『秘密のデート 天ブラ編』
[ 結婚後の悟天×ブラのお話です。
婚約中のトランクスとパン、祖父となったベジータもちょっとだけ登場します。]
四人目の子供を産んでから、数カ月が過ぎた。
夫婦の寝室には、子供たちが夜泣きをしたら すぐに駆け付けられるよう
スピーカーが備え付けられている。
ダブルベッドの上でブラは、夫である悟天に向かって話しかけた。
「ねえ、明日
二人で出かけましょ。 久しぶりにデートしたいわ。」
大きな瞳を縁取る睫毛と、同じ色をした長い髪。
つややかなそれに指を通しながら
悟天は答える。
「でも、子供たちの面倒は? 食事の時なんか大変だよ。」
特に四人目の子は、離乳食を始めたばかりの赤ん坊だ。
「そうね。 だけど自動調理機に入れる食材はちゃんと揃えておいたし・・ 」
一旦言葉を切って、ブラは満面の笑みを浮かべる。
「パンちゃんに来てもらうことにしたの。」
「パンに? でも週末だし、予定があるんじゃないの?」
「うん、デートだったみたい。 なのに
お兄ちゃんの方に仕事が入っちゃったんですって。
だから 頼んじゃった。」
少しだけ呆れたように悟天は言った。
「ちゃっかりしてるなあ。 トランクスが知ったら 何か言ってくるよ、きっと・・。」
「だって・・。 そりゃあ子供たちは可愛いけど、たまには二人だけで過ごしたいんだもの。」
じっと、目を見つめる。 手をとって、自分の頬に当てさせる。
「ね、いいでしょ・・。」
その一言で、悟天は
いつも、何も言えなくなってしまう。
そして、黙ったまま
彼は、妻であるブラを抱き寄せるのだ。
翌日。 昼前にC.C.
にやってきたパンに後のことを頼んで、二人は車で街へ向かった。
いつもよりも早く起きて身支度をしたブラは、化粧も服も完ぺきだ。
考えてみれば、身軽な状態で街に出るのは久しぶりなのだ。
専用のカプセルに車を収納すると、ブラは悟天の手を引いて歩き出した。
デパートやショッピングセンターの立ち並ぶ繁華街から、少し外れた辺りを目指して。
何故かというと、雑誌の記事で目にしたセレクトショップに行ってみたいのだという。
「そういうお店には、子連れじゃ
とても入れないものね。 あら・・ 」
うす曇りだった空がみるみるうちに暗くなり、雨粒が落ちてきた。
どんどん激しくなり、まるで地面に叩きつけるように降ってくる。
「もうっ。 天気予報じゃ、何も言ってなかったのに。」
「ブラ、こっちに・・。」
そう大きくはない建物の
軒下に避難する。
自然と身を寄せ合うような形になり、ブラは頬が熱くなる。
何故なんだろう。 外にいるせいだろうか。
毎晩同じベッドで眠って、昨夜だって抱かれたはずだというのに。
ふと気がつけば、悟天は何かをじっと見ている。
視線の先にあるのは
どうも、少し離れた場所にある建物のようだ。
「何? あれ。」 何かを模しているような、どこかチープなその建物。
「あれはね、多分・・
」 「そうなの?!」
驚いた顔をしたのも
つかの間、ブラは声をはずませる。
「わたし、行ってみたいわ。
こんな機会、そうそうないわよ。」
「えーっ、本気かい? 買い物はいいの?」 「後でいいわよ。 ねっ、走って行っちゃお。」
降りしきる雨の中、手をつないで
二人は走り出した。
相手の顔が見えない造りのフロントからキーを受け取り、エレベーターに乗り込む。
今さっき
廊下ですれ違ったカップルは、どう見ても高校生だ。
ブラが
そのことを告げようとすると、悟天が先に口を開いた。
「車で入るようなとこなら、ほとんど誰とも会わなくて済むんだけどね。」
「・・・。」
昔付き合っていた人とは、こういう所に入ったことがあるのだろうか。
「ん? 何か言った?」
「なんにも。 お風呂に入っちゃおうっと。 びしょぬれになっちゃったものね。」
そう言ってブラは、バスタブにお湯を溜め始めた。
雨で濡れた服を脱いで
ハンガーにかけながら悟天も言う。
「じゃあ、おれも入ろ。」
浴室。
バスタブのお湯につかって、一息ついたブラがつぶやく。
「わたし、もっと早く生まれてきたかったわ。」
「え? なんだい、いきなり。」 「いきなりなんかじゃないわ。」
悟天の肩に、頭をもたせかけて続ける。
「小さい頃からずーっと思ってたのよ。 たとえば、お兄ちゃんと一歳違いとか。」
「おれとおんなじ年ってこと?」
「そうよ。 それでね、三人は幼馴染なの。 一緒に遊んで、冒険だってしちゃうのよ。」
「そりゃあ楽しそうだな・・
だけど、 」 少しの間
笑った後で尋ねる。
「おんなじ年でも、ブラはおれのこと
好きになってくれたかな。」
「当たり前じゃない。」
向きを変えて、背中に腕をまわす。
「そしたら、もっと早くに結婚してたわよね。 本当にそうだったらよかったのに・・。」
そしたらママに、孫の顔を見せてあげられたのに。
悟天は黙ってブラの頭をなでた。
「ね、キスして・・。」
