フリーザ軍の巨大な宇宙船の中に、わたしたちは いる。

乗ってきたポッドが見つからなかったためだ。

軍の奴らとの戦闘で、壊されてしまったのかもしれない。

 

船内は とても広く、生命維持装置を見つけ出すのも大変だった。

トランクスはもう、ずっと瞼を閉じたままだ。

顔色もひどいし、息もしていないように見える。

けれど まだ、完全には、生命の灯は消えていない…。

なのに この装置ときたら、おそろしく ややこしい。

旧いのか新しいのか知らないけれど、ポッドに備え付けられている物とは 使い方が違うのだ。

ああ、こうしている間にもトランクスは…!

焦りのために手元が狂って、余計うまくいかない。

すると背後から、わたしを呼ぶ声が聞こえてきた。

『パン。』

 

誰? もちろん、トランクスじゃない。

とても優しくて、なつかしい声… 

「おじいちゃん!」

どうして? なんで、こんな所にいるの?

『そんな機械より、こっちの方が効くぞ。 これを食わせてやれ。』

そう言って、わたしに向かって 小さな豆を差し出す。

「何なの、これ。」

『いいから食わせてやれ。 まず おめえが噛んでやって、それから 飲み込ませてやるんだ。』

「うん、わかった。」

おじいちゃんの前で そうするのは、少し恥ずかしかった。

でも、そんなことを言っている場合ではない。

 

… 飲み込んだ。

「トランクス!」

驚いた。 まだ、目は覚まさない。 

けれど明らかに血色が良くなったし、呼吸だって ちゃんとしている。

『もう大丈夫だ。 よかったな、パン。』

「うん! ありがとう、おじいちゃん!」

だけど振り向いたときには、おじいちゃんの姿は もう無かった。

『頑張れよ。』

その一言だけが、耳に届いた。

 

おじいちゃん。 

あんなふうに現れたってことは やっぱり、死んじゃったってことなの?

信じたくない。

認めたくはないけれど、以前よりは つらくなかった。

理由は あの世で、おばあちゃんと会えたんじゃないかって思うからだ。

でも…

侵略と略奪を繰り返して生きてきたサイヤ人の行く あの世、

それは地獄に決まっている。

地獄で、愛する人を待つなんてこと、できるんだろうか?

わからない。

けど、同じ場所に行けるのなら、まだ幸せだって思える。

だって おそらく、わたしの両親は そうじゃないから。

ママは別の星の人間だし、もちろん 戦士なんかじゃなかったから。

 

「パン!大丈夫か、起きてくれよ。」

わたしを呼ぶ、トランクスの声で目が覚めた。

狭い。 ここはポッドの中だ。 一人用に、二人で乗っている。

どうして? 壊されたんじゃなかったの?

「命拾いできたみたいだな。 パン、おまえのおかげだよ。」

「…。」

 

さっきのあれは、夢だったのだろうか。

不思議だ。 

口の中には まだ、あの 豆?薬?の味が残っているのに。

そういえば…。

わたしは尋ねる。

「トランクスが、フリーザをやっつけたんでしょう?」

「… おまえ、もしかして覚えてないのか?」

「え…?」

瞼を閉じる。

いくつかの光景が 頭の中に、断片的に蘇ってくる。

あの恐ろしいフリーザの、慌てふためいて歪んだ顔。

わたしたちとは違う血の色、 まるで呪いをかけるように、こちらに向かって飛び散る肉片…

 

「いいよ、思い出すな。 無理に 思い出さなくていい。」

そう言ってトランクスは肩を引き寄せ、胸元に、わたしの顔を埋めさせた。

温かい手が ずっと、頭をなでてくれていた。

 

 

惑星ベジータは、消滅しては いなかった。

但し かろうじて、だ。 見渡す限り、破壊されつくして何も無い。

それに、いったい どれだけ殺されたのか…。

地球に着いた時同様、着陸と同時に 取り囲まれる。

フリーザ軍の、今度は 選りすぐりの精鋭、手練れの戦士どもに。

そいつらによってパンとおれは、フリーザの父である コルド大王の前に突き出された。

 

「ほう。 地球から、生きて帰ってきたということは つまり…、」

ひどく感心した様子で、続ける。

「フリーザを 倒したのか?」

「そうだ。」

短い答え。  だが十分だろう。

しかし、それを聞いたコルド大王の反応は 意外なものだった。

「素晴らしい、実に素晴らしい。 それほどの力を持った者が 身近にいたとは。」

 

楽しげな声。 

あまつさえ、笑顔さえ 浮かべているではないか。

「何を言っている…? 息子が殺されたんだぞ。」

おれの その言葉に対し、大王は、まるで諭すように話し始めた。

「誤解があるようだな。 

 いいか、私がフリーザを息子と呼んでいたのは、血のつながりなどのためではない。」

「? どういうことだ。 まさか、」

「そうとも。 全宇宙で一、二を争う力の持ち主だったためだ。

 つまり その権利は今、おまえのものとなったのだ。」

「何を言ってる… 冗談じゃない…。」

「ちょうど、選抜も終わったところだ。 

これまでどおり この惑星ベジータを拠点に、

激しい戦の中を生き延びた者たち そして我が軍を束ねるのだ。

フリーザに代わって、私の新しい息子としてな。」

 

背後には、生き残ったサイヤ人が集められていた。

ざっと 2〜300人、といったところか。

宇宙に出ている者も多いのだろうが、ずいぶん減ってしまった。

そして もちろん、おれの家族の姿はない。

 

「異存は あるか?」

大王が、一拍置いて 辺りを見渡す。

サイヤ人にも 軍の奴らの中にも、異を唱える者は いなかった。

それは この、コルド大王と戦うことを意味していたからだ。

あのフリーザの、実の父親。 測定不能の、あまりにも巨大な力…

「仰せに従います。 精一杯、務めさせていただきます。」

頭を垂れて、付け加える。

「… 父上。」

大王は何度も、いかにも満足げな様子で頷いていた。

 

「トランクス、どうしてなの?」

小さく叫んだパンに向かって、おれは答えを返した。

「生き延びるためだ。」

城があったはずの場所を見つめる。

父さんも かつて、今のおれと同じ気持ちで いたんだろう。 

そう思いながら。

 

 

その後、二人だけになった時、わたしに向かってトランクスは言った。

「いいか、パン。 おまえはおれの相棒だ。 おれのそばを離れるなよ。 

そして、もっと力をつけろ。 強くなるんだ。」

「うん!」

この命令は、喜んで聞く。

トランクスに ついて行く。 地獄まで、一緒に行く。

 

ところで わたしには、あと もう二つ、決めていることがあった。

一つは、髪を伸ばすことだ。

純粋なサイヤ人は わたしの年になれば もう ほとんど、髪の毛は伸びてこない。

だからヘンに思われないよう、少しずつ切るようにしていた。

だけど もう、その必要はないだろう。

トランクスの、風にたなびく すみれ色の髪を見つめながら 思った。

 

二つ目は トランクスに、家族をつくってあげることだ。

王妃なんてものには ならなくていい。

でも…。

それが かなう年になったら、絶対に そうするつもりだ。

もっとも それは、以前から決めていた。

そう、彼に初めて出会った時から。

 

「なんだ、どうした?」

「なんでもない!」

トランクスの手がまた、わたしの頭をなでてくれる。

白い手袋をはめていても、温かさが伝わってきた。

Destiny’s child

混血のプリンス』の続きです。そのまま加筆するつもりでしたが

舞台も変わってしまったので独立させました。

この後、ブラ目線のベジブルとタブグレの話を書きたいと思ってます。]