『秘密のデート トラパン編』
[ 結婚後、一女をもうけた後の二人です。
祖父となったベジータが、ちょっとだけ登場します。
天ブラ編と併せてお読みいただけましたら うれしいです!]
世の夫というのは普通、たまの休みには家でのんびりしたいものではないだろうか。
妻が子供を連れて出かけるとなれば、喜んで留守番を引き受ける。
しかし、トランクスは違っていた。
パンが 一人娘、そして今では義妹となったブラと 女三人で買い物に行くことを告げると、
明らかに不機嫌になった。
ブラがそれをからかい、トランクスが怒り、間に入ったパンが 兄妹をたしなめる。
五才になった娘のキャミは、その様子を じっと観察している。
ちなみに 悟天とブラの息子たちはといえば、初めからついていく気など さらさら無く、
時折茶々を入れながら通り過ぎていくだけだ。
そんなこんなで結局、トランクスとパンが夫婦水入らずで出かけることになった。
キャミは同行しなかった。 広々としたC.C.で従兄たちと遊んでいる方が良いのか、
それとも気を利かせたのかは定かではない。
ともあれ街に出たパンは夏物のセールを大いに活用し、家族の衣類を買い揃えた。
娘のために店内をあれこれ物色していると、トランクスが口を挟んできた。
「別に安くなってなくたって、好きな物を選べばいいのに。」
「いいのよ。すぐに背が伸びるし、トレーニングすると傷むから、服は消耗品だもの。」
望めば どんな贅沢だってできるというのに、パンは あくまでも堅実だった。
この性分は、父方の祖母から譲り受けたものかもしれない。
「トランクス、 わたし ちょっと、向こうのお店を見てくるわ。」
「じゃあ、おれも付き合うよ。」
「ううん、 すぐに済むから、そこの本屋さんで待ってて。」
パンは小走りでその場を去った。
妻が何を買いに行ったか、トランクスは大体わかっていた。
「おれに選ばせてくれればいいのに。 でも こういうとこに入ってる店じゃ、ちょっと無理か。」
買い物を済ませた二人は、ショッピングセンターを後にした。
「じゃあ、そろそろ、」 言い終わらぬうちに、トランクスは妻の手を引いて歩き出す。
「まだいいよ。 二人きりで買い物なんて、久しぶりじゃないか。」
トランクスは あいかわらず、優しいけれど強引だ。
小さなため息をついて、パンは夫と手をつなぎながら歩いてゆく。
いつの間にか、町外れまで来てしまった。 特徴のある建物が目に入る。
あれは・・・。
何年か前に、ブラが言っていたことを思い出した。
『デパートなんかが ある辺りから しばらく歩いた所にね、
まるでお城みたいなヘンな建物ができたのよ。』
『結構 面白かったわよ。 パンちゃんも、お兄ちゃんとどう? マンネリ防止になるかもよ。』
「どうしたの?」 つないだ手を離すことなく、トランクスがパンの顔を覗き込む。
「ううん、 何でもない。 行きましょ。」
パンの視線の先にあったものが何であるか、トランクスは すぐに理解した。
「おもしろそうだな、 行ってみよう。」
「えっ? そんな、時間だって あんまり、」
「いいじゃないか。 何かあれば電話してくるさ。 そしたら飛んで帰ればいいよ。」
彼は本当に強引なのだった。
ホテルの部屋。
「こういう所って、昔っから あまり変わらないんだな。」
失言ではなく、どちらかと言えば わざとだ。 それにより彼は、妻の反応を見ているのだ。
「こういう所に、来たことあるの・・?」
予想通りの言葉を発したパンを、トランクスは後ろから抱きしめた。
「仕方ないだろ。 あの頃、パンは まだ子供だったんだから。」
片手で顔をこちらに向かせて、唇をふさいでやる。
今は夏だ。 トランクスは腕の中にいる妻の、ワンピースの背中にあるファスナーを下ろす。
上の下着も 素早く、馴れた手つきで外してしまう。
ストッキングを穿いていないパンは 今、一枚だけしか身につけていない。
ダブルベッドの上で、そのままの姿で、執拗な愛撫を ほどこされる。
「トランクス、 ねえ、シャワーを浴びてから・・ ね?」
「うん、 待って。 もうちょっとしたら、連れてってあげる。」
「・・あ ・・っ、 」 「パンは濡れやすいな。 ほんとに、可愛い・・。」
しばしののち。 さっきよりも 確実に重みを増している下着を脱がせながら、トランクスは言った。
「汚れちゃったな。 帰る時は、今日買ったやつをつけなよ。」
「なんで知ってるの?」 「わかるよ、そんなの。」
そして、ある場所に視線を向けながら こう続けた。
「せっかく こういう所に来たんだから、変わったこともしてみたい、けど・・」
トランクスが見つめていた物。
