『初夜』

(一応)GT寄りのトラパンの、初めて物語です。

NLCP〜の方にupしております『ごめんね。』を濃くしたようなお話です。]

ホテルのベッドの上で わたしは、生まれたままの姿で横たわっている。

両脚の間、 体のちょうど真ん中に位置している、最も敏感な部分。 

トランクスの長い指が襞を掻き分け、執拗に そこを苛んでいる。

速く、時には ゆっくりと。

「ああ ・・・ 」 溜息と喘ぎ声しか、今は出てこない。

この間、同じようにされた時、 尋ねたことを思い出す。 

『トランクスって、どうして そんなに上手なの?』

ふっ、と笑って 彼は答えた。 

『おれが巧いわけじゃないよ。 パンが感じやすいんだ。 特別にね。』

 

本当に、そうなのだろうか。  

まるで息継ぎをするみたいに 何度もキスして、空いている方の手には さっきから胸を弄ばれていた。

熱い。 脚の間、 奥の方に隠されているものは、今 きっと、熟れすぎた果実のようになっている。

「トランクス、 お願い・・。」 

 

たまりかねた わたしは少しだけ力を込めて、体勢を入れ替えた。

仰向けになったトランクスの上に、またがろうとする。 それなのに、彼の両手に押さえられる。 

「ダメだよ。」

「どうして。 わたし、 もう、 」 我慢できないの。 

なのに、彼の利き手の二本の指は、再び わたしを苛み始める。

「あ、 あっ ・・・ 」 「パン。」 やや かすれた彼の声が、わたしに命じる。 

「力、抜いてごらん。」

「え・・?」  指の動きが速さを増す。 もう ずっと、瞼はきつく閉じたままだ。 

「・・・! あぁーーーーっ ・・ 」

 

真っ白だったはずの世界に、さまざまな色を混ぜ合わせたような靄が迫り、覆い尽くしていく。

トランクス。 トランクス。 

名前を呼びたくて たまらないのに、声がうまく出てこない。

抱きすくめられていたことにさえ、後になって気付いた。

我を忘れてしまう程の快感。 

まるで波にさらわれていくような感覚を、わたしはトランクスに教えられた。

 

 

ぐったりと瞼を閉じてしまったパンの、艶やかな髪に指を通す。

おれは思い出していた。 8年、いや もっと前、 宇宙船での、ドラゴンボール探しの旅のことを。

 

あれは もう、旅の終わりの頃だった。 

船内のベッドで眠るのは、これが最後かもしれない。 そんなことを思いながら体を横たえ、

両手で毛布をかけなおした その時。 ノックも無しに、ドアが開いた。

『・・パンちゃん?』 

つかつかと歩み寄って来て、毛布をめくる。 おれの隣に、体をすべりこませて横になる。 

『一緒に寝て。』

 

『どうしたのさ。 怖い夢でも見た?』 

返事がない。 なんだろう、ホームシックなのかな。 

けど、今頃? もう あと少しで、地球に帰れるっていうのに。

『別に いいけど・・。』 

まあ、パンちゃんが眠ったら、おれがベッドから出ればいい。 そう考えて、答えた。

 

数秒ののち。 背中を向けていた おれに、パンちゃんは ぴったりと体を寄せてくる。 

息がかかって、体温が伝わる。 背後から、きつく両腕をまわしてくる。

『どうしたんだよ。 ほら、 ちょっと くっつきすぎだよ。』 

一見そうは見えないけれど、パンちゃんの腕はよく鍛えられている。 だから簡単には外せなかった。

『パンちゃん。 あのね、子供じゃないって言うんなら、悪ふざけで こんなことしちゃダメだよ。』

『ふざけてなんか いないわ。』 やっと口を開く。 

『こっちを向いてほしかったの。』

 

向き直したおれが 次の言葉を探し当てるよりも先に、彼女が尋ねてきた。 

『女の子に こうされるの、うれしくないの?』

『いや、だってさ。 パンちゃんは まだ・・。』 

大人じゃない。 けど、かといって小さな子供ではない。 

ちょうど、微妙な年頃なんだよな。 考えてみたら。

 

『何歳なら うれしいの?』  『それは・・・。』 

『18歳?』  おれは黙った。

『ブラちゃんに聞いちゃった。 トランクスは18歳の時に、その頃 付き合ってた人と・・って。』 

『・・・。』  

なんだって あいつは、そんなことを知ってるんだよ。 

だいたい、まだ9歳や10歳の子が そんな話するなんて、おかしいだろ。

 

再び背中を向けた おれに、パンちゃんが声をかけてくる。 

『ねえ、どうして その人と別れちゃったの?』

わざと素っ気なく、おれは答えを返した。 『教えない。』  

『どうして・・?』 

『子供に言ったって、わかんないからだよ。』

 

しばしの沈黙。  言い返すことをせずに、パンちゃんも おれに背中を向けた。

 

20分程 経っただろうか。 

まだ、寝息は聞こえてこない。 気になって、向きを変える。

さっきはごめん。 そう口にすべきか迷っていると、か細い声が 耳に届いた。 

『おなか、痛い・・。』

おなか? 悪いものでも食べさせたかな。 

『大丈夫かい? 待って、確か どっかに薬が、 』 あわててライトをつける。 

『ダメ! 見ないで!』 『え?』 

部屋が明るくなると同時にパンちゃんは、まるで弾かれたように体を起こし、小走りで部屋を出て行った。『・・?』

 

