『夢のあと』 その3
修行のために 体を動かしている時以外は、気が付けば彼女のことを考えている。
この数ヶ月の間、天津飯はそんな状態だった。
あの日に限って、どうしてああなってしまったのか。
あの晩。
気を利かせたらしい餃子は、なかなか戻らなかった。
金髪の方のランチは、それまでも何度かあったように、距離を縮めて自分と向かい合った。
俺たちは、そんな仲じゃない。 かてーこというなよ。 友達としてだよ。
押し問答の末、ついばむようなキスをする。
このやりとりは、それまでにもあった。
しかし、あの日はそれで終わらなかった。
『逃げんなよ。オレはもう来れないんだから・・・。』
どうしてだ、という問いは、彼女の柔らかな唇によって遮られた。
その後のことを思い返すと、どうしようもなく胸が苦しくなる。
自分の腕の中で、彼女は確かに満ち足りて幸せそうに見えた。
しかし、言葉通りにその日以来姿を見せなくなってしまったのだ。
ランチ。 クシャミをすると、髪色とともに、顔つきや性格まで変わってしまう、おかしな女。
三つ目族の末裔である自分や、
超能力を使えるかわりに、いつまでも子供の姿の弟分にさえ、ひけをとらない変わり者。
武道のライバルたちの一団の中に、彼女はいた。
自分に惚れたと宣言してから、カメハウスを出て職に就き、
どうやって探し出したのか、山深い修行先にやってきた。
気持ちには応えられないと何度も断ったが、好きでやっているからと聞く耳を持たない。
黒髪の彼女が作ってくれた衣類は確かにありがたく、
短い礼状を出せばその消印を頼りにまた会いに来る。
そんなことを繰り返すうちに、気難しい弟分・餃子とも打ち解けていた。
餃子は言う。 「天さんは、不器用なんだから。」
そうだ。
黒髪の しとやかでよく気が付く彼女のことも、
金色の髪の 強引だが憎めない彼女のことも、 俺はどちらも好きなのだ。
だが俺は自分の生き方を変えられない。
クリリンのように武道をやめて、妻子のために生きることは考えられない。
かといって、サイヤ人の2人のように、戦いのために
迷わず家族との暮らしを捨てることにも引っ掛かりを感じる。
俺はどっちつかずの不器用者だ。
ランチは、そのことを見抜いて俺から去ってしまったのか。
その時、天津飯の目の前に突然、よく知った男たちの姿が現れた。
[ その4に続く ]