『 Unrequited Love 』
[ ひまママ的DBGT後のストーリーです。
ブラにいい仕事をしていただきました(笑)。
当サイトの二人になってしまいます・・。]
トランクスとパンが、どうしても(アニメではなくて)
おじいちゃんが戻らないということを知ったおばあちゃんは 深いため息を一つ吐いて、
とても悲しそうな顔をした。
だけど、わたしたちの前では涙を見せなかった。
だから わたしも、家族の前では泣けなかった。
今のわたしと ちょうど同じ年の頃のパパもそうだったと、少し後になってからママが教えてくれた。
その頃 パパの支えになってくれたピッコロさんも、今は同じ世界にはいない。
だけど、今のパパにはママがいる。
悟天おにいちゃんには、誰がいてくれるんだろう。
あの、今 付き合っている彼女だろうか。
そして、わたしには・・・。
そんなことを考えながら、特にあてもなく空を飛んだ。
ずいぶん遠くまで・・・ いつの間にか、都の方まで来てしまった。
都は復興の真っ最中で、建設現場があちこちにある。
C.C.が見える。 灯りがともっている。
特別に頑丈な造りであるC.C.は、あの戦いでも全壊はしなかった。
夜空から、しばらくの間 都を見下ろし、わたしは家に帰ろうとした。
すると、 とても聞き覚えのある声が 耳に届いた。
「パンちゃん。」
「トランクス・・。 帰ってたの。」
トランクスは、とても忙しいはずだ。
「今日は早めに帰れたんだ。 どうしたの? 寄っていかないのかい?」
「うん。 ちょっと、都の様子を見に来ただけだから。」
そう答えた後、 わたしはトランクスに背中を向けて 飛び去ろうとした。
「パンちゃん。」
さっきと同じように、名前を呼ばれる。
「おいで。」
振り向くと、こちらに向かって 手を差し伸べている。 「どうして・・?」
「いいから。 こっちにおいで。」
おずおずと近づく。 両腕で、あっという間に 肩を引き寄せられる。
「トランクス・・?」 何も言わない。
夜空に浮かんだままで、彼の腕の中に閉じ込められる。
温かな、厚い胸に 顔を埋める形になる。
もう ずっと前、 うんと小さかった頃のことを わたしは思い出していた。
忙しかったパパに代わって、修行という名の おもりをしてくれた・・・
「おじいちゃん。」
わたしは泣いた。
空の上で、トランクスの腕の中で 声をあげて、いつまでも いつまでも泣いていた。
まるで、小さな子供みたいに。
あれから6年が過ぎ、わたしは高校生になった。
ブラちゃんと同じ学校に入学し、クラスも同じだ。
家が遠いわたしは、あまり ゆっくりできないのが残念だけど、
放課後にどこかのお店に寄っておしゃべりするのが、とっても楽しかった。
そう。 ブラちゃんには、いろいろ 話を聞いてもらっている。
実は、少し前から わたしは、トランクスと二人だけで会うようになっていた。
まだ とても、恋人だなんて いえなかったけれど。
もう一つ、ニュースがある。
なんと あのウーブも、わたしたちと同じ高校に通い始めた。
ウーブの故郷には、小さな分校しかない。
それに子供の頃は おじいちゃんとの修業に明け暮れていたから、
勉強の方が少し遅れてしまっていた。
彼はいずれ、故郷の村の指導者になる立場の人なのだ。
そのために 今、年下のわたしたちに混ざって さまざまなことを学んでいる。
彼の勤勉さに、パパはいつも とても感心していた。
そう。 ウーブは うちに、孫家に下宿しているのだった。
ある日のこと。
昼休みが終わる頃、早めに席に戻ろうとしたわたしは 凍りついたようになった。
誰かが 机の上に、置きっぱなしにしたファッション雑誌。
その表紙で、にっこりとほほ笑んでいるモデルの顔を見てしまったせいだ。
つかつかとブラちゃんが歩み寄り、雑誌を掴む。
「誰よ。 こんな物 置いたの。」
そして、わたしに向かって小声でささやく。
「気にしちゃダメよ、パンちゃん。 あんな記事、嘘っぱちなんだから。」
