『薬指の決心』

嵐の女神』の続き、やっぱり一応GT寄りの二人のつもりです。

そうなりますと何故か、あんまり えろく書けないのですよね・・・。]

『今度は、どこかに出かけようよ。』

トランクスが言ってくれた その言葉どおり、買い物や映画、遊園地にも一緒に行った。

忙しいトランクスが、わたしのために つくってくれた時間。

本当に楽しかったけれど、近頃は、出かけないことの方が多くなっている。

例の・・ 彼の隠れ家とも呼ぶべき ホテルの一室で、過ごしているのだ。

 

あのC.C.社の、トップの立場であるトランクス。 

時にはマスコミに出ることもあるから、結構 顔を知られている。 

露骨にジロジロ見られたり、見知らぬ人から突然、声をかけられたこともあった。

でも、一番の理由は それじゃない。

手をつないで歩いていると、 あるいは肩に手が触れると・・・ 

二人きりになりたくなる。

他の人がいない所に、行きたくて たまらなくなる。

 

わたしの そういう気持ちを、トランクスはわかってくれた。

おれも おんなじだよ、と言ってくれた。

そんなふうに、スムーズに事が運んだのは・・・ 

年が離れているせいだろうか、 やっぱり。

 

ホテルの部屋の、ベッドの上。

手のひらが、唇が、わたしの肌の上を這う。 

体中の あちこちが、どうしようもなく 熱くなる。

以前観た映画の、ベッドシーンを思い出す。 

恋人に抱かれていたヒロインが、いったい どうして あんな声を出していたのか、

その理由が よくわかった。

こんなに顔を近づけているのに、わたしの名前を、何度も呼んでくれる。 

「パン・・。」

 

ところで、こういうことをする時のトランクスは 決まって、やや ゆったりとしたジーンズを穿いている。

長いキスの後、どうしてなのか尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。

「だって、普通のズボンじゃ しわになるだろ。 

だからってジャージーなんかじゃ、すぐ脱いじまえるから 抑止力にならないし。」

「抑止力って・・。」 

「パンちゃんの、これだって そうだよ。」

わたしは、たった一枚だけを身につけている。

「いや、貞操帯かな。 パンちゃんの場合は。」 

「なにそれ。 へんなのー。」

そう。 

ベッドの上で肌を合わせて、何度もキスをするというのに、

わたしたちは まだ、最後までは していなかったのだ。

 

伸ばしてくれた左腕に、頭を乗せながら言う。 

「わたしは 構わないって言ってるのに。」

「構わない、じゃ ダメなんだよな。 したい、って言ってくれなきゃ。」

「そんなこと・・。」  

ほんとは いつも、思ってる。

だけど恥ずかしいし、何だか ちょっと悔しいから、口に出さないだけなのに。

 

「わたしはもう、結婚できる年なのよ。」

トランクスと二人きりで会うようになって、一年になろうとしていた。

「もちろん、 わかってるよ。」  

あいている方の手が、わたしの左手を取る。

薬指には、控えめな石のついた指輪が 小さな光を放っている。

少し前、誕生祝いに贈られた物だ。 びっくりしたけど、うれしかった。

本物の婚約指輪をもらう時と、多分 同じくらいに。

 

「でも、結婚できるっていっても・・ 保護者が許せば、だからなあ。」  

そう ひとりごちて、続ける。

「これのこと、家族・・ 悟飯さんは、何か言ってた?」  

この、指輪のことだ。

「うん、 一度だけね。 つけたり はずしたりしてたら なくしちゃうよ、って言われちゃった。」

「うっわ〜・・・ そうかあ・・・ 」  

トランクスは、自分の額を手で押さえた。 考えこんでいるような顔だ。

彼のことを パパとママには、まだ ちゃんと話していない。

 

