『夢のあと』 その2

「ランチさんか。 なつかしいのう・・。」

 亀仙人がお茶をすすりながら言った。

 

「名刺もらったんで、連絡してみんなで会いたいですよね。 

 あ、でも・・ちょっと気になることが・・・。」

クリリンは少し迷ったが、18号の言ったことを口にした。

 

「誰かと結婚したのかもしれないけど・・・。

 会った時、かすかに天津飯の気を感じたんです。 あの二人、どうなったのかなぁ・・・。」

 

金髪の、大胆な方のランチは、かつて天下一武道会で凛々しく戦う天津飯に恋をし、

彼を追いかけるためカメハウスを去ったのだった。

 

弟分の餃子とともに、山間部で修行の日々をおくる天津飯。

それでも短い手紙の消印を頼りにランチが時々会いに来ていると、

クリリンは以前、餃子から聞いていた。

 

「あの二重人格じゃ、天津飯も大変だろうな・・・。」

笑いながら目を上げると、亀仙人はなぜか難しい顔をしていた。

「ランチさんがいた頃、例の変わり身に手を焼いてのぅ。

 姉さんに相談したことがあったんじゃ。」

 

亀仙人の姉は、あの世とこの世を行き来でき、予言などの不思議な力を持っている。

通称占いババ。

 

占いババの話はこうだ。

 

黒髪の しとやかな少女ランチには、金色の髪のおてんばな双子の妹がいた。

両親が借金を残して急死してしまい、ランチと妹はそれぞれ別の屋敷に奉公に出された。

まだ幼かった2人はとても苦労した。

特に妹のほうの雇い主は、ひどく暴力的だった。

 

数年後、使いの途中で偶然2人は再会した。

ランチの目に涙を浮かべて喜ぶ姿に、暴力に怯えて荒んでいた妹の心はほぐれた。

妹は言った。  

「なぁ、文通しようぜ。」

 

ランチと妹の手紙のやりとりが始まった。

妹の方はろくに教育を受けておらず、字を書くことすらおぼつかなかったが、

姉に返事を出したい一心で必死に書いた。

姉からの手紙は、妹のたった1つの楽しみだったのだ。

 

二人が16歳のクリスマスに、

少しの時間でもよいから会おうということになった。

休みをもらったランチは、待ち合わせの場所で妹を待った。

冷え込む中、雪が降り出しても、 ずっと  ずっと。

 

 

「どうして、妹さんは来なかったんです?」

クリリンが尋ねた。

 

「死んでしまったからじゃ。」

短い沈黙のあと、亀仙人は続けた。

「雇い主のしわざじゃよ。 かわいそうに・・・。

 その日からランチさんの体に、妹の魂も同居するようになったそうじゃ。」

 

「ねぇ。」

それまで黙っていた18号が口を開いた。

「ランチって人、1人で子供を生むつもりなんじゃないの?

 相手の男が知り合いなら、教えてやればいいじゃないか。」

 

クールな18号にしては珍しい。

自身も双子の姉である彼女には、共感できる何かがあるのだろうか。

 

「そうだな・・・。プライベートなことだけど、今の話を聞いちまったら、ちょっとほっとけないよな。」

 

クリリンは、かつての仲間に連絡をとることにした。

 

[ その3に続く ]