雑誌の表紙を飾っているモデルの女性は、少し前にC.C.社のCMに起用された。
若い女性のファッションリーダー的存在で、女優に転身するという話も出ている、
人気絶頂の彼女。
その恋人は なんと、あのC.C.社の社長である。 ・・・
そんな記事が、週刊誌を賑わせているのだ。
「まったく、マスコミはいいかげんだわ。 このモデルの子はね、」
わたしたちよりも いくつか年上である彼女のことを、ブラちゃんは そんなふうに呼ぶ。
「本当は、アイドルと付き合ってるらしいわ。
お兄ちゃんのことを、隠れ蓑にしてるのよ、サイテー。
おかげで、家にまでカメラマンが来たりして・・。いい迷惑だわ。」
「・・・。」
トランクスも、同じことを言っていた。 ただし、電話でだ。
近頃は時間がなかなか合わず、あまり会っていなかった。
授業が終わり、いつのもようにブラちゃんは尋ねる。
「ねえねえ、〜に寄っていかない? ちょっとなら 時間、平気でしょ?」
「うん。」
「前みたいに、うちに泊まりに来れたらいいのにね。 そしたら、もっと ゆっくりできるのに。」
わたしは まだ、トランクスとのことを家族にちゃんと話していなかった。
だけど、 もう 何となく、気付かれているようだ。
高校生になってからは門限をきっちりと決められ、C.C.に泊めてもらうことも禁止されてしまった。
「悟飯さんって、そういうこと言わなそうなのにね。 うちのパパと違って。」
そんなことを話していたら、背後から よく知っている、大きな気が近づいてきた。
足を止めて、振り返る。
「ウーブ、 わたし ブラちゃんと買い物に行くから、先に帰ってね。」
ジェットフライヤーの入ったカプセルを手渡そうとすると、ウーブは こう言った。
「あのさ、今日は僕の買い物に付き合ってくれないかな。」
「ウーブの?」
「珍しいわね。 何が買いたいの?」
「妹へのおみやげだよ。 誕生日に、何もあげられなかったから。」
そういえば、あと少しで春休みだ。
宿題の無い春休み。 ウーブは故郷に帰って、のんびりしようというのだろう。
「もちろん、いいわよ。 ねっ。ブラちゃん。」
「うん。 わたしたちが選んであげる。」
大きな店が建ち並ぶ街に向かって、わたしたちは歩き出した。
ブラちゃんも わたしも、プレゼント選びは大好きだ。
三人で何軒かの店をまわって、とても楽しく買い物を終えた。
「こういうの わかんないから助かったよ。 どうもありがとう。」
包装してもらった小さな包みを 注意深くかばんにしまったウーブを見て、
わたしは こんなことを口にした。
「本当は、妹さんのじゃないんでしょ?」
それを聞いたブラちゃんが、すかさず口をはさんでくる。
「えーっ、ウーブって 恋人がいるの?」
「恋人っていうか、婚約者よね。 ねっ。」
子供の頃から、決められていたそうだ。
手紙がしょっちゅう届くし、写真も見たことがある。
わたしたちと同じくらいの年の、とってもかわいい女の子だ。
「へえー。 そんな人がいたの。 故郷の村でウーブのこと、待ってくれてるのね。」
「・・・。」
ウーブは何故か、何も答えなかった。
大きな通りに出る。 人波の中、思わず立ち止まってしまう。
目の前にそびえたつファッションビルの、壁面の広告が変わった。
あの、例のモデルが、笑顔を見せている。
華やかな、そして どこか扇情的な・・・。
「パンちゃん、行くわよ。」
ブラちゃんの言葉が終わるよりも早く、わたしはきびすを返した。
「ごめんね。 先に帰る・・。」
走って、路地に入る。
近くに人がいないことだけを確かめて、素早く気を溜め、地面を蹴って空に浮かんだ。
人前では なるべく飛ばないように言われていたけど、もう、とにかく この場を去りたかった。
ウーブがすぐに追いかけてくることも、
一人残されたブラちゃんが携帯を取り出したことも、わたしは知らなかった。
「お兄ちゃん、やばいかもよ。」 そう つぶやきながら。
「パンちゃん。」 やっと追いついた。
「ウーブ・・。 あっ、ごめんね。 ジェットフライヤーを渡すの、忘れちゃってたわ。」