「おっと、 そろそろ時間だ。」 「まだ、いいわよ。」

「ダメだよ、 ちゃんと 勉強もしなきゃ。 試験が近いんだろ。」 

「つまんないの・・。」

しぶしぶと起き上がり、ちらばっていた服を身につける。

トランクスはといえば クロゼットの扉を開けて、改まった雰囲気のジャケットを選び出した。 

「? 仕事なの? 今から?」

「違うよ。 パンちゃんを、家まで送るんだ。」 

「え? いいわよ、まだ明るいもの。」

「また飛んで行く気だろ。 ダメだよ。 新しいエアカーなら、結構速いよ。 それでさ、」 

一旦、言葉を切る。 

「日曜だから、悟飯さん いるよね?」 「うん、 多分。」

 

携帯電話を 開いて見るのが、少し怖い。 邪魔されたくなくて、電源を切っていたのだ。

「じゃあ、家に あがらせてもらって、挨拶するよ。」 

「挨拶? 何て?」

「・・。 あと何年かしたら、もっと ちゃんとした指輪を贈りたい。 そんなようなことだよ。」

「えーっ。」  

それって・・・

その時、電話が鳴った。 

わたしのでは もちろん なくて、トランクスの、それも 仕事用の携帯電話だ。

「くそー・・。 切っておくの、忘れちまってた。」

 

少しの間 待っていたけど、どうやら ややこしい話みたいだ。

リモコンを操り、大きな窓を開く。 強い風が、部屋に吹き込む。

日の沈みかけた、だけど よく晴れた空に、浮かび上がる。

「パン!」   

電話中のトランクスが、大きな声で わたしを呼んだ。

ベッドの上に いる時以外に、そう呼ばれたのは初めてだ。

うれしくて、だけど すごく照れくさくて、わたしは大きく手を振った。

そうすると、薬指を飾っている指輪が 日差しを受けて、

より一層 キラキラと輝いた。

 

「ああ、悪かった。 うん、婚約者と一緒だったんだよ。」

わたしは もちろん知らなかった。  

トランクスが電話の相手に、そんなことを言っていたなんて。

 

 

一方 孫家では 悟飯が、ひどくイライラした様子で 受話器を置いた。 

「パンのやつ、電源を切ってるな・・。」

「もう、 やめなさいよ。」 

ビーデルが たしなめる。

「あなたってば 何だか、うちのパパに似てきたみたいよ。 ・・あら。」  

電話が鳴った。

 

噂をすれば何とやら、かけてきたのはビーデルの父、ミスター・サタンだった。

通話を終えたビーデルは言う。 

「お客様が重なって、パーティーみたいになってるんですって。 

ちょっと 手伝いがてら、顔を出してくるわ。」

上着をはおりながら、悟飯が答える。 

「僕も行くよ。 久しぶりだし、人手があった方がいいだろ。」

「そう? じゃあ やっぱり、パンに電話しなきゃ。」 

「いや、必要ないよ。 もう、着く頃だ。」

 

一分ほどが過ぎたのち、空の上に、彼らの娘であるパンが 姿を現した。

「サタンおじいちゃんの所に行くの? いいな、わたしも行こうかしら。」

それには答えず 悟飯は、娘に向かって問いかける。

「彼は、家まで送ってくれないのかい?」

「・・・。 送ってくれようとしてたの。 だけど、お仕事の電話がかかってきちゃったから・・。」

「今度からは送らせなさい。 僕は 君のママを、送らなかったことなんかないよ。」

 

「そうだったかしら?」 

笑顔で茶々を入れた後、夫の手を取り、ビーデルはささやいた。

「パパと あなたには、大きな違いがあるわ。 パパは独りだけど・・ 

あなたには わたしがいるでしょ?」

「そうなんだけどね・・。」

それだけを言って、悟飯は妻の手を握り返した。

二人の左手には もちろん、指輪が光っている。 

それは もう、体の一部のように見えた。

 

パンが、両親に声をかける。 

「わたし、やっぱり やめておく。 サタンおじいちゃんに、よろしく言っておいて。 

試験も近いし、家で勉強するわ。 でも・・

言葉を切って、続ける。 

「電話は してもいいでしょ。 パパが話したがってたって、よーく 言っておくから。」

 

苦笑いを浮かべる両親を送りだすため、小さく手を振る。

その薬指には やっぱり、指輪が光っている。