Beautiful World

トランクスが孫家に、結婚の承諾をもらいに行くお話です。

(ちなみに結婚式のお話は、ベジブル晩年に置いてあります『この手につかんだもの』です。

ただし、当時まだ未来トラパンを書いておりませんでしたので、未来飯ブル感がほんのりとあります。)

ラストはパンの両親である飯ビで〆ております。]

車は 孫家に到着した。

 

パンは 目的地が近付くにつれ、言葉少なになってしまった恋人を気遣うように笑顔を見せる。

「そんな顔しなくても大丈夫よ・・。」

 

ここへは何度も、数え切れないほど訪れた。

子供の頃は、当時は弟分だと思っていた親友と遊ぶために。 

そして普通ならば 疎遠になるはずの10代の頃にも。

それは 年が離れて生まれた妹を、今 自分の隣にいるパンと過ごさせるためだった。

 

家にいるとわがままになりがちなブラだったが、

自分と同等の身体能力を持つパンには一目置いたようだった。

実際二人は、仲良く遊んでくれていた。

それに自分自身も、

C.C.の御曹司であることを特別視しない孫家の人々と一緒にいるのは楽しかった・・・。

 

居間に通されるまでの間、トランクスはそんなことを考えていた。

 

約束の時間よりも少し遅れて、悟飯は姿を見せた。

「やあ、いらっしゃい。 ここへは久しぶりだね。」

 

悟飯は 研究に関する本の執筆や講演のほか、大学の教壇にも立っている。

若い学生と接することも多い彼の表情はおだやかだ。 

自分の方から会話を始めてくれる。

「悟天たちは、すっかりそちらの厚意に甘える形になっちゃって・・。 なんだか申し訳ないね。」

 

緊張した面持ちでトランクスは答える。

「いえ、却って助かってます。 やっぱりあの家に父と二人だけじゃ・・。」

母さんも、喜んでると思います。 付け加えた一言に 悟飯はそうか、と頷いた。

 

「・・そういう意味でも、ブラの相手は悟天しかいなかったと思ってます。」

その言葉のあと、トランクスは切り出そうとした。

「それで、今日は・・・。」

しかし悟飯はそれを遮った。 

「パンとのことなら、僕からは特に言うことはないよ。」

 

おだやかな表情を崩すことなく、彼は続ける。

「式や 住む場所なんかのことを二人で話し合ってから、また報告に来るといい。」

 

「パパ、ありがとう・・・。」

うれしそうな娘に頷いてみせたあと、拍子抜けしたようなトランクスに声をかけた。

「反対されると思ったかい?」

「はい、いや、まぁ・・・。」

 

悟飯は言った。 いわゆる、目は笑っていないという表情で。

「二人はもう、いろんなことを乗り越えてきたんだろ。 なら いいさ。」

 

それに加え、お茶を出してくれた後 同席していた彼の妻、

ビーデルもこんな言葉を添えた。

「そうよね。結構長いお付き合いだったんだものね。」

 

 

「ねっ。 大丈夫だったでしょ。」

パンは笑顔で恋人の手を引く。 祖母に報告しようと、離れに向かうために。

 

トランクスは、顔が引きつっていた。

仕事や家族のことでやけっぱち気味だったとはいえ、自分はなんと浅はかだったことか。

 

今は義理の弟となった悟天。

結婚の許可と妊娠の報告が同時になった彼よりも、ある意味命知らずかもしれない。

サイヤ人の血を引く娘に手をつけるには、命をかける覚悟が必要なのだ。

トランクスは そのことを思い知るとともに、自分の幸運に心から感謝した。

 

 

窓辺に佇む夫に、ビーデルが声をかける。

「もっと何か言うかと思ったわ。」

 

接する時間が限られていたとはいえ、夫は決して鈍感な男ではない。

まだ高校生だった娘の変化に、彼は気付いていたはずだ。

だから成人したばかりの頃、見合いのようなことなどさせたのだと思う。

 

「・・パン自身が決めてしまっているなら、言いようがないだろ。」

悟飯は 窓から離れを見つめている。

今頃、母は 孫娘の幸せを共に喜んでいるのだろう。

 

「パンは君に似てるって、ずっと思ってたけど・・ 」

「お義母さんに似てきたわよね。 わたしもそう思ってたわ。」

 

そう。 背中まで伸ばしたつややかな黒髪。

家族の前ではいつもどおりに振舞っていても、

ふとした時に見せる 誰かのことを想っているような顔・・・。

 

悟飯は、弟が幼かった頃の母と重ね合わせていたのだ。

とても寂しげに見えた、あの頃の娘とを。

 

「それにさ、不思議だよね。」

彼は、傍らの妻に向って話し続ける。

「ベジータさんが死んでしまった世界で僕は、トランクスの師匠だったんだよ。」

「・・きっと、弟みたいに思ってたんでしょうね。」

 

タイムマシンで時空を越え、戦士たちに地球の危機を警告した もう一人のトランクス。

彼が来ていなければ、生まれてこなかった命。 出会うことのなかった人。

 

「それを思ったら、反対なんてできないよ。」

ぽつりとつぶやいた夫の横顔を見上げて、ビーデルは明るい声で言った。

「悟飯くん。」

まるで、自分達が恋に落ちた頃のように。

「そんな顔しないの。 わたしたち、まだまだ若いのよ。」

 

悟飯はようやく、心からの笑顔を見せる。

 

弟夫婦も、一人娘とその恋人も、結びついた理由は サイヤ人の血が呼び合っただけでは決してない。

それぞれの心の内を理解し、支え合える相手を見つけたのだ。

「これからも、よろしくね。」

 

出会ったころと変わらぬ笑顔の妻の肩を抱きよせながら、悟飯は思っていた。