言い終わらぬうちに、唇が重ねられる。 温かなお湯の中、二人は何度もキスをした。
抱きかかえられて部屋に戻り、バスタオルに包まれたまま ベッドの上におろされる。
彼の手によってタオルがはずされ、いよいよという時。 「ね、あれ・・。」
ブラが指さしたのは、備え付けの大型TVだ。
薄暗い部屋の中で
存在を誇示しているようなそれが、どうにも気になっているらしい。
「ああ。
これはね・・ 」 悟天が、リモコンに手を伸ばす。
「こういうのが観れるんだよ。」
スイッチを入れると間もなく、裸の男女が絡み合う姿が 大画面に映し出された。
『あ、
あ ・・・
ん、 』 大きな喘ぎ声、激しい息遣い。
普通の映画のラブシーンとは
随分違っている。 ベッドの上で、ブラは思わず見入ってしまった。
「おもしろい?」 覆いかぶさってきた悟天がささやく。
「だって、初めて観たんだもん・・。 あっ、 」
キスや愛撫を省略し、二本の指先が
ある部分に触れる。
「濡れてるよ。」
探り当てるまでもなく、動きが速くなっていく。 「あ、 あ・・ 」
TVから聞こえてくる、女の声と混じってしまう。 けれども悟天は こう言った。
「ブラの声の方が、ずっとかわいいな・・。」
そして
執拗な責めの後、肩で息をしているブラに向かって彼は言う。
つけっぱなしだったTVの方を指さしながら。
「あれ、やってくれる?」
どうにか呼吸を整えて、彼女は
横たわる彼の下半身に顔を埋めた。
数時間のち、C.C.
。
夕方になっても帰ってこないブラに代わって、パンがキッチンに立っていた。
退屈した子供たちは
そこいらを走り回ったり、
居間でくつろぐ祖父にまとわりついては
うるさがれていた。
「・・・。」
やっと帰ってきたか。 ベジータが、娘とその夫の気を感じ取った その時。
一番年上の孫・・ 彼らの長男が、急いで居間を出て行った。
両親の気が
ちゃんとわかるのだろう。
しかし、数分後
戻ってきた彼は、どうも冴えない顔をしている。
不機嫌とは少し違う、どこか複雑な表情。
「どうした。 おまえの母さんたちは、帰って来たんだろう?」
祖父からの問いかけにも、黙ってうなずくだけだ。
トランクスが子供だった頃、たまにこんな表情をしていたとベジータは思った。
そう、
あれは ・・・
「ごめんね、
パンちゃん!」
大きな箱を持ったブラが、あわててキッチンに駆け込んできた。
「夕飯の支度までさせるつもりじゃなかったのに・・。 ホントにごめんね。」
「いいのよ。
みんないい子にしてたし、
C.C.は便利な新製品がいっぱいで、いろいろ試せて楽しかったわ。 いい買い物できた?」
「あ・・ それがその、あんまり気にいる物がなくって・・ 」
ホテルでの事の後、ブラと悟天は
つい眠りこんでしまった。
目を覚ました時には
もう夕暮れが迫っており、かろうじて土産のケーキだけを買ったのだ。
「おいしそうなケーキなのよ。 パンちゃんも食べていってね。」
そんなことを話していると、仕事から戻ったトランクスがキッチンに顔を出した。
「あれ?来てたの?」 「おかえりなさい。」
エプロン姿のパンと、いかにも出かけてきた後のブラを目にした彼は、すぐに状況を把握した。
妹をにらみつける。
「ブラ。 おまえ、なに
パンをこき使ってるんだよ。」 「違うのよ、トランクス・・。」
「いいのよ、遅くなったわたしが悪いの。 パンちゃん、あとはわたしがやるわ。」
手首にはめていたシュシュで、ブラが長い髪を束ねた その時。
トランクスとパンは、ほぼ同時に声をあげた。
「えっ? なに?」 「ブラちゃん、
あの・・ 髪、上げない方が・・ 」
ブラの首筋には、朝には無かったはずの唇の痕がくっきりと刻まれていた。
「きゃあっ、
もう・・ 」 悟天ってば。
あわてて鏡で確かめようとしたブラの視界に、とんでもないものが飛び込んでくる。
子供たちが勝手に冷蔵庫を開けて、ケーキをつまみ食いしようとしているのだ。
「こらっ!あんたたち! それは夕飯の後でしょう!」
母親にどやされ、二男と三男はあわてて逃げ出した。
だが長男だけは、まるで居直ったようにふてくされている。
「だって、おなかすいたんだもん。」 「だから もう、夕飯にするわよ。 手を洗ってきなさい。」
それでも、まだ何かブツブツ言っている。 ブラは目をつりあげた。
「なんなの?はっきり言いなさい!」
「・・パパとママ、
車の中でちゅーしてたくせに!!」
そこいらじゅうに響き渡るような大声で言い放ち、長男は走り去った。
呆れた様子でトランクスがつぶやく。
「おまえら、何しに出かけたんだよ。 外でまで子作りしてんのか?」
「違うもん・・。」
真っ赤になって
うつむきながら、ブラは小声で反論した。
おかしいわ。
普通にデートするはずだったのに、いったいどうして ああなっちゃったのかしら?
そして・・ またしても新しい命を宿してしまったことに彼女が気付くのは、その翌月のことだ。