「なんだか・・。 やっぱり こうなりましたね。」

少し離れた場所にいたベジータに、悟飯が話しかける。

年齢的には親子ほどの違いがあるが、どちらも今日の主役の父親なのだ。

 

今日はトランクスとパンの結婚式が行われた。

大企業の社長の慶事である。

贅を尽くそうと思えばいくらでもできたけれど、もちろん二人はそんなことは望まなかった。

教会での式が滞りなく済み、今は家族と 昔からの友人に囲まれたガーデンパーティーの最中である。

新郎新婦を祝う客たちの輪の中に、悟天とブラ、そしてやんちゃ盛りの子供たちの姿も見える。

日ごろ子育てに追われているブラは 『うんとおしゃれをして出席するわ。』 と豪語していた。

なのに、またしてもウエストに余裕のあるワンピース姿だ。

 

「悟天とブラちゃんは、よっぽど相性がいいみたいだなぁ。」

悟飯の一言に、ベジータの口元に皮肉な笑みが浮かぶ。

「フン、 まったく よりによって・・・。」

しかし、花嫁の父は 穏やかな表情を崩すことはない。

 

「ぼくも今回は そう思っていますよ。」

「・・相手が誰だろうと、気に入らないんだろうが。」

「さすが、よくご存知ですね。」

切り返しに笑って答えた後で、悟飯はつぶやいた。

「大人になったトランクスを見ていると、ぼくはどうしても思い出してしまうんですよ。

別人だとわかっていても。」

あの、タイムマシンでやって来た彼のことを。

 

 

セルとの戦いで命を落としたトランクスだったが、ドラゴンボールによって蘇ることができた。

そして 人造人間を倒すべく、自分のいた世界に戻るため、

乗ってきたタイムマシンにエネルギーチャージをしていた。

 

その最中。 折り入って話がしたいと、彼は父であるベジータの部屋を訪れた。

『名残り惜しいですが、明日の朝に発つつもりです。』 

一人掛けのソファに座り、腕組みをした父親に 彼は続ける。

『母さんを一人にしておけませんから。 もう、悟飯さんもいませんし。』

 

急にその名前が出てきたことに引っかかりを覚えつつも、

ベジータは 以前から思っていたことを口にした。

『いい年をして、二言目には母親のことだな。』

 

トランクスの眉が一瞬動く。 けれども表情を変えずに彼は言う。

『おれは 学校という所に行ったことがないので、同じ年頃の友人がいません。』

だから母親に対して特別な思い入れがある。話はそんなふうに続くのだと思われた。

しかし、違っていた。

『だから、いろいろなことを教えてくれた悟飯さんからの影響が大きいんです。』

 

父親の、鋭い視線を感じながら トランクスは続ける。

『あんな世界にいても 母さんは明るくて、きれいで、心から愛されていましたよ。』

おれは まだ子供だったけど、ちゃんと気付いていました。

付け加えられた言葉を聞いて、ベジータが口を開いた。

『おまえは、いったい何が・・ 』

『それでも母さんの心はずっと、死んでしまった父さんのものだってことです。』

 

話せてよかった。  そうつぶやいて一礼し、トランクスは部屋を出て行った。

 

『・・言いたいだけ 言いやがって。』

毒づきながら、ベジータは窓辺に立って 外を見ていた。

幼い息子を抱いたブルマが、庭を歩いている。 そこへ青年のトランクスが駆け寄る。

 

彼は 身を屈めて、もう一人の小さな自分に話しかけた。

『おまえはいいな。父さんに、師匠になってもらえるんだから。』

ブルマは 目を伏せて小さく笑う。

『ベジータは、この子がそんな年になるまで ここにいてくれるかしら。』

『そうなると思いますよ。 ・・おれは心配していません。』

さっきまで父と話していた部屋の窓を見上げながら、彼は言った。

 

翌朝。 別れと 旅立ちの時。

別の世界のもう一人の息子と、ひそかに交わしたピースサインのことを ベジータは思い出していた。

 

 

新郎と新婦がこちらに歩いてくる。 二人に向かって悟飯が言った。

「ぼくは心配してないよ。 幸せに。」

 

花嫁衣装に身を包んだパンが 涙ぐむ。

それを見て、自分の時のことを思い出したらしいブラが口をはさんだ。

「ねぇ、パンちゃんのおなかには赤ちゃん、いないの?」

 

「なんでも自分と一緒にするな・・ 」

そう言いかけたトランクスの手を、妻となったパンがそっと触れる。

「あのね、トランクス、わたしね・・ 」 「え・・?」 

次の瞬間、二人は歓声と、さらに大きな祝福に包まれた。

 

「・・うれしい?」 「あたりまえだろ・・。」

その時のトランクスの顔を、パンは見ていない。

両腕でしっかりと 抱きすくめられてしまったためだ。

 

「ブラは気付いてたのかい?」

目が離せない子供たちの相手をしながら 悟天は尋ねた。

「なんとなくね。」 まだ それほど目立たない腹部をさすりながら、ブラは笑う。

 

「あーあ、わたしたちには男の子しかできないかも。

でもパンちゃんはきっと、かわいい女の子を産んでくれると思うわ。」

ママみたいな、ね・・・。  

付け加えた一言に、ベジータがつぶやく。 「一人だけじゃ、奪い合いになるぞ。」

いかにもサイヤ人らしい、怖いもの知らずの孫たちの顔を見回しながら。

「ふふっ。 ほんとね。 たくさん産んでもらわなきゃ。」

 

これから、楽しみね。

この場には いない、誰かの声が、聞こえたような気がした。

102.『この手につかんだもの』

[ トラパンの結婚式のお話ですが、ベジブル感もあるため、こちらにupしました。]