『わたしの運命』
[ 『unrequited love』 の続きで、トラパン←ウーブです。
悟天×ブラが含まれ、ウーブの許嫁の女の子(オリキャラ)が登場します。]
高校を卒業した。
ブラちゃんも、そして、うちに下宿しながら 通学していた ウーブもだ。
努力家のウーブは、二年生になる頃には常に、成績上位者のリストに名前が挙がっていた。
大学に進むよう、周りから随分薦められていたのに、彼は断った。
故郷にいる お父さんの体の具合が、あまり よくないらしい。
卒業式を終えて すぐ、送別会をする暇もないくらいに慌ただしく、ウーブは故郷へ帰って行った。
『向こうに戻ったら結婚するの? 例の、婚約者の子と。』
ブラちゃんからの質問に、曖昧な笑顔だけを返して。
ともあれ ブラちゃんと わたしは、晴れて大学生となった。
高校は付属だったから、環境は あまり変わっていない。
それでも、やりたいこと、勉強したいことが たくさんある。
だけど・・・ 少し、気になることが あった。
トランクスのことだ。
結婚を、何だか すごく、急がせるようになった。
まだ 一緒に住まなくてもいいから、届けだけでも出しておきたい。
それが無理なら、とにかく正式に婚約したい。
わたしとの仲を 世間に公表したいと言って、聞かないのだ。
夜。 いつものように ブラちゃんに、話を聞いてもらう。
もちろん、電話でだ。 明日になれば学校で会えるのだけど、とても待ちきれない。
「ふうん、 どうしちゃったのかしらね、お兄ちゃんったら。」
ブラちゃんにも、理由は わからないみたいだ。
「昨日 今日 言いだしたことなら、わたしに先を越されるのが悔しいのかしら、って思うけど・・。」
「えっ? どういうこと?」 「うふふ、 わたしね、結婚することになっちゃった。」
「えーっ? 誰と??」 「・・・。 決まってるでしょ。」
悟天おにいちゃんと?
ブラちゃんの気持ちは、子供の頃から わかっているつもりだ。
でも、あの二人が付き合うようになったのは、ほんのニ〜三か月前ではなかっただろうか。
それも、もっと ちゃんとした恋人になるまでは、
トランクスにも黙っていてほしいと言われていたくらいなのに。
理由を聞いて、合点がいった。 赤ちゃんが、できたのだそうだ。
ブラちゃんは言う。
「正直言うと、ちょっと戸惑ったけどね。 でも 悟天ってば、とってもうれしそうだったの。
それに、うちのママも。」
うちのママね、ああ見えて 結構年がいってるでしょ。
元気なうちに孫を抱かせてあげられるから、よかったなって思ってるの。
そんなふうに付け加えた。
「恋人を省略して、奥さんになっちゃうんだって思うでしょ。
でも、違うのよ。 わたしはね、恋人みたいな奥さんになるの。」
なんて、ブラちゃんらしい言葉。 わたしは心から、おめでとうと言った。
両家の顔合わせも何とか終わり、結婚式や その後の準備で、ブラちゃんは大忙しのはずだ。
だけど 今日は孫家、わたしの所に遊びに来ている。
連休だというのに 悟天おにいちゃんは仕事だから、つまらないらしい。
とってもいいお天気だ。
せっかくだから 庭先に椅子とテーブルを出し、お茶を飲みながら話すことにする。
その時。
古びた鞄を両手で持った 同じくらいの年頃の女の子が、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
だいぶ拓けてきているとはいえ、隣近所の家々とは結構な距離がある。
うちを訪ねてきたのは、間違いないだろう。
女の子は案の定、わたしたちの前で立ち止まった。
名乗った名前に聞き覚えはなかったけれども、誰であるかは すぐに わかった。
黒い瞳、浅黒い肌、そして癖のある黒い髪。
それを束ねているのは・・・ ウーブが贈ったのであろう髪どめだ。
以前 一緒に買い物に行き、ブラちゃんとわたしで、選んであげた物だった。
つまり この子は、ウーブの婚約者、許嫁だ。
藪から棒に、女の子は言う。
「やっと 帰って来てくれたのに・・ ウーブ、ワタシと結婚しないって言ったよ。」
返す言葉を探し当てる前に、ブラちゃんが尋ねた・・・ 答えた。
「それが、パンちゃんのせいだっていうの? ま、そうなんでしょうけど。」
「ブラちゃんったら・・。」
「でも! パンちゃんはお兄ちゃんの恋人で、いずれC.C.に、お嫁に来てくれる人なのよ。
これは運命、もう決まってることなの。
10歳の時、悟天の代わりに、宇宙船に乗り込んだ あの日からね。」
「運命、 もう 決まってること・・。」
その言葉を、女の子は繰り返し、つぶやいていた。
ブラちゃんは続ける。
「あのね、パンちゃんとわたし、それに お兄ちゃん、悟飯さん、悟天もだけど・・
宇宙人の血が混じってるのよ。 ウーブから、聞いてる?」
「少し。」 こっくりと素直に、女の子は うなずいた。
「頑健な肉体と、優れた身体能力の備わった戦闘民族よ。
かつて、まるで その強さに引き寄せられるように、恐ろしい敵が現れたわ。」
生まれ変わる前のウーブも、その一人だった。 だけど もちろん、そんなことは口にしない。
「この地球を守るって目的だけじゃなかったかもしれない。 でも みんな、命を賭けて戦ったわ。
うんと小さな頃から そう聞かされてたし、自分の目でも見てきたの。
だから、戦わない男なんか愛せない。」
