「ごめんね。」

当サイトのトランクス×パンはGTとは ほぼ別人なのですが、

こちらの作品は一応GTを意識したつもり・・です。 ラブラブです。]

10歳の時、わたしは宇宙へ出た。

今思えば、どうしても行きたい というわけでもなかったような気がする。

 

子供扱いされて、手伝いすら させてもらえなかったことに腹を立て、

宇宙船の中に隠れた。

おじいちゃんとトランクスが乗り込んで来たのを見て、

調子に乗って つい なんとなく、発進のスイッチを押してしまったのだ。

 

その旅は ただ、ドラゴンボールを探すだけではなかった。

常に危険が背中合わせで、だけど うれしいことも たくさんあった、決して 忘れることのできない旅だ。

 

ドラゴンボールを どうにか7個 集め終えて、もう あと何時間かで地球に到着するという時。

わたしの身に ある事件が起こった。

ちょっと大げさかもしれない。

けれども わたしにとっては、その後の人生が変わってしまう出来事だった。

 

その日 わたしは、下腹部の鈍い痛みと 何とも言えない違和感に悩まされていた。

4分の1とはいえ、サイヤ人だ。 病気なんて、それまで ほとんど縁が無かった。

戸惑っている わたしに、トランクスが声を掛けた。

「調子が悪いのなら、地球に着くまで寝てるといいよ。」

そんなの つまらない。 だけど仕方なく従う。

「じゃあ、そうする・・。」  

そう言って立ち上がろうとした時、またしても違和感に襲われる。

そう。 まるで体の中から、何かがあふれ出たような・・・。

「!」  座っていたシートを見て、わたしは驚いた。 これは・・。

どうしよう。 どうすればいいの?

 

「どうしたの、パンちゃん。」  トランクスが気付いた。

「何でもない。」  こっちに来てしまう。 「来ちゃダメ。 来ないで・・ 

遅かった。  トランクスに、見られてしまった。

彼は はっとしたような顔をしていた。 けれども すぐに上着を脱いで、わたしの肩にはおらせた。

そして、ポケットからハンカチを出して、汚れたシートを拭いてくれる。

「どうしたんだ。 具合悪いんか?」 

声を掛けてきたおじいちゃんに、「大丈夫ですよ。 ちょっと休ませます。」

そう返事をして、わたしに向かって 「トイレの棚。」とささやいた。

 

そろそろ そういうことがあるというのは、もちろん知っていた。

学校でも教わったし、ママが きちんとポーチを用意してくれた。

それなのに・・。

恥ずかしくて なさけなくて、しばらくの間 皆のいる所へ顔を出せなかった。

でも、いつまでも そうしてはいられない。

「トランクス・・。」  よかった。 彼 一人だった。 「これ、上着。 どうも ありがとう。」

「ああ、うん。 大丈夫?」  黙ってうなずく。  「もう帰るって時で よかったよ。」

勇気を出して、わたしは言った。

「さっきのハンカチ貸して。 わたしが洗うわ。」

「いいよ、そんなの。 もうすぐ着くんだし。」 「でも・・

「気にしなくて いいんだよ。」

優しい声で そう言って、トランクスは 私の頭を撫でてくれた。

 

それまでのわたしだったら 子供扱いしないで、とふくれっ面になっただろう。

けれど もちろん、そんなことはしなかった。

だって わたしは、本当に子供だったから。

赤ちゃん扱いされたって仕方がない。

自分の面倒すら ろくに見られない、どうしようもない子供だから・・・。

「ごめんね。」 消え入りそうな声でつぶやく。

するとトランクスは 首に巻いていたバンダナを外して、わたしに向かって差し出した。

「はい。」 「なに・・?」 「涙、ふいたら。」

「わたし、泣いてなんかいないわ。」

確かに泣きそうだったけど、なんとか我慢していたのだ。

「でも、泣いちゃうだろ?」 ・・・

 