「いいさ、たまには。」
泣いているのかと思った。 だけどパンちゃんは、僕の前では涙を見せない。
トランクスさんとのことを、ちゃんと打ち明けられたことはない。
でも、二人が付き合っていることは もちろん知っていた。
「僕、パンちゃんは とってもきれいだと思うよ。」
パンちゃんが あの、モデルの女の人を見て動揺するのは、そういう・・
劣等感などではないことは わかっていた。
有名人との仲を噂される、公人の立場であるトランクスさん。
普通の学生として暮らしているパンちゃん。
その、追いつけない距離みたいなものに 苦しんでいるんだと思う。
だけど僕には、これしか言ってあげられない。
「本当に、本当に きれいだと思う。」
「ありがと、ウーブ。 なぐさめてくれるのね。」
「違うよ・・。」
「ううん、わかってる。 ねえ、ウーブ。 ごめんね。」
「? 何が?」
パンちゃんの黒い瞳が、僕の目をじっと見つめている。
「わたしね、小さい頃、ウーブのこと ちょっとキライだったの。」
「・・・。」
「おじいちゃんを連れて行っちゃったと思ってた。 ほんとは、逆だったのにね。」
目を伏せて、小さく笑う。
「パンちゃん。 僕は、 」 「ダメよ。」
パンちゃんは顔を上げ、真剣な表情で僕に告げた。
「ウーブのことだけを待ってる あの子のこと、忘れないであげて。 ねっ。」
その言葉で 僕は、いくつかの事実に気付かされた。
大きな気が、近づいているのを感じていた。
「パン。」
よく知っている声が、彼女のことを呼んでいる。
パンちゃんは振り向いたけれど、すぐに背中を向けてしまう。
「どうして? ブラちゃんに、何か言われた?」
「違うよ。 パンにどうしても会いたかったから、来たんだよ。」
「嘘・・・。」 つぶやいた後で、彼女は言った。
「仕事中でしょ。 戻らなきゃダメよ。」
「おれの会社だ。 ちょっとぐらいの時間、何とでもなるんだよ。」
「ひどい社長だわ・・・。」
答えを返すことなく、トランクスさんは 再び彼女を呼んだ。 ただし、別の呼び方で。
「パンちゃん。」
彼女は、はっとした顔になる。
「おいで。」 手を差し伸べている。
「ごめんね・・・ 」
小さく、僕にしか聞こえない声で その一言を口にして、
パンちゃんは彼の腕の中に、文字通り飛び込んでいった。
孫家への帰り道の途中で、僕は考えていた。
さっき、彼女の言葉によって気付かされた事実。
それはパンちゃんへの、僕の気持ちではない。
そんなことは、前から とっくに自覚していた。
少し前、何かの時にトランクスさんが言っていたこと。
『パンって、自分の魅力に気付いていないところがあるだろ。 そこがいいんだよな。』 ・・・
そうじゃないということに、気付いたんだ。
素直で優しい、きれいなパンちゃん。
彼女のことが好きな男は、学校にだって何人もいる。
彼女はそれに、敢えて気付かないふりをしているんだ。
トランクスさんのことだけを待っているから。 彼だけを、ずっと好きでいるために・・・。
孫家に戻った僕を、ビーデルさんが迎えてくれる。
「おかえりなさい、ウーブ。 パンは? まだみたいね。ブラちゃんと一緒?」
「・・・。 僕、ちょっと 村に帰って、自分の家に顔を出してきます。」
「えーっ、 これから? ずいぶん急ね。 何かあったの?」
「いえ、しばらく帰ってないんで、ちょっと心配になっちゃって。」
「そう。」
怪訝な顔をしながらも、ビーデルさんは頷いてくれる。
「試験も終わったし、いいわよね。 待ってて。 うちから、持っていってもらいたいものがあるの。」
せわしなく台所へ消えていく後ろ姿を見送りながら 僕は思っていた。
パンちゃんの気持ちは、決して変わらないだろう。
トランクスさんとパンちゃん、 あの二人の間に割り込むことなんて、できやしない。
だけど もう、僕は自分の気持ちに嘘はつけない。
たとえ、誰かを傷つけても。
僕のことだけを待っていてくれる人を、泣かせることになったとしても。