My Sister

[悟天⇒ビーデル+悟天×ブラ です。

名もなき恋』と併せてお読みいただけましたら うれしいです!]

下級戦士の子供の多くは、生後間もなく 辺境の惑星に送られる。

そして、物心がつくか つかないかのうちに、一つの世界を潰すのだ。

 

だけど そのまま、誰も迎えに来ない場合も珍しくはないという。

見捨てられた子供は、何もかも・・・

乗ってきた宇宙船さえも 自分自身の手で壊してしまった世界で、死んでいくことになる。

わけもわからず、成すすべもなく。

父親がちゃんと迎えに来たおれは、恵まれている方だ。

 

下級戦士は婚姻を許されていない。

それなのに お父さんは家族をつくって、自分のそばに置き続けていた。

そのうえ、家にはお母さんと兄貴の他に もう一人、女の子がいた。

 

髪の毛は黒いけれど、尻尾がない。 他の星の人間だってことは、すぐにわかった。

女の子は腰をかがめるようにして、チビだったおれの顔をじっと見つめた。

「わぁ・・ そっくりね。」  そう言って、笑ってた。

おれがこの手で滅茶苦茶にした星の、空によく似た色の瞳を輝かせて。

 

それから何年かが過ぎたある日。

お父さんと二人になった時 おれは、どうして あの子を家でかくまっているのかを尋ねた。

お父さんは、兄貴が今のおれと同じくらいの頃に、

仕事で滅ぼした星の生き残りを連れて帰ってきてしまった話をしてくれた。

「病気だって言うから、すぐに死んじまうと思ってたんだけどな。 まあ、乗りかかった船ってやつだ。」

そんなふうに言いながらも、お父さんとお母さんが あの子のことを、

本当の娘のように思っているのはわかっていた。

 

みんな あの子をビーデル、と名前で呼んでいた。

なのに おれだけは、おねえちゃんと呼ばされていた。

おねえちゃん。 その呼び名が姉ではなくて義姉という意味だったこと。

それに気付かされたのは、少し後になってからだ。

 

ある夜。 兄貴は仕事で宇宙に出ていた。

彼女は寝床を抜け出して、家の外で夜空を見ていた。

この星の空は いつだって、どんよりとした厚い雲に覆われている。

星空を拝めるのは、宇宙に出た時だけだ。

おれは彼女に声をかけた。 「兄貴のことが、心配なの?」

小さく うなずく。

「大丈夫だよ。 兄貴の戦闘力は、ちょっとしたエリートの奴なんて とっくに超えちまってるんだ。」

それゆえに上に睨まれて、厄介な仕事を押し付けられることもある。

けれど もちろん、そんなことは口にしない。

 

「もう、家に入ろうぜ。 また具合が悪くなるぞ。」

黙ったままで彼女は、まだ あまり膨らんでいない腹をさすっている。

そう。 彼女の腹の中には、兄貴の子供が宿っていた。

「男かな、女かな。」 おれがそう言うと、彼女はやっと口を開いた。

「どっちでもいいわ、元気なら。 ねえ、男でも女でも、この子のこと鍛えてやってね。」

「おれがでしゃばらなくたって、お父さんが張り切るさ。」

「うんと強くなってもらいたいの。 だからゴテン、あなたもお願い。」

「・・わかったよ。」

 

強くなけりゃ、この星では生きていけない。

お父さんと兄貴とおれ。 三人いっぺんには家を空けないようにしていた。

お母さんと、彼女を守るためだ。

下級戦士が家庭を持っていることを、よく思っていない奴は少なくなかった。

 

「男の子だったら、やっぱり そっくりなのかしらね。」

おれの顔を見て彼女は笑う。 もう、背丈はほとんど かわらない。

「もしも、さ、 兄貴が戻ってこなかったら・・ 」 「え?」

「生まれてきた子供には、おれが父親だって言えばいいよ。」

「何 言ってるのよ・・。」

「自分で言ったんだろ。 顔も声も、おんなじようなもんなんだ。」

赤ん坊が大きくなる頃には 背が伸びて、もっとそっくりになってるさ。

「バカね。」 

あきれたように、だけどやっぱり彼女は笑った。

「いくら似ていたって、別の人間じゃないの。 そんなこと言っちゃダメよ。」

そして、こう付け加えた。 

「ゴテン、あなたは他の誰でもないのよ。」

 

その夜を境に、彼女はほとんど床についたままになってしまう。

いつだって ちゃんと帰ってきた兄貴の宇宙船が戻らなかったのは、

彼女が命を賭けて子供を産んだ日のことだった。

 

 

兄貴と彼女の間にできた子供は、もう六つになった。

おれはといえば、ひょんなことで知り合った女と しょっちゅう会うようになっていた。

ブラという名前の その女は王子の妹で、この星の王が異星人の女に密かに産ませた子だった。

誰かに知られたら、ひどく面倒なことになる。

わかっていても、おれはブラに会わずにはいられなかった。

 

ブラは、自分の見た目が母親に似すぎていることに 苦しんでいた。

だから言ってやった。 彼女が口にしていたのと、全く同じ言葉を。

「いくら似ていたって、別の人間じゃないか。」 ・・・

 

その後、おれの腕の中に納まったブラは こう言った。

「さっきの言葉、 あんたも誰かに言われたんでしょ?」

「・・まあね。」 「誰に言われたの?」

青く澄んだブラの瞳。 誰かを思い出すけれど、やっぱり少し違っている。

彼女の生まれ育った星の空は、どんな色だったのだろう。

そんなことを考えながら おれは答えた。

「義姉さんだよ。」