265.『急接近』

第14話です。 担当は ひまママです。 くだらなくってスミマセン・・。]

ベジータが、トランクスをお風呂に入れてくれないかしら?

その考えが頭をよぎった時、もうそこにベジータの姿は なかった。

 

「ママ、おなか治った? おれ、お手伝いしてあげるよ!」

「ありがと。 助かるわ。 トランクスは いい子ね。」

いっても うちには、C.C.社製の最新型の食洗機があるのだ。

使った食器はもちろんのこと、調理器具・・

お好み焼きを焼いた鉄板まで、ピカピカに磨き上げてくれる。

 

「これで よし、と。」

思いがけず 今日は、三度の食事をベジータに作ってもらった。

豪快な料理のおかげで、冷蔵庫の中はからっぽだ。

電話で、食材の配達を頼んでおく。

今夜中には届くから、明日の朝食は何とかなる・・  はずだ。

母さんたちは出発が繰り上がった分、多分早めに帰れるだろうと 今朝の電話で言っていた。

冷蔵庫にマグネットでとめてある、幼稚園からのプリントを確かめる。

『●日〜○日までお弁当を持たせてください。』

○日って、今日よね。 明日からは給食なのよね。

ああ、 主婦って大変。 みんなすごいな。 外に出ている方が、わたしには楽かもしれない。

 

そうそう、お風呂だったわね。

わたしは居間に行き、TVのスイッチをつけた。

TV見るの?」 トランクスが尋ねる。

「ううん、 違うの。」 リモコンを操作すると、画面上にフロアマップが現れた。

このTVは普通に番組を見ることの他、重力室の監視、

そして現在 このC.C. どの部屋が使われているかを確かめることができるのだ。

さすがに監視カメラを設置しているわけではなくて、電力の消費などから判断する。

「いた いた・・・。」 ベジータは今、お風呂だわ。

それもシャワーじゃなくて、大きなバスルームを使っている。

 

「トランクス、今日はパパとお風呂に入るのよ。」 「えーっ? パパと?」

驚いた顔。 そうよね。 生まれて初めてだもんね。

居間を出て、トランクスと一緒にバスルームの扉の前に立つ。

ロックされているけれど、そんなものは簡単に解除できる。

さあ、突撃だわ。

「ベジータ。」 扉を開く。 

「・・なんだ。」 湯気の向こうに、体についた泡をシャワーで流しているベジータの姿。

自分で体を洗っている彼を見たのは、そういえば初めてかもしれない。

だって わたしと一緒の時は、いつも、まるで当然みたいに わたしが・・・

おっと、 いけない。

 

「ねえ、トランクスと一緒に入ってあげて。」

「なんだと?」

「もうね、シャンプーなんかも大体 自分でできるのよ。

 流し残しがないかとか、バスタブにちゃんと つかったどうかを見てあげてほしいの。」

早口で説明しながら、トランクスの着ている物を脱がせる。

「俺はもうあがる。 見てやるだけなら、お得意の監視カメラでも使えばいいだろう。」

「・・検討しておくわ。」

ムカッときたけれど、トランクスの前だから押さえる。

「ねえ、トランクス。 パパが歌ってた あの歌、どんなだったっけ?」

「えっ? えーっとね、 ♪〜〜〜

ギョッとした様子で、ベジータはこちらを見る。

「ねっ、 今日だけお願い。 きいてくれたら、決して誰にも言わないわ。

 あんたが料理だけじゃなくって、歌もとっても上手だってこと!」

入っていくよう、トランクスに目で促す。 次の瞬間、わたしは素早く 扉を閉めた。

 

 

