My Girl

トラパンのエピソード1的なお話として書いたのですが、その後も いろいろ…。

ちなみにエピソード0は、ベジブルの方にあります『命の重さ』です。]

屋外型のショッピングモール。

その中のブティックで、母さんは まだ服を選んでいる。

おれとブラは、店の外の 少し離れた場所で待っていた。

 

「ねぇ、じゃあ、これはどう?」  「下品だな。」

 

褒めることも ちゃんと批評することもないけど、一応見ては いるんだよな。 父さんは。

 

今日はブラの入学祝いをするために、家族で街に出てきた。

レストランで食事をした後、目当ての物を買ってもらったブラは すっかり飽きてしまったらしく、

その場に座り込んだ。

「おい、服が汚れちまうぞ。」 「だって・・。」 「そろそろ行こう、って言ってこいよ。」

 

立ちあがって両親のもとへ駆けて行く妹を見送る。 その時 携帯の着信音が鳴った。 

同じ学校の女の子からだ。 何人かで街に来ていて、ちょうど この近くにいるらしい。

 

「おれ、先に行くよ。 友達と会うことになったんだ。」 

ようやく店から出てきた母さんたちに声をかけて、その場を後にする。

 

ブラが何か文句を言ってたみたいだけど、充分付き合ったから いいよな。

 

 

休日だから人が多くて、思うように進めない。

飛んでいっちまいたいけど、騒ぎになったら面倒だ。

そんなことを思っていたら、よく知ってる女の子が歩いてくるのが見えた。

 

・・・あれ? なんで一人なんだ?

 

「パンちゃん。」  声をかけると、小さな彼女は足を止めて おれを見上げた。

 

「パンちゃんたちも来てたんだ。 もしかして、迷子になったのかい?」 

べそをかくこともなく、黙ったままでこっくりと頷く。

「待ってて。 すぐ見つかるよ。」

 

通行人を避けるため、通路の端に寄る。 おれは神経を集中させて、気を探ろうとした。

するとパンちゃんが口を開いた。

「パパはいないの。 さっき、お仕事の電話がかかってきたから。」

そして 「ママとおばあちゃんを探してたの。」 と、付け加えた。

 

「・・そうか。」  この人混みじゃ、ビーデルさんたちの気は わかんないな。

悟飯さんのなら、見つけられたと思うけど。

「空の上から探そうと思ったの。 でも・・

パンちゃんは指先で、今着ているワンピースのスカートをつまんだ。

「お行儀よくしなきゃダメ、って言われたから・・。」

 

ちょっと笑ってしまったおれは、パンちゃんの頭をなでた。

武道をやっているためなのか、ずっと短くしていたはずだけど

いつの間にかおかっぱ頭になっている。

 

この子は、髪が伸びるんだな。

ってことは、この艶のある黒い髪は 彼女のママかおばあちゃんから譲られたものなんだ。

 

「じゃあ、普通に呼び出してもらおうか。」

表示板を見ながら、おれたちは案内所へ向かった。

はぐれたりしないように、小さな手をつないで。

 

係員にアナウンスをしてもらう。 「これで大丈夫。 すぐに迎えに来てくれるよ。」

並んで椅子に腰かけたパンちゃんは、再び こっくりと頷いた。

 

そういえば、この子と二人だけになったことって なかったな。

ブラと遊んでる時は、年相応に喋ってたと思うけど・・。

嫌われてるわけじゃないよな。 緊張してるのかな。

 

「悟飯さん・・パンちゃんのパパは、忙しくて大変だね。」

「お仕事が忙しいのはいいことだって、おばあちゃんが言ってた。」

あはは。 チチさんが言いそうだな。

「その服、かわいいね。 今日は おしゃれして来たんだね。」

家にいる時は、道着姿が多かった気がする。

 

「おばあちゃんが、作ってくれたの。」 ほんのり赤く、頬が染まる。

「へえ、すごいな。」  おれの その言葉で、パンちゃんはようやく笑顔になった。

「おばあちゃんは、お料理もお裁縫もとっても上手よ。」

 

誇らしげに答えた彼女は、ちょっと見とれてしまうほど、いい笑顔を見せてくれた。

 

「パン、いったい どこにいただ・・。」  「あら、トランクスくん。」

チチさんとビーデルさんが、案内所にやって来た。

 

「じゃあ、おれは これで・・。」 

二人に何度もお礼を言われ、恐縮しながら出て行こうとすると

パンちゃんがぺこり、と頭を下げた。

「ちゃんとお礼しなさい。 トランクスおにいちゃん ありがとう、って。」

 ビーデルさんに促されて、パンちゃんは口を開く。

「トランクスおにいちゃん・・ 「トランクス、でいいよ。」

何故かそんな言葉が口から出てきた。

「おれは、君のお兄ちゃんじゃないからね。」

 

さっきと同じくらいの笑顔を見せて、彼女は言った。 「ありがとう、トランクス。」

 

 

いつの間にか、日が沈みかけていた。 電話での約束をすっかり忘れていたけど、まぁ いいや。

 

家に帰ると、母さんからの質問が待っていた。

「友達って、女の子でしょう?  ね、どんな子なの?」  「・・とってもかわいい子だよ。」

「今度、家に連れて来なさいよ。」 「・・家になんか、何度も来てるよ。」

「え?」 

 

あの子は大きくなったら どんな男を好きになるのかな。 うちのブラにしても。

 

父さんはどんな奴が相手でも気に入らないんだろうけど、悟飯さんは そうでもないかな。

 

却って、チチさんやビーデルさんが厳しそうだ。 

強いだけじゃなくて、頭がよくて 仕事のできる奴じゃないと、なんてな。

小さな彼女の笑顔を思い浮かべながら、おれはつぶやいた。

「いい奴だったら いいな。」