071.『下品な女』

第15話です。 担当はMickey様です。 ああ、終わりが近づいてきましたね・・。]

トランクスの体を拭いてやりながらやっぱりベジータのことが気に掛かっていた。

一体なんで鼻血なんて出したのだろう?

 

「ねぇ、トランクス。ベジータってばずっと湯船に浸かってたの?」

「ん〜・・・?うん。体洗ってる間話を聞いてくれてたんだよ!」

「話って、何の話?」

「おばあちゃんとママが似てるとかパパと悟飯さんの体が似てるとかそんな話だよ。

あと・・・夜遅くに二人で入ってるなんてずるいって言ったけど」

「ずるいって・・・」

「だって、パパが長い時間お風呂に入ってても平気ってこと

ママが知ってるくらい一緒に入ってるんでしょ?おれも一緒に入りたい!入りたい!」

「わかったってば。今度パパに頼んでみなさい・・・って、それで鼻血?」

 

へ〜・・・そう。

色々、思い出しちゃったってこと?

鼻血出しちゃうほど激しく?

最中は臆することなんて少しもないくせに。

「ママ、何がおかしいの?」

「え?なんでもないわ。さぁ、湯冷めしないうちに寝ましょうね」

 

トランクスを部屋で寝付かせ、自分も自室のシャワー室へと入った。

本当なら湯船に浸かったゆっくりしたいところだけど、

これが来ているときはなんとなく入るのを躊躇ってしまう。

だから、湯船に浸からない分ゆっくりとシャワーを浴びていた。

 

バスルームから出てみれば我が物顔でベジータが

ベッドの背もたれに背を預けじっと窓の外を見ていた。

薄暗い間接照明の中で見るベジータの姿はいつも以上に憂いを帯びていて

ドキリと胸が高鳴るはずなのに、今日は顔を見た瞬間クスリと笑ってしまった。

そう、思い出したのはさっきの出来事。

ベジータにしたらきっと5本の指に入るであろう醜態。

それを感じさせない姿に笑いが止まらない。

「・・・っち。何を笑っていやがる」

「別に」

「随分な態度だな。今日は誰のお陰で腹を空かさずに済んだと思ってるんだ?」

「ふふふ、だって。ねぇ、さっきそんなに長くお風呂に入ってなかったわよね?

なんでのぼせちゃったの?」

「くっ・・・・・・」

「トランクスに聞かれて色々思い出しちゃったの?あんなことや、こんなことや・・・」

「げ、下品な女が!!」

「あら、私何も言ってないわよ。ベジータが勝手に想像しただけじゃない。

一体どんなこと想像しちゃったのかしら?」

 

盛大な舌打ちが聞えたと同時に視界がクルリと回転し、

気づいたときにはベジータの顔と天井が見えた。

抗議の言葉を紡ぐ前に塞がれる唇。

そのまま流されてしまいたくもなるが、未だに残る鈍いお腹の痛みにそれは許さなかった。

首筋に舌を這わせるベジータを力いっぱい押しのける。

ビクともしないことくらいわかっているが、精一杯。

「なんだ」

「今日は、ダメなの。お願いだから離れ―――

「そんなことは知っている。嫌でもここまで血の匂いがすればな」

「え?」

「だが・・・今日は労ってもらおうか」

「ちょ、やぁ・・・」

「ヤダと言うわりに体は素直に反応してるようだがな」

 

再び舌を這わせ始めたベジータ。

その時、ピカッという激しい光と同時にドンッという大きな音が響いた。

「ぅきゃぁぁぁぁ!!」

 

叫び声を上げたと同意に爪が食い込むほどにベジータを抱きついた。

ガタガタと無意識に震える体を止めることが出来ない。

昔から、雷だけはどうしても苦手だった。

だから多少の雷なら聞えない程度の防音設備を家には整えているのだけど、

ここまで近くに落ちればそれは無理な話。

逆に防音設備のせいで近づいてきていることを知ることも出来なかった。

「・・・デカイ声出しやがって、たかが雷だろう」

「や・・・だ・・・」

 

ベジータが小さくため息をついたのが聞えた。

だけど抱きついている手を緩めることは出来なかった。

未だに大きな音と光は続いている。

するとそのままドサリと横に倒れ、そっと抱きしめ返してくれた。

たったそれだけのことが、雷の怖さを遠退かせてくれる気がした。

 

コンコン―――

 

鍵なんて締めてなくても、この時間になれば誰もこの部屋には入ってこない。

それは家族の中での暗黙の了解のようなもの。

だけど、返事をする間もなくスッと開かれた先にいたのは小さな影。

枕をギュッと握り締めたまま震えているようだった。

「なんだ」

少し落ち着いたお陰で扉のある後ろを振り向く余裕が出来た。

抱きしめた手は外せないのだけど。

 

「パパ・・・ママ、一緒に寝てもいい?」

最終話『家族未満』に続く