025.『遅刻』

第3話です。担当はMickey様です!]

『オレは自分で勝手にやる。お前は、こいつのほうを何とかしてやれ』

 

その言葉の意味がなんだか理解できない。

何?・・・それって・・・

ベジータがトランクスを気にかけたってこと?

 

そんなことしてる暇なんてないことは分かってる。

これから朝食を準備しなくちゃいけない時点で、もうギリギリだ。

でも、信じられないことのほうが大きくて冷蔵庫の扉を開けたまま固まってしまっていた。

 

「ママ!」

何度か呼ばれていたようで、かなり大きな声がようやく耳に届いた。

「みて。自分で着れたよ!」

自信満々で見上げてきて腰に手を当てているトランクスを見下ろせば、

確かに着るには着れてるが、ボタンが掛け違えていたり、

ズボンの後ろからはシャツが出ていたり・・・

良く出来たね。と褒めつつも目線を合わせるように膝を付いて服を直してあげる。

 

そうしてやっと現実に戻ってきた。

とりあえず食事どうにかしなくちゃ・・・

席に座ってなさいとトランクスに伝えて再び冷蔵庫へと向き直る。

と、そこにはベジータの姿。

また時間が止まってしまった。

 

何かしら?この信じがたい光景は―――

手馴れた様子でキッチンに立ち、フライパンを手にしている姿は

シェフとは言わないまでもそれに近いものがある。

規格外に大きなオーブントースターに何枚ものパンを突っ込み、

大量の卵を起用に片手で割ってはフライパンに入れる。

もう一つのフライパンでは厚切りのベーコンを何枚も焼いている。

最後に大量に取り出した野菜を千切ったり切ったりしてはサラダボールに投げ入れていた。

と、思う。

実際はあまりの速さに良く見えない。

何より驚くのが、まるで出来上がりの時間を狙っていたかのように全て同時に仕上がった。

 

「何してる。ボサっとしてる暇があるならそいつをどうにかしたらどうなんだ」

「そいつ?」

クイっと顎で指し示された大きな弁当箱。

・・・・・・すっかり忘れてた。

 

こんな大きな弁当箱を埋めるだけの何かを私が作れるのだろうか?

作ろうと思えば作れると思うけど、自分の料理センスの無さは自覚してる。

昔、ヤムチャやウーロンやプーアルに

「お願いだからお前はキッチンに立つな」と何度言われたことか。

他のことならなんでもうまく出来る自信があるものだから料理本なんて見たこともない。

いつもママがいるから目にする必要もなかったんだけど。

だけど、こうなるとちゃんと勉強しておけば良かったと思う。

トランクスのお友達のママの中にはとても凝ったお弁当を作ってくるらしい。

いわゆるキャラ弁と言われるもの。

それを一度見たトランクスはママに頼んでもっとすごいキャラ弁を作ってもらっていた。

そういったものについてはママは天才的だから問題なくやってのける。

幼稚園一だったと自慢顔で家に帰って来た。

きっとトランクスはそれを私にも期待してる・・・

 

さすがの私もそれは無理だ。

だからと言って何もせずに負けを認めるようなこともしたくない。

思わず弁当箱を抱きしめたまま、しゃがみ込んでしまった。

 

「おい」

頭の上から聞えてきた突然の声に顔を上げる。

「え?」

「そんなところで座っていられると邪魔だ。どけ」

「どけ、って・・・」

「さっさと食え。それから考えろ。遅刻させる気か?」

「食え?」

 

立ち上がってダイニングを覗き込めば、驚いたことに私の席の前にも食事が用意されてあった。

しかも見ていた限りでは作っていた覚えの無いスープや炒め物までテーブルには並んでいて、

トランクスはすでに口いっぱいに詰めていた。

「うそ・・・」

私の様子なんて気にも留めず、ベジータもさっさと席に付き食べ始める。

 

なんだか信じられないこと続きで頭が付いていかない。

もうこれは夢を見てるとしか思えない。

いや、きっと眠ってるんだろう。

こんな日常、あって欲しいと思うけどあるわけがない。

 

あ〜・・・こうなったらこのお弁当も魔法で作っちゃおうかしら?

私は本気で真剣にそう悩んでいた。

[ 第4話『脅迫』に続く ]