001.『朝』
[ 第2話です。 担当は ひまママです。]
ベジータはいつも、ひどく行儀よく眠っている。
それは彼が王子様だからなのか、それとも軍隊暮らしのせいなのか、わたしには よくわからない。
とにかく彼は目を覚ました。
「おはよ。」 「・・・何をジロジロ見てやがる。」
ハンサムだなぁ、 って 思ってたのよ。とは言わない。
「やだ、起きてたの? わたしよりも遅く起きるなんて、珍しいと思ってたのに。」
いかにも不機嫌そうに彼は答える。
「夜中に何度か起こされたんだ。 おまえの寝相はひどすぎるな。」
「あら・・・。」 それは失礼したわね。
でもね、 そのことに対応できるように、こんなに大きなベッドを導入したのよ。
なーんてね。
「・・おまけに寝言まで言ってたぞ。」 「えーっ、何て?」
黙ったままで目を逸らす。 なんとなく想像がついたけれど、あえてもう一度 尋ねる。
「ねえねえ、教えてよ。 わたし いったい、何て言ったの?」
「知らん。 忘れた。」
素っ気ない返事を返し、ベジータは起き上がった。
わたしたちが使っている この寝室には簡易のバスルームがあり、小さな洗面台も備わっている。
彼はそこで顔を洗い、さっさとトレーニングウェアに着替えた。
「どうせ寝坊しちゃったんなら ゆっくりすればいいのに。 先に朝ごはんにしましょうよ。」
そんなわけにいくか。
そう言いたげな彼に向かってわたしは言った。
「早く食べなきゃ、片づけられちゃうわよ。」
その時。 部屋のドアを叩く、大きな音が聞こえてきた。
母さんなら気を利かせて、内線電話を使うはずだ。
防音付きの頑丈な扉を、これだけ強く 叩き続けられる者。
それは、 もちろん・・・ 「トランクス。」
「ママ、おはよう!」 笑顔で飛びついてくる。
そして わたしの腕の中から、父親に向かって声をかける。 「パパも、おはよう。」
一瞥しただけで、ベジータは何も答えない。
この春、幼稚園に入園したトランクス。
ずいぶん重くなったこの子を、ベジータは まだ一度も抱き上げてやったことがない。
もしかすると それは、彼自身がそうしてもらわずに育ったせいなのだろうか。
そんなことを考えながら、床の上にトランクスを下ろす。
「えらいわね、一人で起きたなんて。」 「だって今日はおばあちゃんたち、いないもん。」
「えっ・・・?」
そういえば、旅行に行くようなことを言っていた気がする。
「あれって、今日からだったの?」 しかも、こんな早くから出掛けちゃったわけ?
・・・
「キャーー!!たいへん! こうしちゃいられないわ!」
わたしのことはともかく、トランクスに幼稚園に行く準備をさせなきゃ。
えーと、 かばんに帽子、 それに園服・・・
あっ、 そうよ。 朝ごはん。
食堂を覗く。 テーブルの上には何ものっていない。
家を空けるときは大抵、何か用意していってくれるのに・・
母さんも寝坊しちゃったのかしら。
とはいうものの我が家には、自動調理器という強い味方が存在するのだ。
だけど さすがに、材料は ある程度正確に投入しないと おいしいものができない。
普通の人が食べる分なら簡単だけど、うちはとにかく量が必要だから・・・。
うーん。 何をどのくらい入れればいいのかしら。
まぁ、朝だから卵にウィンナーでしょ。 それから野菜を何か・・。
あれこれ悩みながら冷蔵庫の中を物色する。
その時、 背後で トランクスが衝撃的な発言をした。
「お弁当はどうするの?」
「えっ・・・ 」
トランクスの通う幼稚園は、お昼は給食のはずだ。
ふと、 目を上げる。 冷蔵庫のドアに何か貼ってある。
『給食室のメンテナンスのため、●日〜○日はお弁当を持たせてください。』
・・・
トランクスが、ランチボックスを持ってきた。 「きのうは、これに入れて行ったんだよ。」
お、 大きい・・・
どうしよう。 お弁当となると、普通の料理とは また少し違う。
買ったものじゃかわいそうだし、幼稚園を休ませるのはもっとかわいそうよね。
いっそ給食室のメンテナンス、わたしがやってあげようかしら。
わたしだったら その辺の業者なんかより、ずっと早く終わらせるのに。
ああ、 こんなこと考えてる場合じゃないわ。
とりあえず、わたしは仕事を休むことにしよう・・・。
「まったく。 食う物も用意できないのか。」
ベジータが現れた。 重力室に行ったとばかり思っていたのに。
軽いパニック状態のわたしに、彼は意外な言葉をかけた。
園服を着ているトランクスを見下ろしながら。
「おれは自分で勝手にやる。 おまえは、こいつのほうを何とかしてやれ。」
[ 第3話 『遅刻』 に続く ]