『夢のあと』 その1
多くの人々は気付いていないが、この地球は一度消滅させられ、再生している。
その日から1年余りが過ぎた、秋の終わりの休日。
クリリンは、妻と、小学生になった娘の買い物に付き合っていた。
西の都の中心街には既にクリスマスの飾りつけが施されており、
まだ幼い娘はもちろんのこと、
美しいが無表情に見える妻・18号のテンションも上がっているのを
クリリンは知っていた。
自由な、普通の女性になって10年に満たない彼女は どこか少女のようなところがある。
恐ろしい戦いは10年ほど前にもあった。
最強と思われた親友も、その時一度命を落とした。
その頃の18号と、彼女の双子の弟である17号は敵の立場だった。
彼女たちは、壊滅したと思われていた凶悪軍団の残党の科学者に
改造を重ねられた人造人間なのだ。
華奢にすら見える姿で 恐るべきパワーを持っていたが、今ではクリリンの最愛の妻だ。
娘のマーロンはすくすくと素直に育ち、
カメハウスで同居する亀仙人を祖父のように慕っている。
そのマーロンが、道路を挟んだところに建つ大きな店のショーウィンドウに目を奪われ、
点滅する信号に気付かずに飛び出した。
「危ない!!」 クリリンと18号は、同時に叫んだ。
その時。
車が行き交う車道からすばやく娘を抱き上げ、助けてくれた女性がいた。
18号が礼を言いながら、べそをかくマーロンを受けとる。
クリリンは、配達員姿のその女性に見覚えがあった。
「ランチさん・・・?」
「えっ・・・? うそ!! クリリンくんなの? まぁ・・・すっかり見違えてしまって・・・。」
この言葉遣いはもちろん、黒い髪の方のランチだった。
彼女はクシャミをすると髪色に顔つき、性格まで変わってしまうのだ。
「そちら、奥様とお嬢ちゃまなの? はじめまして、ランチと申します。
以前、カメハウスでお世話にになっていました。」
泣き止んだマーロンと一緒に、18号もぎこちなくだが挨拶を返す。
「ランチさん、本当に久しぶりじゃないですか。
まだ仕事中なんですか?連絡先、教えてくださいよ。
老師様に話したら喜ぶだろうなぁ。」
クリリンの言葉で、ランチは勤めているという会社名の入った名刺を彼に手渡し、
道路脇に停めていた社用車で走り去った。
「あの人、お腹に子供がいる。」
家路につく途中、18号が突然言った。
「え・・・?本当か?なんでそんなこと・・・」
言われてみれば、昔よりは太っていたように見えたが。
「マーロンを受けとった時、そんな感じがした。」
子供だって?
クリリンは、ランチと話していた時わずかにだが、
かつてよく知っていた男の気を感じたことを思い出していた。
[ その2に続く ]