どちらかと言うと、それはブラちゃんの話だ。
それでも 女の子は、黙って話に聞き入っている。
「あっ、ウーブだって れっきとした戦士なのよね、失礼したわ。 つまり、わたしが言いたいのはね・・ 」
「ワタシだって そうだよ。
ワタシも ずっと、小さい頃から、ウーブのお嫁さんになるんだって決めてたんだよ。」
口を挟んだ女の子の、大きな黒い瞳から、涙がぽろぽろと こぼれおちる。
「それなのに今さら・・。 女として見れない、妹みたいなものだって 言われた・・。」
「ひどいわ!」
そう、それは ずいぶん長いこと、ブラちゃんを苦しめてきた言葉でもあった。
歩み寄ったブラちゃんは、泣いている彼女の肩を、優しく抱いた。
「言ったでしょ、 パンちゃんは お兄ちゃんのものなの。
だからウーブはフリー、あなたは まだまだ頑張れるわ。
自分を磨いて、頭を使って、彼を振り向かせるのよ。」
涙を拭って、女の子が尋ねる。
「もし、ダメだったら?」
「それは それで、あなたはすっごく いい女になってるはずでしょ。
同じくらいか、もっと いい男を手に入れられるわよ。」
ってね、ママに言ってもらったことがあるの。
そう付け加えると ブラちゃんは、女の子に向かって、孫家ではなくC.C.に泊まるよう 薦めた。
翌朝。 トランクスからのメールの、着信音で目が覚めた。
休めることになったから 会おう、という内容だった。
昨日、 あれから どうなったかも 気になる。 わたしは急いで C.C.に向かった。
なのに、あの女の子は もう いなかった。
トランクスに尋ねる。 「帰っちゃったの?」
「いや、ブラが街に連れだしたんだ。 エステや美容院に行って、服もコーディネートするんだって。
母さんも一緒だよ。 張り切ってたな。」
「わあ、楽しそう。 わたしも行きたかったわ。」
「パンはダメだよ。」
休みの日は、おれと過ごしてくれなくちゃ。
いつものように、そんなふうに言うと思った。 けど、違っていた。
「大人っぽく変身させたら、ウーブに迎えに来させるんだって 息巻いてたからね。
だから、パンは行っちゃダメだ。」
「・・・。」
「それは そうと、ごめんよ。 その・・ 結婚のこと。 ちょっと、焦りすぎだったね。」
とても優しい話し方。 わたしは、何だかホッとしてしまった。
「ううん、 うれしかったわ。 だけど、」 言葉を切って、続ける。
「トランクスの奥さんってことは、C.C.社の社長夫人でしょ。
まだまだ、いろんなことを勉強しなきゃ務まらないわ。
パパもね、その辺りを心配してるんだと思うの。」
その言葉には答えを返さず、パンの手を握りしめる。
大学生になったばかりの 彼女との結婚話を、焦って 進めようとしたのは・・
理由がある。
ブラと悟天のことは関係ない。 原因は あいつ、 ウーブだ。
故郷の村に帰るという日、 あいつは おれの元に現れた。
『パンちゃんを、うんと幸せにしてあげてください。』
『・・・。 言われなくたって、一生かけて そうするよ。』
『絶対ですよ。 もし、彼女が泣くようなことがあれば、僕は すぐに やって来ます。
これは、脅し じゃないですよ。』
そう言うと あいつは、パッと 姿を消してしまった。 額に、二本の指を当てて。
『! あれは、 まさか・・ 』
言い終わらぬうちに、戻ってきた。
『瞬間移動です。 悟空さんと修行していた頃、何度か成功したんですが 安定しなくて。
でも、パンちゃんの気なら すぐに 見つけられますから。』
髪どめを、手渡される。 パンが、伸びてきた髪を束ねるのに 愛用している物だ。
『証拠として、借りてきました。 返しておいてください。』
店でこれを買った時、 おれは一緒にいた。
デザインの違う物を見比べて ずいぶんと迷っていたから、
そんなの両方買ってやる、なんて言ってしまった。
そしたら ちょっとだけ、怒った顔をしていたっけ・・。
トランクスと手を繋ぎながら、わたしは考えている。
ブラちゃんは 昨日 何度も、運命という言葉を使っていた。
10歳の時、おじいちゃんと トランクスと一緒に、宇宙を旅したこと。
確かに あれは、運命の分かれ道だったのかもしれない。
でも 実は、もうひとつ そういう経験があるのだ。
5歳の時の、あの 天下一武道会。
ウーブを連れて 行ってしまおうとする おじいちゃんを、わたしは追いかけようとした。
けど、ぎりぎりのところで踏みとどまった。
何故ならば、トランクスに 止められたのだ。
『ダメだよ、パンちゃん。 まだ 試合が、残ってるだろ。』
・・・
もしも あの時、 おじいちゃんたちの後に ついて行っていたら。
一緒に 南で、長いこと修行をしていただろうか。
照りつける日差しの中で 真っ黒になって、笑いながら・・・。
「どうかした?」
トランクスの声で、我に返った。
「ううん。 あのね、わたし 頑張るわ。 きっと、いい奥さんになる。
おばあちゃんにも ママにも ブルマさんにも・・ ブラちゃんにも負けないくらいに。」
言い終えると トランクスは、とっても うれしそうな顔をした。
「あー、おれは幸せ者だな。 でも、強いて言えば・・。」
「? なあに?」
「なるべく早く、一緒になろうね。」
「もうっ、 そればっかり。」
そんな やりとりを繰り返して、わたしたちは笑っている。
きっと これが、わたしの運命なんだと思う。