毛布をめくって、シーツを目にした おれは、驚くと同時に納得してしまった。

そうか、 だから 不安定気味だったのかもしれない。 

女の子って、難しいもんだよな。 若くても、そうでもなくても。

 

しばらくしてから 扉が開いて、パンちゃんが部屋に戻ってきた。 

起き上がって尋ねる。 『大丈夫だった? 鎮痛剤、飲む?』

『平気。 それより、ごめんね。 シーツ、今 替えるわ。』 

『気にしなくていいよ。 もう替えたから。』

腕を伸ばして、彼女の手をとる。 『おいで。』 

二人して、もう一度 同じベッドに横になる。

『旅も終わりだ。 地球に戻って いつもの暮らしが始まったら、こんなこと もう ないからね。』

 

おれの言葉に答えを返さず、パンちゃんは小さく つぶやいた。 

『ずいぶん前に 一度あったきりで、ずっと無かったの。 だから、忘れちゃってた。』

『そうなんだ。』  正直、ちょっと返事に困ったけれど こう続けた。 

『少しずつ、大人になってるってことかな。 きっと、そうだね。』

 

何も言わない彼女の、艶やかな髪に指を通す。

赤ん坊の頃、 いや、生まれる前から よく知っている、妹みたいな女の子。 

だけど、この子は妹じゃない・・・。

瞼を閉じて、じっとしているパンちゃん。 

その 小さな唇に、自分のそれで そっと触れてみた。

多分、 いけないことなんだろう。 だから 頭に浮かんでいる言葉は、口には出さなかった。

 

その後、 おれたちは一緒に眠った。 

目が覚めた時、 ベッドの上にパンちゃんは いなかった。

先に起きて食事の用意をしてくれていた彼女の様子は、いつもと全く変わらなかった。

あれは夢だったのかもしれない、 そんなふうに思えてしまう程に。

 

 

目を開けると、息がかかるほど近くに、トランクスの顔があった。 

「そんなに気持ち良かった?」

ほんの短い間とはいえ、わたしは気絶していたらしい。

 

「ねえ。 さっき、どうして、 」 してくれなかったの? 

恥ずかしくて、終わりまでは口にできなかった。 だけどトランクスは もちろん、理解している。

「ここまで我慢したからさ。 いっそ結婚式の夜・・ 初夜まで とっておこうかな、なんて思っちゃってさ。」

「そんな・・。」 

そう。 あんな姿まで見せていながら、わたしたちは まだ、最後まで していなかったのだ。

「結婚なんて、早くても 4年も先じゃない。」

 

少し前、トランクスは うちに挨拶に来てくれた。 

パパもママも 以前から気付いていたらしく、反対はしなかった。

だけど わたしが大学をちゃんと卒業するまで、結婚は認めないと言われてしまった。

 

「なんだか、納得できないわ。 パパたちは学生結婚だったっていうのに。」

ふくれるわたしを、トランクスは笑いながらなだめてくれる。 

「あの頃のビーデルさんと比べると、パンは幼いからなあ。」

「なによ。」 けれども、髪を優しく撫でられて、言い返せなくなってしまう。

「ま、 おれも悟飯さんと比べられちゃうと つらいけどね。」 

 

「さあ、そろそろ時間だろ。 遅くなっちゃうよ。」 「まだ、いいわよ・・。」

近頃は あまり出歩くことをせず、ベッドの上で過ごすことが多い。 

どちらかというと わたしが、そうしたいのかもしれない。

「レポートを書かなきゃいけないって言ってただろ。」 

「・・トランクスは、会社に戻るの?」

「いや。 今日は いいんだ。 あー、今日は早めに寝られるな。」

少しだけ不機嫌になった わたしの、耳元に向かって 彼はささやく。

「寝る前に、パンの さっきの声と顔を思い出しながら・・・・しよーっと。 よく眠れそうだな。」

「・・・! もうっ、バカ!! 何言ってんの、エッチ!」 

「なんだよ、しょうがないだろ。 そんなの、日常だよ。」

 

そんなことを言い合っているうちに、仰向けにされて 組み敷かれる。

「トランクス?」 「・・・。」  

彼の手が、脚を開かせる。

「あっ、 」  

あっけなく、 あまりにも あっけなく わたしたちは一つになった。

 

わたしは知らなかった。 

これまでだって さんざん、裸で抱き合い、戯れてきたと思っていたのに、

知らないことが たくさんあった。

重なり合った肌の、汗ばむ熱さ。 その時のトランクスが 幾度となく発する、浅く短い吐息。 

低くかすれる、わたしの名前を呼んでいる声・・・。

 

わたしは18歳。  もう あと少しで19歳になる。

そして、これからも ずっと、ずーっと トランクスを 好きでいる。

事の後、 彼はなかなか離れようとせず、長く、深いキスをした。

 

 

唇を離した後で おれは言った。

まだ10歳だった彼女に、言ってやれなかった言葉を。

「好きだよ、 パンちゃん。」