028.『父兄参観』

第6話です。担当は ひまママです。

幼稚園ライフ、書いていて ちょっと懐かしかったです。]

人だかりに向かって、歩みを進めてみる。

園児たちに囲まれていたのは、やっぱりベジータだった。

立ち上がった彼を見てわたしは、自分の目を疑った。

傍らにいるトランクスも、おそらく そうだったと思う。

 

こちらの方に歩いてきたベジータは なんと、園児の一人である小さな女の子を抱きかかえていた。

女の子は泣いていた。

よく見ると、両膝から血が滲んでいる。

 

「あらあら、擦り剥いちゃったのね。 どうもすみません。」

園長先生がお礼を言いながら、ベジータから女の子を受けとった。

「○○ちゃんね、 塀の上に上がったんだよ。」 「それで飛び降りたんだよ。」

子供たちが口々に訴える。

トランクスも口を挟む。 「塀に上がっちゃ いけないんだよ。」

「まあ、どうしてお約束を破ったの?」

腕の中でべそをかいている女の子に向かって、園長先生が尋ねる。

「空を飛べると思ったんだもん。」  ・・・。

「○○ちゃん、人間はお空を飛べないのよ。」

園長先生の言葉に、女の子は大きな声で言い返した。 ベジータの方を指さして。

「でも、あのおじちゃんは飛んでたわ。」

・・・見られてたのね。

 

「長居は無用だ。 用が済んだのなら帰るぞ。」

「えーっ。 まだ いいじゃない。こんな機会、滅多にないのよ。」

「なら おまえだけ残れ。 俺は帰る。」 「ちょっと待ってよ・・。」

立ち去りかけたベジータの腕を掴んで、耳元にささやく。

「まさか あんた、飛んでいくつもり?」 「当たり前だ。」

「今はダメよ。 騒ぎになっちゃうわ。 トランクスがかわいそうじゃない。」

 

言い争っているうちに、お昼を告げるチャイムが鳴った。

子供たちが園舎に戻って行く。 「ママたち、帰っちゃうの?」

寂しそうにつぶやいたトランクスに、ママはもう少しいるわよ。 そう答えようとした時。

担任の先生が呼びに来た。「トランクスくん、お弁当の時間よ。 教室に戻りなさい。」

そして、わたしとベジータに向かって 言う。

「よろしければ、教室で参観していかれませんか?」

「えっ? いいんですか?」

「もちろんです。 トランクスくん、喜びますよ。

 それにお弁当が済んだら 間もなく、お帰りの時間ですから。」

 

あら・・ そうなんだ。

仕事があるから お迎えはいつも母さん任せで、トランクスが何時に帰るのかも知らなかった。

 

踵を返そうとしたベジータの腕に しがみくつくようにして引き留める。

「せっかくだから見ていきましょうよ。 すぐ終わるみたいだし。」

空いた手でポケットを探る。 今朝トランクスを送り届けた時に乗った車の入ったカプセルがある。

「いいでしょ、ねっ。 帰りは車を使えばいいわ。」

「チッ・・・。」  大きく舌打ちをして、ベジータは わたしの腕を振りほどく。

けれど、飛び立つことはしなかった。

ひどく不機嫌な様子で、彼は園舎に入って行った。

 

教室。 

小さな椅子に机。 そして壁には、子供たちの描いた絵がたくさん飾ってある。

手洗いを済ませた子供たちが、それぞれのお弁当を前にして きちんと席に着いている。

だけど そのうちの一人が振り返り、わたしとベジータを見て尋ねた。

「誰のお父さんとお母さん??」

それを聞いたトランクスが、すかさず答える。 「おれのだよ。」

「トランクスくんのパパとママ??」  「顔が似てる!」  「顔が似てる!」

わたしたちとトランクスの顔を見比べて、子供たちが騒ぎだした。

「はい、皆さん、静かに!! お弁当をいただきますよ。」

先生が、皆を見まわしながら 手をたたく。 子供たちが静まった。

挨拶をして、お弁当箱を開く。 もちろん、トランクスも。

 

「パパだ! ねえ、これ、パパの顔だよね。」 トランクスが、わたしに向かって笑顔で叫ぶ。

料理の苦手なわたしが、白いごはんの上に施した ささやかな飾り付け。

周りの子供たちが覗き込む。

「ほんとだー、そっくり。」  「ねえ、どうして怒った顔なの?」

席を立って ベジータの顔を確かめに来る子までいた。

わたしは涙を流して 笑っていたけど、ベジータは終始、苦虫をかみつぶしたような表情だった。

 

終礼の後、トランクスと一緒に玄関を出る。

わが子を迎えに来た親たちで、園庭は既に賑わっていた。

「あの・・。」 門のそばまで来た時、声をかけられた。

「うちの子がお世話になったそうで、どうもありがとうございました。」

ケガをして泣いていた、ベジータに抱えてもらっていた子のお母さんだ。

「あっ、 いえ、 そんな・・・。」 普段 顔を出さないから、話が続かない。

そんなわたしに構うことなく、ベジータは さっさと歩いて行ってしまう。

そして・・・  「あっ、 パパ。」 

少し離れた場所から、彼は飛び去ってしまった。 あーあ。

驚きのあまり 声も出ない様子のお母さんに向かって、女の子は言った。

「ねっ。 ほんとだったでしょ。」

 

これは、ホントに長居は無用だわ。 「それじゃ、失礼します。」

ホホホ、と笑って誤魔化しながら 車の入ったカプセルを取りだそうとした、その時。

「おれだって飛べるよ!!」 

強い力で、つないでいた手を引き寄せられる。

「え? え? ちょっと・・・

 

あっという間のことだった。

まだ4歳のトランクスの腕に抱えられ、わたしは今日2度目になる空に浮かんだ。

第7話 揺れる心』に続く