それは部屋の隅にしつらえられた、あやしげなグッズの自動販売機だった。
パンの頬が、ますます赤く染まる。 「イヤよ、 あんなの・・。」
「うん、 そうだな。」 意外にも、彼は あっさり引き下がった。
「おれもイヤだ。 パンの中に、おれ以外の、なんて・・」 「もう、バカっ!」
二人は笑いながら、バスルームへと向かって行った。
夕方。 二人はようやくC.C.に帰り着いた。
エプロン姿のブラが迎える。 「おかえりなさーい。」
「ブラちゃん、今日はごめんね。」
「いいの いいの。 いつもお世話になってるもんね。 もうすぐ夕飯よ。一緒に食べていって。」
「ありがとう。わたしも手伝うわ。」
そう言ってパンが、持っていたバッグを隅に置いた。
「ブラ。 パンをこき使うなよ。」 「もう、トランクスったら。」
「お兄ちゃん。」 ニヤリと笑ったブラが、自分の唇に指を当ててささやく。
「口紅がついてるわよ。」 「え、 あっ・・。」
あわてて口を押さえた後で、トランクスは はっ となった。
「嘘つくな。 パンは化粧してないぞ。」
怒りながら、あるいはケラケラ笑いながら 大人たちが その場を去った後。
トランクスとパンの娘、キャミが母のバッグの中身をゴソゴソと物色し始めた。
それを見て、悟天とブラの長男が声をかける。「何やってんだ?」
「ママにね、かわいいTシャツを買ってきてって頼んだの。 トレーニングの時にも着られる物よ。」
活発なキャミだったが、女の子らしいところも多分にあった。
兄弟の中では長男が 一番 よく相手をしてやっており、仲が良かった。
「キャミは たくさん持ってるじゃないか。」 「だって、かわいいのがほしいもん。 あっ、これ・・。」
きれいな色の紙袋を発見した。 封を剥がす。
「あれー?」 中身を広げていると、ブラに見つかってしまった。
「こらっ!あんたたち、何やってるの、勝手に! もう夕飯よ。」 「はーい。」
「ママのより 大きいね。」
長男の残した捨てゼリフに、ブラは目を吊り上げる。
そう。 紙袋から出てきた物は、パンの下着だったのだ。
「ほんと、すごーい。 カップが大きい・・。 じゃなくって! これ、新しい物じゃないわよね。」
値札がついていないし、それに何だか・・。
おかしいわね。 洋服なら ともかく、出先で下着を とりかえるなんて。
パンちゃんたちも、ご休憩してきたのかしら? ふふっ。 後でゆっくり聞かせてもらおうっと。
そんなことを考えながら、ブラはそれを袋に戻した。 ただし、上だけしか無い。 なんと、下は・・・。
「いただきまーす。」
休日出勤で不在である悟天を除いて 総勢10人。 にぎやかに夕食が始まった。
こうした場で キャミは迷わず、少し離れた席についている祖父の、隣の場所を陣取る。
子供たちの中で紅一点である彼女は 皆のアイドルなのだが、誰一人として不平を口にしない。
一番強い者が良い目を見るという、サイヤ人のセオリーが身についているためかもしれない。
しつこく甘えたりはしないけれど、食事中、キャミは あれこれ 祖父に向かって話しかける。
見かねたパンが声をかけた。
「キャミ、こぼしちゃうから まっすぐ向いて食べなさい。」
「こぼしたら お着替えするもん。 ママばっかりずるいわ。」
「えっ・・?」 服は とりかえてなどいない。
「あ、ほら、こぼした!」
拭く物を手渡すよりも早く、キャミがポケットを探った。
「わたし、ハンカチもってるのよ。 あれ? これは・・ 」
「・・・。」 「きゃあっ! ダメッ、 広げないで!」 「しまいなさい! 早く!」
大人はうろたえ、子供たちはキョトンとしている。
その中でベジータが ぼそりと口を開いた。 「帰って来たぞ。」
ほっとしたようにブラが答える。 「あら、じゃあ お出迎えしてくるわ。」
いそいそと玄関に向かった。 悟天が帰宅したのだ。
「ふん、悟天の前でだけは 女の顔になるんだよな。」
「トランクスったら・・。」 夫の皮肉を、パンが小声でたしなめる。
その時、キャミは気付いた。
「おじいちゃん、笑ってる・・。」
語りかけても いつも、ごく短い答えしか返してくれない祖父。
優しい言葉をかけてくれるわけではなく、二人でどこかに行ったことも無い。
だけど彼女は、祖父のことが大好きだった。
「悟天、お疲れさま。」
夫から鞄や上着を受け取りながら、ねぎらいの言葉をかける。
「うん。 なんだか賑やかだね。 パンたちが来てるんだ。」
「そうよ。さっきは大変だったんだから。 そうだ、ねえ ねえ。 代休って いつとれるの?」
今度のお休みには パンちゃんに子供たちを見てもらって、二人で出かけちゃおうっと。
「また あそこに行くのもいいかも。」
ブラは にっこりと笑った。