坊が、男の子だったことだ。

名前はトランクスという。

わたし自身が消えて無くなったわけではない。

けれど、かなり複雑な気分だった。

 

皆に見送られ、わたしたちは今、帰途につこうとしている。

わたしは まだ知らずにいる。

生まれ育った世界に戻った悟天が、てこずりながらも どうにか人造人間を倒すこと。

世の中を建て直していく過程で わたしたちが お互いに、掛け替えのない存在になるということ。

 

そして・・・

もうひとつの世界では、年を重ねたパパとママの元に、もう一人 子供が授けられる。

もう一人のブラ、その子も もちろん、自分の世界の悟天に恋をする。

13歳の年の差なんて、ちっとも気にせずに。