くそっ、 あの女・・。

『一生のお願い』を何度もするタイプなんだ、あいつは。

イラついている間に トランクスは、さっさと湯で体を流してバスタブにつかる。

「パパ、 おれ、ちゃんとできるんだよ。」

「だったら一人でいいだろう。 俺は出るぞ。」

「待って。 あのね、おじいちゃんが言ってたんだけどね、

 一緒にお風呂に入るのはね、こみゅ、コミュ・・ えーと・・。」

「コミュニケーション。」 地球に来てから覚えさせられた言葉だ。

「そう! それ。 おじいちゃん、昔はすごく忙しくてね、あんまり家にいられなかったんだって。

 だからお風呂には家族と一緒に入ることにしてたんだって。」

「フン・・。」

「それでママはね、ずいぶん大きくなるまで おじいちゃんと入ってたんだって。」

「・・・。」  大きくなるまで、だと? いったい幾つになるまで・・。

いや、そんなことはどうでもいい。

トランクスはバスタブから出ると、椅子に腰かけて体を洗い始めた。

俺は仕方なく、入れ違いの形で湯につかった。

トランクスが また話し始める。

「おれは おじいちゃんと入ることが多いんだけど、ママやおばあちゃんとも一緒に入るよ。」

無視していてもお構いなしで、あれこれ 勝手に話しかけてきやがる。

その姿はかつての・・ 今もそうだが、こいつの母親、あの女にそっくりだ。

 

「ママってさ、おっぱい大きいよね!!」

「・・!」  な、なんだ、いきなり。

「おばあちゃんもだけど。 ママとおばあちゃんはよく似てるな。

 でも、おじいちゃんとパパは全然違うよね。」

当たり前だ。 

「パパの裸は、悟飯さんのにちょっと似てるね。」

思わず口から出てしまう。 「・・なんで、あいつの・・。」

「こないだね、悟天と遊んでたら 泥んこになっちゃって、お風呂に入れられたんだ。」

髪の毛を洗いながら、トランクスは続ける。

「悟飯さんが一緒に入ってくれたんだけどね、 悟天の奴ってばね・・。」

一旦 言葉を切ると、おかしそうに笑いだす。

「お母さんと入りたいよー、って泣いちゃったんだよ。 あいつ、ほんとに甘えんぼだなあ。」

おまえも、大差ないと思うがな。

「だけど そういう時には、寝る前にもう一度 お母さんと入るんだって。」

ようやく、シャワーを使って泡を流し始める。

 

「そうだ。 おじいちゃんたちが言ってたんだけど、

シャワーを止めてしまう。 「おい。 まだ、 泡が残ってるぞ。

「パパって、夜遅くなってから ママと二人でお風呂に入ってるの?」

「な・・・  」 

「いいなあ。 ずるいよ、二人だけなんて。 おれだって、一緒に入りたいよ。」

一緒に・・ だと・・・?

「パパ、顔 真っ赤だよ。 大丈夫? わあっ!!!」

髪や体に泡をつけたままで、トランクスはバスルームから飛び出して行った。

 

 

「ママ! ママ!! 大変!! パパが・・・。」

「えーっ、 なに? どうしたの?」

トランクスのパジャマとタオルを持ってきた わたしは驚いた。

トランクスは泡だらけだし、バスルームを覗いてみると・・・

「きゃーーーー!!」  ベジータが鼻から、真っ赤な血を流していたのだ。

「ちょっと・・ 大丈夫?! のぼせちゃったの?」

「うるさい! 構うな!!」

腰にタオルを巻いただけの姿で、鼻を押さえながらベジータは廊下へ出て行った。

 

「大丈夫かしら。 いつもなら、結構長い時間入ってたって平気なのに・・。」

つぶやいた わたしの一言に、トランクスは すぐさま反応する。

「やっぱりパパとママは、二人でお風呂に入ってるんだ。」

「え? ああ・・ まぁ、たまにね。」 

だけど 大抵の場合、ただ入るだけじゃないのよね。 あはは、と笑って誤魔化す。

 

「いいなー。 おれも一緒に入りたい。 今度、みんなで入ろうよ!!」

「はいはい。 だけど、その前に・・。」

裸足になって、ジーンズの裾を捲りあげる。

泡だらけのトランクスにシャワーを浴びさせるために、わたしはバスルームに入った。

まあ、とりあえず 目的は達成した・・ かな?  今日のところは。

第15話『下品な女』に続く