『 My Small World 』
[ 変わり果てた地球から帰還したトランクスとブラ。我が子を迎えるベジータとブルマ。
『My Blue Heaven』の終わりの方を膨らませたお話です。]
「おい、 もう着くぞ。」
お兄ちゃんの声で、わたしは目を覚ました。
「ほら。 ちゃんと着けろよ。」
はずしていたスカウターを手渡してくれる。
お兄ちゃんの方は とっくに装着を終えており、髪と瞳が黒く見える。
そうしていると、 パパに本当に よく似ている・・・。
地球を後にする時、 わたしたちは一台のポッドに二人で乗り込んだ。
そうしてほしいと、わたしが頼んだ。
ドラゴンボールを使ってしまったことに気付いたフリーザが、
軍を差し向けてくるかもしれない。
そうなれば、もう終わりだ。
殺されて死ぬんだったら、お兄ちゃんと一緒がいい。
おなかに そっと手を当てる。 わたしは
もう、一人じゃない。
だけど死ぬ時は、誰かと一緒にいたいと思った。
二手に分かれていた方が 逃げ延びる可能性が高くなる。
お兄ちゃんは そう言いかけた。
けれど結局、わたしの言うとおりにしてくれた。
攻撃は行われなかった。
まだ、ばれていないのだろうか。 わからない。
ともあれ、ポッドは無事に 惑星ベジータに到着した。
ハッチが開く。
人払いをしているらしく、発着場は いつになく
がらんとしていた。
人影が 視界の中に入ってくる。
その一つがこちらに向かって駆け寄ってくる。
「ママ・・・。」
ママが走っているところなんて、これまで
ほとんど見たことが無い。
飛ぶことのできないママは ずっと、家と
その周りだけで過ごしていた。
被っていたヴェールがずれる。
異星人であることをはっきりと示す髪の毛を、隠しているつもりなのだろう。
前に、言ったことがある。
わたしとお兄ちゃんの、特別製のスカウター。
こんな物、設備さえあれば いくらでも作れる。
そう言って 肩をそびやかしたママに
わたしは、
『なら、自分の分も作ればいいじゃない。
そしたら今よりは、自由に外に出られるのに。』 ・・・
その時、ママは こんなふうに答えた。
『別にいいわよ。 こんな星、見るところなんか無いもの。』
わたしは多分、少しだけ複雑な顔をしていたと思う。
目を伏せて笑ったママは、腕を伸ばして抱き寄せてくれた。
そっと、とても 優しく。
この星が、 この星にある全てのものが嫌いなママ。
ママがこの星の中で好きなのは パパとお兄ちゃん、
そして、この わたし。
ママの腕に包まれて、吐息と体温を感じながら
わたしはつぶやいた。
「ごめんなさい・・。」
ママは 何も答えない。
だけど わたしの肩を抱く腕の力を強めた。
懐かしい、甘い匂いが鼻孔をくすぐる。
わたしは思い出していた。
昔、 まだお兄ちゃんがお城へ行ってしまう前のことを。
ママは椅子に深くかけて くつろいでいる。
その膝に座って、わたしは うんと甘えている。
服の上からでも伝わる体温、 そして、甘い匂い。
この場所が、わたしは大好きだった。
離れた場所にいる お兄ちゃんにも、ママはちゃんと声をかける。
『トランクスもいらっしゃい。』
膝の上から どこうとしない わたしを一瞥して、
お兄ちゃんは ぼそりと答える。
『いい。』
『いいから。 いらっしゃい、 ほら。』
片方の腕を伸ばしながら呼びかけるママ。
その姿を じっと見つめた後、お兄ちゃんは
ぷい、と何処かへ行ってしまう。
『おれは甘えん坊じゃない。』
そんな一言を残して。
その後ママは、こんなふうに つぶやいた。
『あの子、だんだんベジータに似てくるわね。
顔は もともと、そっくりなんだけどね・・・。』
昼は わたしが独り占めした。
そして夜は、パパだけのものだったママ。
お兄ちゃんは きっと、寂しかったんだと思う。
強い風が吹き付けて、ママのヴェールが舞い上がった。
腕を伸ばしたお兄ちゃんが それを掴むよりも早く、
パパが自分のマントをはずして ママに被せた。
人払いをし、パパもお兄ちゃんもついているけど、何が起こるかわからないから。
いつだって、こんなふうにして守られていたママ。
パパとお兄ちゃんの、唯一無二の存在であるママ。
ママがうらやましかった。
わたしも、寂しかった。
だから、 わたしは ・・・
まだ膨らんでいないおなかに、視線をおとす。
ママのやわらかな手のひらが そこに触れた時、
枯れ果てたはずの涙が、再び あふれ出した。
これが わたしの家族。
そして これが、わたしの属する小さな世界。