意地悪で言ったわけじゃない。

トランクスは多分、わたしのことを 笑わせようとしたんだと思う。

なのに わたしときたら、その言葉の後 本当に泣いてしまう。

どうしても、我慢することができなかった。

あとから あとから、涙があふれ出してくる。

「ごめん、パンちゃん。」 トランクスがあわてる。

「そんなつもりじゃ なかったんだよ。 ほんとに ごめんね・・。」

そう言うとトランクスは、わたしの肩をそっと抱き寄せた。

彼の胸は 厚くて それにとっても温かい。 なんだかパパのことを思い出す。 

涙を止めて わたしは言った。 「トランクスって、いい匂いがするわ・・。」

 

数秒ののち  わたしの頬は、彼の手のひらに包み込まれる。

いったい何が起きたのか、その時はピンとこなかった。

離れる時に彼は言った。 「ごめんね。」

鼻腔にはトランクスの匂いが、そして唇には、柔らかな感触が 微かに残っていた。

 

「おーい、地球が見えてきたぞ。」 おじいちゃんの声が聞こえてきた。

ドラゴンボール探しの旅についていきたいと、あれほど駄々をこねたのは

宇宙に出たかったわけではなかった。

そのことに わたしは、やっと、ようやく 気がついたのだった。

 

 

地球に帰りついてからが また大変だった。

いくつもの大きな戦いがあり、とてつもない大人数で 他の星に避難したこともあった。

あっさりとした、だけど とても悲しいお別れの後、

皆の努力で それまでの暮らしを取り戻した。

 

けれど それから しばらくの間、トランクスとは あまり会えなかった。

ブルマさんが引退して、名実ともにC.C.社のトップとなった彼は ひどく多忙だったし、

わたしの方も勉強が忙しくなった。

いくつかの偶然に後押しされ、二人だけで会うようになったのは

わたしが高校生になってからのことだ。

いいな、と思えた男の子は何人かいた。 だけどトランクスよりも好きだとは思えなかった。

トランクスの方は大人だから、いろんなことがあったと思う。

でも結婚までは至らなかったのだ。

 

彼と付き合っていることは、両親には まだ内緒にしている。

理由はわたしの、単なるわがままだ。

10歳以上も年が離れているトランクス。

わたしが学生ではなくなったら、すぐに結婚という話になるだろう。

それはとってもうれしくて、幸せなことだ。

だけど その前に少しの間だけ普通の、年相応のカップルらしいことをしてみたい。

こんなふうに考えるわたしは、やっぱり まだ子供なんだろうか。

 

そして今日、トランクスとわたしは1泊の旅行に来ている。

いつも忙しいトランクス、 宿題や試験、それに門限に追われてしまう わたし。

二人きりでゆっくりと過ごせるなんて初めてだ。

それに・・ わたしたちは まだ、本当の恋人にはなっていなかった。

だから なおのこと、素敵な夜にしたかった。

 

それなのに・・。  トイレに入ったわたしはがっかりしてしまう。

パパやママに疑われないよう 友達にも頼んで、アリバイ工作を頑張ったのに。

貯めていたお小遣いで 子供っぽくない、だけど うんと可愛い下着を用意したのに。

 

夜。  先にベッドに入っていたトランクスに、そのことを告げる。

「そうか。 仕方ないね。」  少しだけ笑いながら付け加える。 「ちょっと残念だけど。」

「ごめんね・・。」

トランクスだって この日のために、スケジュールをいろいろ調整してくれていたのだ。

「あやまることなんかないよ。 パンが健康な女の人だっていう証拠だろ。」

優しい声で、彼は続けた。

「長いこと ずーっと待ってたんだ。 あと もうちょっとくらいなら、待てるよ。」

頭を撫でてくれる。

「なんだか、なつかしいな・・。」

 

同じことを、わたしたちは思い出していた。

唇が、自然に重なる。

トランクスの匂いは、あの頃とちっとも変わっていない。

だけどキスの深さは、あの時とはずいぶん違う。

抱き合うことは まだできないけど、今夜は彼と一緒に眠る。

そう思っていたら、トランクスが口を開いた。 「あのさ、パン・・

「えっ?」 「その・・ さわるだけなら、いいかな。」

彼の手が するりと、着ていた寝間着のひもを解いた。

「ごめんね。」

その一言に、思わずわたしは笑ってしまった。

 

わたしは幸せ。 ほんとうに幸せ。

瞼を閉じて、身をまかせる。 

肌に、胸に、彼の手のぬくもりを感じながら。