019.『くらくら』

第5話です。担当はMickey様です。]

ベジータに抱きつく形で私の指し示す方向へと空中を移動していた。

 

そういえば、こうして空を飛んだことってあったかしら?

ふと思い当たったことを考えてみる。

ヤムチャとだって空中デートなんてしたことなかった。

言えば連れて行ってくれただろうけど、思いつきもしなかったという方が正しい。

 

だって、こんなにも気持ちの良いものだなんてこと知らなかった。

空を飛ぶ浮遊感は、ジェットフライヤーなんてものでは体感できるものとは比べ物にならない。

何より、無条件に安心していられる気がする。

事故に遭うことも、故障してしまうことも、墜落してしまうことも、絶対にない。

大きく言えば地球が壊れてしまいそうな事態になったとしても

命の心配をする必要が感じられない。

 

私ったら・・・

いつの間にこんなにもこの人の腕の中にこれほどまでの安心感を得てるんだろう?

とっくに幼稚園上空へとたどり着いていることすら気付かないほどに、

ベジータにしっかりと抱きつきそんなことを考えていた。

 

「・・・おい!ブルマ、いい加減にしろ」

「へ?」

「ここじゃないのか?いつまでそうしているつもりだ。さっさと弁当を届けろ」

「届けろって・・・こんな上から飛び降りろとでも言うの?

私はあんたとは違うんだから怪我じゃ済まないわよ」

「・・・っち」

 

舌打ちするベジータの仕草を見ても、ここから下へと落とす気がないことくらい分かっていた。

それは背中に回されていた腕の強さから。

しかも、ベジータはわざわざ人目の付かないような場所へと降りていく。

すっかり地球の事情を理解して、それを無意識に行動しているところがなんだかうれしい。

地球に、馴染んでいてくれてるんだなって感じられる。

 

園内へと遠慮もなく入っていく私とは裏腹に門から入ってこないベジータを振り返った。

 

「何してるの?」

「さっさと弁当渡せ。それで重力室を直せ」

「ねぇ、私はお弁当届けるのを付き合ってって言ったのよ。

それを了承したのはベジータよね?」

「だからつれてきてやったんだろう」

「そうね。でもお弁当と届けるのはまだ終わってないわよ」

「・・・まさかこのオレにトランクスに弁当を渡せとでも言うのか?」

「そんなことは言ってないわ。付き合ってって言ってるだけでしょ。

そんなところに突っ立ってないでさっさと付いてきなさいよ」

「なんで―――

「自分の言ったことに責任持ちなさいよね。ベジータがいつも言ってるじゃない」

 

きっと盛大に舌打ちでもしてるんだろうことは分かっていたけど、

気にしないフリをしてそのまま奥へと歩みを進める。

後ろから付いて来ている気配を感じながら。

ベジータが良くそう言っているのは事実だからこそ、

逆らうこともしないだろうことを分かってて言ってやったのだ。

 

途中、園長先生に声を掛けられ事情を説明すれば快く通してくれたが、

離れた場所にいる人物を不振がる様子を向けられた。

見たこともない人物がいれば当然の反応だけど、

トランクスの父だと説明するとすぐに納得してくれた。

 

ちょうどその時、ワラワラと子供たちがどこからともなく湧き出てきた。

外で遊ぶ時間なのか、一目散に遊具へと駆け出す子がいればボールを手に走り出す子、

シートを広げておままごとをしだす子、みんな思い思いに駆け出していた。

なのに、トランクスだけは一目散にこちらに駆け寄ってくる。

私がここにいることを初めからわかっていたかのように。

気というものを感じられるんだということはなんとなくわかっていたが、

どうやらやっぱりそうらしい。

 

「ママ!」

「トランクス。はい。これお弁当。遅くなっちゃってごめんね」

「ずっと待ってたんだよ!」

「間に合ってよかったわ。もうすぐお昼よね?」

「うん。外で遊んだらお弁当の時間だよ」

「トランクスは何して遊ぶの?」

「ん〜・・・あれ?何だろうあそこ。なんでみんな集まってるのかな?」

「え?・・・あ・・・」

 

あそこにいるのはきっとベジータ。

姿が全く見えないのは身をかがめてるのだろうか?

怖がって誰も近づかないというならわかるけど、何で子供たちに囲まれてるの?

そういえば、トランクスはあそこにいるのがベジータだってこと分からないみたい。

ならやっぱり気を感じられるのは、気のせい?

 

なんだか今日はいつも以上に、しかもいつもとは違う部分の頭を使うような気がする。

少しでも整理したくて頭を振ってみたけど、状況はちっとも変わらない。

まだお昼も向かえてないこの時間でもうすでに驚き疲れた。

一体何があったっていうの?これ・・・

第6話 『父兄参観 につづく