『夢のあと』 その5

『ディーナ。 ディーナなの? 

 あの日、あのクリスマスの日、寒かったな・・・。 わたし、ずっと待ってたのよ。』

 

『ねーちゃん、ゴメンな。遅くなってさ・・・。

 おまけに長いこと体を借りちまって。 ほんとサンキューな。 

 すげー楽しかったよ。 楽しいことばっかりだった。

 ディーナだった頃は、生きるってつらいことばっかりだと思ってたけど。』

 

『ディーナ、何言ってるの? まるでお別れみたいじゃない。

 イヤよ。1人になるなんて・・・。』

 

『ねーちゃんは、 ランチはもう、1人じゃねーよ。 

 天津飯は、 オレたちどっちのことも好きなんだ。

 ランチ、あいつのこと頼んだぜ。』

 

『イヤよ。行かないで。 ディーナ、   ディーナ・・・』

 

 

目を覚ますと病室のベッドの上だった。

目の前には心配そうな顔の天津飯がいて、夢の続きをみていると思った。

「どうして・・・?」

 

「クリリンからもらった名刺の会社を訪ねたら、仕事中に倒れたと聞いて・・・。

 早産するところだったそうだ。 

 なぜ何も教えてくれなかったんだ。」

 

上半身を起こしながら、ランチは答えた。

「あなたが悩むって、わかってたから。 

 それに、あなたに抱かれたのは、ディーナの方よ。」

「ディーナ?」

「金髪のランチは、わたしの、双子の妹よ・・・。

 あの子、もう出てこないわ。 ほんとうに、ほんとうに死んじゃった・・・。」

 

ランチの瞳から涙があふれた。

天津飯は、身をかがめて彼女の肩を抱きしめた。

 

「これからは、俺がいる・・・。 

 君が、ランチが俺のような男で構わないのなら、だが。

 俺は、修行と戦いしかしてこなかった。 

 ちゃんとした家庭をつくれそうもないが・・・。」

 

ふっ、とランチが微かにほほえんだ。

「そんなこと・・・。よくわかってるわ。 

 ディーナだけじゃなく、

 わたしだってあなたをずっと追いかけてたんだから・・・。」

 

涙をぬぐいながら、ランチは続けた。

「あなたがそう思ってくれてるのなら、 いつも一緒じゃなくても大丈夫。

 赤ちゃんのために無理しちゃったけど、普段のわたしは結構丈夫だから。

 わたしは、何でも得意だったでしょう?」

 

狩りの獲物を、素晴らしく美味く味付けした料理や、

自分と餃子の体格に、ぴったり合うように縫われた衣類を思い出し、

天津飯は笑みを浮かべた。

 

ランチとなら、自分たちに合った暮らし方を見つけていけるかもしれない。

 

『気付くの、おせーんだよ。』

 

どこからか、消えてしまった彼女の声が聞こえた気がした。    

 

[ 最終章に続く ]